変身ヒロインっぽい子

@yukke32

第0話

冷たく暗い廃墟に一つ、ぼんやりと光を放つ機械があった。

筒状のガラスで出来た、入れ物のような機械に多数のコードが繋がれ、その中にはなにか特殊な溶液の様な水が満たされていた。


淡い光を放つ機械と溶液に満たされた入れ物の中に浮かぶ一人の少女が居た。

機械の底からゴポッと音を立て、少女の体を這うように足から腰へ、そして胸を通り過ぎた辺りで少女の指がピクリと動く。

溶液の中で揺らめく少女の髪をすり抜ける様に気泡が少女から離れた時、少女の意識はゆっくりと覚醒し、瞼がゆっくりと開かれたのである。


(....ここ、は?)


眠りから覚めたばかりの少女がゆっくりと首を左右に振り、自分がどの様な状況に居るのかの確認を行った。

記憶に無い場所である。

いや、そうではない。

記憶に無いのでは無く、記憶が無いのだ。


記憶が無い事を思い出した少女は溶液の中で自身の体をゆっくりと動かし

体に異常が無い事を確認すると眼前のガラスに手を伸ばした。

掌がガラスに触れた瞬間、ピシッと大きな音を立てながら前方に弾け飛んだのである。

ガラスが弾け飛んだ事で容器を満たしていた溶液が勢いよく外に流れ出し、全ての溶液が流れ切った頃に、少女もゆっくりと外に出る。


「けほっ...、まだ体内に残っている気がしますが...

それよりもまず、現状の把握ですね」


未だ纏まらない思考をあえて声に出し、自分がすべき事を確認しながら少女は廃墟の中を歩きだしたのである。


そもそも自分は何者なのか?何故こんな場所に居るのか?

何故自分は記憶が無いのか?


疑問が尽きる事は無いが、今私が出来る事はこの場所を調べる事だけなのだ。



自身の思考を整理した私はまず自分が入っていた機械を調べる事にした。

そこで気づいたのだが容器が割れた事で機械が停止したのか、ぼんやりと放っていた光は消え、廃墟内は光一つ無い闇に包まれていたのである。


「ふむ..困りましたね。何か灯りになる様な物は...」


そう言いながら目を細めつつ周囲を見渡すが辺りは薄暗く、求めている物があるかどうかすら分からない状況に少女はため息を一つ付いたのであった。










少女が薄暗い廃墟の中を短くない時間探索した結果、懐中電灯を見つけた少女はその灯りを当てに廃墟を探索する事にした。

そして数枚の資料の様なものを見つけたのであった。


「私自身の情報を見つけたのはいいですが...これはにわかには信じがたいですね」


少女が愚痴の様に呟いた一言は廃墟内で見つけた資料の内容にあった。

資料と言っても資料であったであろう焼け焦げた紙の一部を読んだだけであったが内容を見ると微妙に無視出来ない内容だったのだ。

読めた部分を纏めるとこの内容だ。


・この廃墟は人口変身ヒロインを作る研究施設だった

・人口変身ヒロインは全員で5人居る

・人口変身ヒロインにはそれぞれ特殊な能力がある

・人口変身ヒロインは正義の為に行動させるべきである


「....正直出来の悪い小説でも見ているかの内容ですが、思い当たる節がある以上端から捨て置くのはいけませんね..。」


少女は自分の考えを纏める様に声に出して歩き出し、最初に自分が入れられていた容器の前に立ったのである。

最初は気づかなかったがよく見ると自身が入っていた容器の他に4つ..

全部で5つの容器が並んでおり、その全てが破損していたのであった。


少女が見つけた資料の内容を見て馬鹿に出来ないのには理由が二つあった。

まず一つ目が容器の破損だ。


自分の体に目を落とすと控えめに膨らんだ胸に細い手足、自分の目線の高さから恵まれた体格という訳でもない少女の体なのだ。

そんな少女が大して力も入れずにガラスの容器を破壊したのである。

自分の名前やなぜここに居るかの記憶は無いが一般的な常識はなぜか残っている

そしてその一般的な常識の中に、自分の様な少女がこんな力を持っている訳がないと訴えかけているのである。

そして二つ目の理由が....


「何故こんな事が出来るのかまるで理解出来ませんが..そういう事なんでしょうね」


そう愚痴る様に少女が掌を見つめると、少女の掌から拳程の大きさの火の玉が浮かび上がり、周囲を明るく照らしていたのであった。

少女はため息を付きながら火が消える様に念じると浮かんでいた火の玉はゆっくりと小さくなり、やがて完全に消えて廃墟内にまた暗闇が戻る。



もうこれ以上は調べても無駄だろうか

そんな事を思いながら手に持っていた懐中電灯の明かりを容器に当てると何か文字の様なものが見え、おもむろに少女は近づき目を凝らしてみる。


「No.0...ですか。隣の容器は..No.2?その隣は3...0の次は2...なぜ1がないのでしょうか...と考えても仕方ありませんね」


少女は考えを切り上げ、ゆっくりと歩きだす。


「記憶がない以上、誰かを当てにする事も出来ませんし..そういえば名前が無いのも不便ですね。No.0...ふむ、安易ですが零(レイ)とでも名乗っておきましょうか

とりあえず近くの..人が多そうな所で情報でも集めましょうかね」


直近の目標を決めた少女..零は揺れる薄いピンク色の髪の毛を視界に入れながらゆっくりと出口へと歩き出し、自身の事を知るために人を探す為に外へ向かう。






尚、零が衣服を一切纏っていない事に気づくのは少し後の事であった。

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