第14話:ブリキノダンス
『いくZE! 九龍ジャンケェン……ジャンケン、PON!!』
古びたラジオ機器から、街に似合わない陽気な声が聞こえてくる。陽気な声の掛け声とともに、ラジオを聞いている人物は何も考えずに手を固く握りしめる。暫くそうしていると、またラジオ機器から陽気な声が聞こえてきた。
『オレッチはァ……パーを出したZE!』
瞬間、聞いていた人物の眉が思いっきり顰められた。と、同時に部屋の扉がノックなしに開けられる。
「お疲れ様っすボス。ちょっと報告が……って、何してんすか」
「……」
部屋に入ってきた来客者は、ラジオを聞いていた人物の顔を見て訝しげに尋ねる。だがその問いに答えることは無い。
『今日も1日ィファーイだZE!』
妙にファンキーな締めの言葉がラジオから聞こえてくると、そのまま放送は終了した。その場を静寂が支配する。
「……チッ」
「まさかボス、例の九龍ジャンケンやってたんすか」
「……」
ボス、と呼ばれた人物は何も答えない。しかしそれをあえてぶち壊し、来客者は再び問いかけた。先ほどから無視されていることに対し、仕返しのつもりでおまけとして、軽くにやりと笑いながら。
「もしかして……ジャンケン負けたんすかぁ?」
「燃やす」
直後、部屋は生きた炎の海と化した。
【第14話:ブリキノダンス】
ここは
そんな治安もクソもない街には、とある4人の絶対的な権力者が存在している。雑貨屋の店主、大衆食堂の女将、賭場の支配人、街の管理局局長。彼らは圧倒的な権力を以てして、街のすべてを掌握し、支配している。ある命知らずな連中が無謀にも彼らに革命を起こさんと襲撃を企てたが、その直前でなぜか全員、行方はおろか、存在したという痕跡すら消されているということがあった。そのほかにも次々と彼らに歯向かおうとした者たちは、漏れなく全員が不審な終わり方を遂げている。それもこれもすべて、絶対的な権力者たちによるものと考えられている。そうしてやがて人々はその権力者4人を、敬意と恐れの意を込めて、四皇と呼ぶようになった。
◇
「オーウなんか塔の上燃えてね?」
街のどこかに存在しているとある店。その店の中でいつもの通り開店準備を進めていたところ、部屋にあった窓からなにやら気になるものが視界に入る。視線の先には、街で一番高い塔、市の管理局が入る
「……あの方ですか」
「しかいねぇだろ。何やってんだあの野郎」
いまだごうごうと収まる気配を見せずに燃え続けている塔の上を見続け、次第にそれに飽きたのかあきれたのか、店主と思しき人物は懐に入れていた煙管を取り出し煙草を入れ、それに火をつける。紫煙をくゆらせ、付き合いきれねぇとだけ吐くと、さっさと自らの仕事に戻っていった。どうやら面倒だと判断したらしい。もうひとりもこれ以上は時間の無駄だと続いて仕事に戻ることにした。
しばらく作業をしていると、ふと急に店主と思しき人物が椅子に雑に座りながら口を開く。
「そーいや
「ああ、すべて綺麗にしましたよ」
その返答に、質問を投げかけた主は、きょとんとした顔を浮かべたものの、その後すぐににやりと笑う。
「上出来」
それだけ言うと今まで座っていた椅子から立ち上がり、うんと背伸びをして時間だと気づいたのか、扉の前の掛け札をひっくり返す。
「さてと。本日もヨロヅノカラクリヤ───開店と相成りまっせ」
煙管をカン、と鳴らして灰を落とすと、雑貨屋の店主───
◇
例えば、ある地区のライフラインが消え、生存率が一時期50%を切ることになっていたり、またある地区ではなにかしらの攻撃によって、かなり大きい穴がぽっかりと地面に開いていたり、また別の地区では、どういうわけかとある食堂の上に不気味な黒い塔が聳え立っていたりと、きりがないレベルで影響が出ているのだ。
その影響を放っておくわけにもいかないと、流石に四皇も思ったようで、
「なんか今日めっちゃくちゃ元気な気がするー」
「───♪」
街唯一の教会で、シスター服を着た四皇のひとり、
「見てよ
そういって
「ベッド行こっか!」
「───!」
つぎはぎだらけの体を顕わにし、2人は教会の奥のひとつの部屋に入っていく。彼らがその後部屋から出てきたのは、実に14時間後のことであった。
◇
所は変わり、大衆食堂
『YO! オレッチの出番だNA!』
しばらく待っていると、突然陽気な声がかなり大きめの音量でラジオから流れてくる。それが耳に入ると、女の笑顔はさらに濃いものとなる。どうやらこの陽気な声を待っていたようだ。そわそわと体が揺れ動く。
『HEY、準備はいいNA? それじゃあ……いくZE!』
声に合わせるように女と隣にいる人物は手を構える。
『九龍ジャンケェン……ジャンケン、PON!!』
その時、女の手ととなりの人物の手は合致する。
『オレッチはァ……パーを出したZE!』
「あら、勝ったわ」
「……でしょうよ」
その後、ラジオからは妙にファンキーな締めの言葉が流れ、コーナーは終了した。新しいニュースが流れるラジオの前で、女はニコニコと笑い、となりの人物に声をかける。
「ジャンケン勝ったし、お店の復旧進めよか。
「……そうですね、よろしくお願いします女将」
四皇のひとりであり、騒動を引き起こした元凶とも呼べる女将、お弓は上機嫌でラジオを消して仕事を始める。それに続いて彼女の補佐である
彼らがジャンケンで出していた役、それは
一連の騒動が終わり、しばらくした後。床に伏していたお弓の状態は日を重ねるごとに快復していき、ついには今までと変わらないくらいに動き回れるようになっていた。補佐である
そしていざ仕事を再開しようと店に戻ってみたものの、あれだけ暴れまわったせいで店は半分崩壊し尽くされており、へたをしたら跡形すら残っていないようにも見える有様と化していた。屋根はない、設備もボロボロ、そこら中にヒビが入りまくり。とにかくひどかったのだ。流石にこれでは仕事どころではない。そう確信したお弓はまず最初に建物自体をどうにかしようと決め、惨状の跡片付けから始めることにした。
思想リンクも手伝ってくれているのか、片づけは割と早くに終わることができ、次なる課題は屋根の修理であった。これに関しては自分たちではどうすることもできない問題なので、専門の業者に発注をかけているのだが……
「来るんあと3日後、かあ」
業者も騒動の飛び火を食らっているようで、首が思うように回らないらしい。流石の四皇からの依頼といえど、他の依頼を後回しにできるほど余裕はないようで、到着は早くて3日後だと言われた。つまりはそれまで屋根のない場所で暮らさざるを得ないらしい。いくら
「どないしよ……」
ちょうどいい答えや案を持ち合わせているはずもなく、
「あ、もしもし
『唐突に何を言っているんだ。貴様らが店に戻って数日は経っているだろう。それまでどうやって暮らしていたんだ』
「病院のベッドで寝とったんやけど、さすがにもう無理です言うて追い出されてもうたわ」
『貴様らな』
「局長サマはウチらを見捨てへんやろ? な?」
どうやら相手は四皇のひとり、市の管理局局長である
「なーぁ、
『……』
「住まわしてくれる言うんなら、詳細ばら撒くんはやらんよ? やけど、ほんでも断る言うんやったら……わかるやろ」
けらけらと笑うお弓。それに根負けしたのか電話口の相手は、長く深いため息をついて口を開く。
『……壊してくれるなよ』
「話早くて助かるわぁ! ほな荷物まとめてそっち行くわ、部屋あけときぃ」
言いたいことを言って満足したのか、お弓は返事を待たずに電話を切る。そしてくるりと
「荷物まとめて
瞬間、
◇
「あ、ども。頂上はボスが燃やしちまったんで、その下の階の部屋どぞ」
「……燃やす?」
「ジャンケンに負けたらしいっす」
「アホやのー」
食堂の2人が
「まーとにかく。しばらくゆっくりしてけばいいっすよ。まだ街も完全に復興したわけじゃないすからね。色々と忙しくてあんまし手伝いとかできねっすけど」
「ええよええよ、美味いもん食い尽くせたらええねんから」
「お弓サンから聞くと洒落にならない気がするんすけど」
「洒落にならないから」
「っすよねえ……」
2人を案内しながら
「ついたっすよ。ここっす」
しばらく歩いていると、ひとつの大きな部屋に通される。その部屋に入るなり、お弓は手にしていたカバンからとあるもの───フライパンを引っ張り出し、にこにこしながらそれを振り回す。そして彼女は笑顔で
それは彼女にとってのお祭り、他四皇や補佐達にとっての戦争を意味する物。
「他の四皇集めて、ぱーっと軽くバトルでもしよか。武器は全員フライパンな」
最初言われた時全く理解できなかったものの、次第に言葉が溶けていくと、
「勘弁してくれっす!!」
人権と尊厳以外なんでもある街、
今日のイベントは、四皇全員による、仁義なきフライパンバトルだ。
9龍/四廃者達 ・ 結
9龍/四廃者達 サニ。 @Yanatowo_Katono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます