ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

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ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

アガレス王国暦260年、偉大なる皇后様が病気で60歳のお年で亡くなられた。


若き日は公爵令嬢として派閥争いを仲裁し、王妃になられた時は国内外の情勢を見極め、内政や外交に精力的に関わり王国のために尽力しました。


王子を二人と王女一人を産み、夫である皇王が子供に王位を譲った後は、離宮にて国内の貴族のバランスを取りながらゆっくりとした時間を過ごしていた矢先の事であった。


夫である元皇王も、愛する妻を最後まで看病していたが、遂にお別れの時が来たのだった。


「…………あなた、私は幸せでした。若い時は戦争や飢饉災害などで苦労もしましたが、最後は愛するあなたや、子供達に見守られて逝く事ができます。私は先に旅立ちますが、あなたは最後まで頑張って生きて、子供達や孫達を見守って下さいね……………」


夫は涙を流しながら必死に頷きながら手を握った。


「…………ありが……とう…」


ゴーーーン!!!!

ゴーーーン!!!!


その日、王国の王都では偉大な皇后様が亡くなったという鐘の音が鳴り響き、王都の民や貴族達までもが悲しみに暮れた。


そして亡くなる者もいれば新しく生まれる者もいる。


アガレス王国の辺境にある男爵家にて、新たな生命が生まれた。


「よくやったぞマリア!大丈夫か?」


オギャー!!!!

オギャー!!!!


男爵夫人は元気な女の子を出産していた。


「フフフ、これで二人目ですもの。大丈夫ですわジーク」


去年長男を出産し、今は女の子を産んだのだ。


「名前はもう決めてあるんだ。皇后様がもう長くないという噂だ。恩ある皇后様を忘れないよう皇后様の名前を貰い『シオン』と名付けようと思う」

「まぁ、シオンは皇后様の名前に恥じ無いように育てなければなりませんね」


愛おしそうに赤ちゃんを抱く母親は優しく撫でた。

そして、当の赤ちゃんは──


『はて?わたくしは死んだので無かったかしら?目もぼやけて良く見えませんわ?』


しばらく観察して自分が生まれ変わった事を知った。


『なるほど、ここは辺境の男爵家で、私は長女として産まれたのですね。どうしてこうなったのかわかりませんが、前世では忙しく生きていましたし、今世ではのんびりと過ごすといたしましょうか』


こうして前世と同じ名前を付けられたシオンは辺境のスローライフを楽しむと決めたのだった。



あれから5年の月日が流れました。


「アイシクル・ランス!」


森の木々に氷の氷柱が突き刺さった。


「ふむ、前世と同じ属性を受け継いだようですね」


この世界は各自、属性というものがある。


【火】

【水】

【土】

【風】


基本属性に


【光】

【闇】


などの特殊な属性がある。


生まれながら相性の良い得意属性があり、魔法を勉強する者は自分の得意属性を見つけて訓練するのである。無論、得意属性でない別の属性も学べば覚えれるが、倍の努力しないと結果がでないので、多くの者は得意属性を伸ばそうとするのだ。


あれからシオンは、アガレス王国の東に位置するイージス男爵家の令嬢に生まれて、1歳年上の兄ペルセウスと一緒に勉学に励んでいた。


「正直、辺境と言って失礼ながら舐めてましたわ。しっかりとした教育が行き届いていますわね。…………安心しました。私の政策は間違っていなかったのね」


過去の国全体の識字率を底上げする為、色々と政策を考えていた時の事を思い出していた。


「おーーーい!!!!シオン~?どこだーーー!!!!」


シオンを探している声が聞こえてきた。


「ここですわ~」


いけないわ。私はもう男爵令嬢なのですから、身の丈にあった生き方をしなければ。


「あっ、ここにいたのか?今日は出かけるから早目に戻るように言われただろう?それと森の奥には一人で行ってはいけないよ?」


呼びにきたのは兄のペルセウスだった。


「そうでしたわ!大変申し訳ございませんでした」

「シオンは真面目だな。家族なんだからそこまで丁寧にしなくていいんだぞ?」


あら、私ったらそんな風に見られてましたの?


「ペルお兄様、すみません。善処致しますわ」


ペルセウスはヤレヤレと言った感じで、シオンの手を繋いで戻った。

あら?こういう風に手を繋いで歩くのも悪くはないですわね♪


この時シオンは、前世ではできなかった体験に胸を躍らせていた。

屋敷に戻ると父ジークと母マリアが待っていた。


「こらシオン!一人で森に行ってはダメだぞ?せめて誰かと一緒に行くようにな?」

「はい、気を付けますわ。ごめんなさい」


そう言って話を切り上げると、用意してあった馬車に乗り込んだ。


ガタゴトッ

馬車に揺られながら父ジークが話した。


「さて、前から言っていたが、シオンが5歳になったので【洗礼の儀式】に向かう」


この国では平民も漏れなく、5歳になると自分の得意属性を見極める洗礼の儀式を教会で受ける事になっている。


「ペルセウスは火属性だったからな。辺境の魔物と戦うには丁度よい」

「私としてはシオンには水属性が得意属性になってくれると嬉しいわね♪」


お母様、それはもう確定しておりますよ?


「そうですね」


貴族の女子として水属性や風属性が好まれる傾向にある。逆に戦闘に役立つ魔法の多い火属性や土属性は男性に好まれた。

まぁ、好まれるという風習があるだけで、どの属性も上下がある訳ではないのだが。


教会に着くと、この辺りの5歳になる子供達が集まっていた。


「今年は少ないな?」

「そうなのですか?」


例年はどれくらいいるんだろう?

少し待っていると神官さんがやってきて、順番に儀式が始まりました。

平民が先で貴族は最後だそうです。


辺境ともあり今回の貴族は私のみとの事。

私の番になり、奥の部屋で儀式を受ける事になりました。


「頑張ってねシオン!」

「はい!いってまいります」


とは言っても神官様のお話を聞いて、奥の水晶に手を置くだけなんですけどね。


「大変お待たせ致しました。私はこの教会の神父で【ルネ】と申します。こちらの方は旅の司祭様で、本日は一緒に洗礼の儀式を担当致します」


ルネさんは細身の中年で、後ろにいる方はフードを被っていたが、白いヒゲをフサフサと蓄えている老人だった。

年功序列なのかしら?


旅の司祭の方が位が高そうであった。


「ではこちらに」


そして神父さんに言われて、水晶に手を置きました。

すると、ピカーーー!!!!と、眩い光が発生しました。


「こ、これはいったい…………」


神父さんも手で目を覆いながら戸惑いと驚きの声を上げました。


「シオン!無事か!?」


この光に驚いて家族が飛び込んできた。


「大丈夫ですが、何がなんだか…………」


『お騒がせして申し訳ありません。私はこの国の守護精霊アリエル』


急に空中に翠色の髪の長い美しい女性が現れた。


!?


このアガレス王国の国教にもなっている精霊教が崇める神様じゃないですか!

みんなが固まっていると、アリエル様が続けた。


『シオンはさぞ驚いたことでしょう。5年前に亡くなったシオン皇后の功績を称えて私が、転生させたのです』


!?


この方の采配だったの?


「えっ?アリエル様、どういう事でしょうか?」


家族には秘密にしてましたからね~


「えっと、ごめんなさい。実は死んだシオン皇后様の記憶があるのです」


「「えっ?」」


『シオン皇后のお陰でこの国は救われました。その御礼をしたかったのです』


「いやいや!たいした事はしてませんから!それに夫である皇王陛下のおかげですよ?私一人の力ではありません」


『そういう謙虚な所も好感が持てますね。ここにいる者達は関係者ですので真実を語りましょう。40年ほど前にこの辺境で火山が噴火しました。その原因は火山で眠っていた古龍種・火炎龍フレイムが目覚めようとした事が原因でした』


!?


「火炎龍!?」

『完全に目覚めるとこの国は滅んでいたでしょう。私は持てる精霊力を使い、再度眠らせる事に成功しました。しかし、それで力を使い果たしてしまいました。火山噴火により、この辺りに【火山灰】が降り注ぎ、作物が全滅したのは記憶に残っているでしょう』


「オレ達が産まれる前の事だが、親父達から何度も聞いたよ。未だに農作に向かない土地が人手不足で手付かずになっていますので」


『力を使い果たした当時の私には、土地を浄化する力が残っていませんでした。しかし、当時のシオン王妃はこの辺境の地に多大な援助をしてくれました。的確な土地の開墾や数年は収穫の見込めない辺境に食料の提供などをして、この辺境は大きな混乱もなく立ち直りました。土地を守護するものとして御礼を申し上げます』


あらあら?照れますわ♪


『照れないで下さい。これは私の為でもあったのです』


心を読まれたーーー!!!!

ガクブルッ


『私の力の源は信仰心です。シオンのおかげで人心が離れず、私の力も想定より早く力が戻ってきました。だからその御礼です。第二の人生をどう生きるのかはあなた次第です』


「ありがとうございます。アリエル様」


素直にシオンは頭を下げた。


『最後に、屋敷の裏の森を探索してみて下さい。良いものが見付かるはずですよ♪』


良いもの?なんだろう???


『では良い人生を!偉大なるシオン皇后の魂に精霊の祝福を!』


またパーーーっと眩い光に包まれると辺りは静かになっていた。


シオンの指にはアリエル様の力の込められた【指輪】がはめられていました。


「ま、まさか守護精霊様にお会いできるとは…………」


神父さんはブルブルと感動していた。

そして、私の家族もしばらくは呆然としていたが、我に返るとシオンに詰め寄った。


「さてと、シオン色々と話してもらうぞ?」


これは………正直に白状するしかないですね。

シオンは観念して生まれ変わった事を正直に話した。両親と兄様は大変驚いて口から魂が出ていましたわ。


「まさか守護精霊アリエル様の加護とは………実は私の夢枕に神託が降りたのです。本日の洗礼の儀式で何かが起こると」


白ヒゲのお爺さん司祭はフードを取って頭を下げた。


「お久し振りです。覚えておいでですかな?ワイズです」


!?


「あっ、まさか【ワイズ教皇】様ですか!?」


シオンが叫ぶとワイズはニッコリと笑った。

シオンの家族はギョッとまた固まってしまった。


「もう引退しております。今は別の者に教皇の位を譲り、身体が動く内に色々と見て廻っているのですよ」


カカカッと笑う姿は好感が持てる姿だった。


「アリエル様の言う通りですね。私の事がわかるという事は、シオン皇后様で間違いない!またお会いできて嬉しいですぞ!」


ワイズ教皇様は、近年稀に見る素晴らしい聖職者で、教会の腐敗を防ぎ、貧民の為に炊き出しを自ら行い、孤児院の援助にも積極的だった。

そしてそのカリスマ性も凄く高く、彼を慕う者は多かった。


それから少し長い間、話し合いまたお会いしましょうと言って帰っていった。


神父さんには口止めをして帰りました。下手に言い触らすとアリエル様から罰がくだりますと言ったら激しく首を振って頷いてましたね。

うふふ。


家に帰ってから家族とも長い間話し合いました。


「私は前世の記憶があるとはいえ、私はまぎれもなくお父様とお母様の娘です。お兄様も含めて大切な家族だと思っています」


「…………そうだな。いくらシオン皇后様の記憶を持っているとはいえ、お前は私達の大切な娘に変わりはない」


こうして改めて家族としての絆を確かめるきっかけになりました。


「今世では前世の知識を活用して、大切な家族の為に裕福な生活を送れるよう頑張りますわ!」


慎ましい暮らしも結構ですが、お金はあっても困りませんからね♪


「そういえばアリエル様が裏の森に行けば良いものが見つかると仰っていましたね」


精霊様の言葉を信じますか!


翌日、お父様は仕事があるので、お母様とお兄様の三人で裏の森の探索に出掛けました。


「昔はここにも火山灰が降って植物が枯れたのよね~」

「こんな所までですか!?」


うちの屋敷は辺境の地でも中央寄りなのですが、本当に広範囲に降ったのですね。


「でも木々ばかりで何もないね?」

「そうね~あるのは草ばかり。アリエル様は何があると言ったのかしら?」


確かに生い茂る草ばかりね…………うん?


なんだろう?昔に、前世で見た事があるような……?


シオンは目の前の草を抜いて、ジロジロと観察してみると──


「これですわーーーーーー!!!!!!」


大声で叫んでしまった。


「びっくりするだろ!その草がどうしたんだ?」

「これは薬草ですわ」


お母様も観察すると首を傾げた。


「確かに似ていますが、いつものポーションになる薬草とは違っているわよ?」


そうでしょうね。いつもの薬草とは違いますもの♪


「ええ、そうでしょう。これは上級ポーションの原料になる上級薬草ですわ!滅多に自生しているものには、お目に掛かれない品物です」


!?


「えっ!?この雑草が?」

「ええ!確か、標高の高い所にしか生えないので、普段は冒険者に頼んで採ってきてもらうんです。王妃時代に献上されたのを見た事があります」


ざっと見渡して、ここに生えている上級薬草だけでも一財産ですわ♪


「これがアリエル様の贈り物なのか~」


お兄様が目を輝かせて言ったが、私は首を振った。


「お兄様、確かにここにあるものでも一財産ですが、アリエル様はもっと別の事を仰っているようですわ」


シオンの言葉に二人は首を傾げた。


「この上級薬草の意味は、火山灰の土地でも栽培できるって事を言いたかったのだと思います。多分、標高の高い所でしか生えない上級薬草が、平地で生えたのは火山灰の成分が関係しているのではないかしら?これは学者に調べてもらわないといけませんが、手付かずの土地で栽培できないかやってみませんか?」


「育てると言うの!?」


「ええ、男爵家の一大プロジェクトになりますわ!成功すれば我が領地の特産品になります!他家が真似しようにも、火山灰が降った当家や隣接する辺境の領地しか栽培できないのですから、独占販売できますわ!」


喜々として語るシオンにペルセウスは少し引き気味に聞いた。


「シオン皇后様は本当は商人だったのでは………?」


兄の言葉にシオンは開き直って言った。


「言い得て妙ですわね!国王様や王妃様なんて商人の胴元みたいなものですわ!民から税を集め、道を整備し、貯水池など作り、より多くの税を集められるようにするのがお仕事ですもの!」


なんて身も蓋もない事を言うのだろうか………


呆れて何も言えなくなる母と兄であった。



「最近、堅苦しい喋り方は治ってきたけど、急に子供っぽくなったな?」

「う~ん?実感はないのだけれど、ようやく魂が年齢に適合したのかしら?」


「まぁまぁ、お母さんは良い事だと思うわよ?二人とも年齢の割に甘えてくれないから寂しいと思ってたしね」


母の言葉にシオンが声を上げた。


「えっ!?お兄様も前世の記憶がっ!?」

「そんなわけあるか!」


アハハハハ!と、和やかな笑い声が響いた。


この時、辺境の男爵家は思ってもみなかった。

上級薬草の安定栽培が周囲にどれだけの影響を与えるのかを。




─とある一室にて─


「久しぶりじゃな。元気にしていたか?」

「はい。突然の訪問、申し訳ございません先王カイル様」

「堅苦しい挨拶はよせよせ!ワシとお前の仲ではないかワイズよ」


先王カイルは手を振って久々の旧友との再会を喜んだ。


「それで、突然どうした?聞けば国内各地を精力的に廻っているというではないか。何かあったのか?」

「はい。正直、お伝えしていいのか悩みましたが、1つお約束をして頂けるなら親友であるカイルに、嬉しい報告ができそうです」


カイル先王は首を傾げた。


「少し前にこの国の守護精霊アリエル様が夢枕に現れ啓示を下さりました。辺境の地の洗礼の儀式で何か起きると」


!?


「それは大丈夫だったのか!?もう洗礼の儀式は終わっておるじゃろう!」


元教皇であるワイズが世迷い言を言う訳がないと知っている先王は何があったのか尋ねた。


「…………これから何があったのか説明する前に約束して下さい。騒ぎ立てないと。とある人の人生が掛かっておりますので」

「それほどの事か。わかった。約束しよう」


一呼吸おいて洗礼の儀式であった事を話した。


「お、おおおぉ……………」


先王カイルは号泣していた。

そう、シオン皇后の夫だった人だからだ。


「わ、ワシが国の為に尽くしていた事はムダではなかったのじゃな?ワシが国を治めていたときは、隣国との戦争や自然災害に悩まされて、ろくに妻であるシオンを旅行にも連れて行けなかった………妻は幸せだったのじゃろうかと…………」


「何を言っているんですか。シオン皇后の最後の言葉を思い出してください!死に際の者があんな感謝の言葉を残すわけないでしょう?あなた達の行ないはちゃんと守護精霊アリエル様が見ておられたのです。胸を張って下さい!」


先王は泣きながら何度も頷いた。

しばらくして落ち着いてから尋ねた。


「ワイズよ。その、会う事できぬのか?」

「最初に約束して頂いたはずです。騒ぎ立てないと、新たな命を授かったシオン皇后様は静かに暮らすのをお望みですので」


「頼む!ならば、お忍びでワシ一人で向かうのはどうじゃ!?」


ワイズも必ず逢いたいと言うのはわかっていた。


「そう仰ると思ってましたよ。ちゃんと辺境へ視察に行く事を他の者に伝えて下さいね。数名の護衛を伴って行くとしましょう」

「感謝する!」


先王はただ生きているだけで、抜け殻のように過ごしてきた。しかし、今の目には力強い意志と生命が宿っていた。


そして時をおかずに先王はワイズと数名の護衛を伴って辺境の男爵家へと旅立った。


「父上が辺境へ視察?」


息子であり現皇王は報告を受けて首を傾げた。


「はい。旧友である元教皇様が訪ねられて、一緒に出掛けられました」

「あの父上がな………」


母上を亡くしてからただ遺言に従い生きていただけの父上が急に視察とは………


これは何かあると思い、配下の者に指示を出した。


「念のため足取りを追ってくれ。ワイズ殿がいるのであれば悪い事ではないと思うが、護衛が少ないのであれば盗賊など危険だからな」


すぐにその場を後にした部下を見送った後、公爵位を与えられた弟がやってきた。


「兄上、親父が視察に出掛たというのは本当か?」


現アガレス王家はシオン皇后のお陰で家族仲が良好である。王位を巡って兄弟で争う事なく、協力して国をまとめているのだ。


「耳が早いな。私も報告受けたばかりでな。念のため後を追わせた所だ」

「親父、大丈夫だろうか?」

「ワイズ殿が同行しているのだ。多分、父上を元気付けようとして連れ出してくれたのだろう」


幼い頃、災害などで父と母が苦労している所を見て育った兄弟は、父親と母親を尊敬し敬愛していた。そして母を亡くして元気の無くなった父親が元気になればと、願わずにはいられなかった。


辺境の男爵家にて──


「お久し振りです。ワイズです。シオン皇…ゴホンッ、シオンお嬢様にお客様をお連れ致しました」


応接室に通されると、やってきたシオンは息を呑んだ。


「か、カイル………?」

「シオンなのか?本当に?」


二人は見詰め合うばかりでしばらく言葉もなく、動けなかった。

そして少ししてから先王から話した。


「正直、信じられないのじゃ。少し質問してもよいかのぅ?」

「ええ、何なりと」


幾つかの質問を繰り返して、二人しか知り得ない質問に答えた事により先王カイルもようやく信じることができたのだった。


「まさか守護精霊アリエル様がこんな事をしてくれるとは。病気を治してくれればよかったのにのぅ」

「こら!不敬ですよ?こうしてまた逢えただけでも奇跡なのですから感謝しませんと」


二人は和やかな雰囲気で会話を楽しんでいたが、応接室で空気になっている父と母がいました。


元教皇様が先王陛下を連れてくるとは思ってもみなかったのですから。


「本当に、御主の遺言通りに長生きしてみるもんじゃな」


じんわりと目に涙を溜めながら、しみじみに思った。


「そうだわ!ちょうどよかった。ワイズ様も聞いていたと思うけど、裏の森にアリエル様が仰っていた宝物が出てきたの♪」


シオンは上級薬草を目の前に出した。


「これは上級薬草……ですか?」

「そうなの!高い標高でしか生えない上級薬草が、火山灰の影響で、平地で生えていたのよ!これからこの上級薬草の栽培を大規模に行おうと思っているのよ!」


!?


シオンの話にワイズ様が興味を抱いた。


「それは素晴らしい!上級薬草が安定して市場に出廻れば、今まで救えなかった者達が救われるようになります!」

「なるほどのぅ?それを行う為に、専門家の派遣と資金援助、後は労働者の斡旋をして欲しいという事じゃな?」


「流石ね。その通りよ。上級薬草なんて滅多にお目に掛かれないから、辺境の民にはただの草にしか見えなかったのよね」


「それなら、しばらくは秘密にしてこの男爵家が王家の承認の元で栽培と販売を手掛けるのが良かろう。そうしなければ、民やゴロツキが周囲に生えている上級薬草を根こそぎ奪っていくじゃろうからのぅ」


「それが良いわね。高級な物が道端に生えているとわかるとパニック状態になるからね」


ここで空気だった父親が遠慮がちに意見を言った。


「それなんですが、我が家の裏の森には大量に生えているのですが、他の所にはほとんど生えてない事がわかりました。原因はわかっておりませんが………」


「それも専門家に調べさせるとしよう。シオン、本日は泊まっていっても良いかのぅ?」

「ええ、ぜひ泊まっていって下さい。明日はこの地域を案内しますわ」


男爵家はそれほど裕福ではありませんが、それなりの屋敷なので客室には余裕があります。


両親は緊張していましたが、晩餐でこの地方の地酒を勧めると、先王やワイズ様はとても気に入った様子で話が進みました。



次の日になり、シオンは約束通りにこの周辺の案内をしました。


「すでに火山灰の影響は殆どないのじゃな」

「普通の草花は生えますが、食べられる作物を育てる農地は少ないのです。これも援助はしていても、民は暮らしやすい隣の領地へ逃げてしまったのです」

「そうか、ただ支援するのではなく、民がここで暮らして行きたいと思う土地にしなければならぬのじゃな」


「それはこの地の領主の仕事ですわ。カイル先王は気にしないで下さいまし」


シオン達は周囲が見渡せる丘の上に来ていた。


「シオン、ワシはずっと聞きたかった事があるのじゃが………」

「なんですか急に?」


先王は一呼吸置いてから話した。


「生前、戦争や自然災害で忙しく大切な妻をろくに旅行にも連れて行けなかった。もっと二人の時間を大切に作れたのではと後悔していたのじゃ。正直に答えて欲しい。シオンは幸せじゃったか?」


少し考える様に答えた。


「ふふふっ、バカね。幸せだったに決まっているじゃない!子供達も立派に育ってくれたし、貴方は側室も持たずに私だけを愛してくれた。大切にしてくれたもの。最後まで幸せだったわ」


座って先王の胸に顔を埋めて言った。


「そうか…………ありがとう」


夕日が二人の影を作り、いつまでもその余韻を感じていた。




先王カイルが帰ってからと言うもの、シオン達は大変に忙しくなった。

上級薬草の安定栽培に3年の歳月を掛けて成功させ、その間に先王カイルがこの辺境に、療養の為にという、もっともらしい理由で引っ越してきたり、現皇王が先王の行動からシオンの存在を知り、訪ねてきたりと大騒ぎであった。


そして上級薬草の栽培に成功した恩賞として陞爵して、伯爵位を頂きました。


それはシオンを王族へと嫁がせるには最低でも伯爵位が必要と現皇王の思惑がありました。


先王は静かに暮らしたいというシオンの想いを否定すると息子である皇王を怒ったが、秘密にしていた後ろめたさがあったため止める事ができませんでした。


子供達も母親に逢いたかったのですから、その気持ちを否定できなかったのです。


それに嫁いてくれれば一緒に居られるし、王家の秘密を知り尽くしている人物を野放しにはできないという事情もありました。


そして、シオンが13歳になると王国の貴族が通う魔法学園に入学する事になりました。


すでに前世でマナーは完璧なため、他の令嬢から一目置かれる存在となり、高位令嬢に目を付けられたり、孫が婚姻を迫ってきたりと、波乱万丈の生活が待っているのはもう少し後からのお話です。




あれ?私のスローライフはどこにいきましたの~?


前世より忙しいのですけれど!?


元皇后シオンの受難は続くのであった。






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