第6話 S
「ええっと、それはですね……」
ブチ犬は言いにくそうに、
「捜査員が出入りしている所を見られたくないそうで……」
解決するまで
入るなら、それなりの覚悟をして来いと脅しにもなっている。うまく証拠をつかんでも、出たければと、証拠隠滅の交換条件に使われる可能性もある。
なるほど、それが俺を公式に呼んだ理由か。
俺との連絡が途絶えたら、県警だけでなく本庁を動かして捜査員たちと駐屯地に乗り込むことができる。
なんてったって俺は捜査一課の
非公式なら行方不明者扱いになるだけで、七年後に
ブチ犬は本当に頭のキレる男だな。しかし、それならば事前に相談しろよ。
店員が見ているので口には出さないが、思いっきり不満を顔に出す。
ブチ犬は見慣れたその顔に肩をすくめただけで、トランクスを三枚、カゴに放り込んだ。
なんで俺様のサイズを把握しているんだ⁈
俺がレジでセブンスター・ワンカートンの支払いをしていると、ブチ犬は靴下やTシャツ、シャンプー・リンスなどの日用品でいっぱいになったカゴをドンッと目の前に置いた。
「先輩、これくらいで足りますか?」
俺はカゴを横目でのぞき込む。
「ひげ剃りはある……菓子を入れてくれ」
ブチ犬は「はいっ」と目を輝かせて菓子コーナーに走って行った。
そう、そういう所が可愛い後輩なんだが、俺の性格を知り尽くしている感があるのが、引っかかる。
不良だったあの頃から、時々、利用されている感覚に
まあ、あくまでも俺が付き合ってやっているのだがな。
さて、いくつか確認しなくちゃならないことがある。
これからは立ち話でできる話ではないと車に乗り込んでから口を開いた。
「はい、わかっています。自分の
署によれない理由を聞いていなかった。
ブチ犬は今度は言い
「エスがいます」
「自分が書庫で古い地図を探していると、手伝ってくれた署員がいるのですが……」
「そいつがエスだと?」
「はい。サッと目当ての地図を出してくれました。住所の検索や消防の記録の確認もその署員の提案で行いました」
「協力的すぎるってことか」
「はい。どこを探しても拘置所なんてないという証拠を並べられた気がします」
「そいつは古いのか?」
「署で一番の古株で、現在は
「なんとかアースは知らなかったわけだ」
「確信したのは駐屯地内で
「タレコミの内容はお前とその署員しか知らなかったんだな?」
「はい、地図を見ながら自分が喋ってしまったのですが、まずいと思い、他の誰にも話してはいません。タレコミの電話を受けた交番の巡査は上司を通して自分に報告をよこしたと言っていましたので……」
「その巡査か上司がエスなら、そもそもお前に報告しないな」
「そうです。署員の名前は
ブチ犬が、エスだと確信を持つ署員の経歴や住所などを話しているが、俺の頭は別のことを考えていた。
「なんてこった……」
口に出てしまった。ブチ犬はそれを自分の確信にお墨付きをもらったと取ったようだった。
「そうなんですよ、まさか歴代の課長たちも山さんに騙されていたとはって感じですよね」
山田のあだ名は日本中で山さんと決まっているんだな。ああ、頭が回っていない。煙を吸わなくては。
俺はポチッと窓を開閉するボタンを押した。
するとブチ犬は「新車です! 禁煙です!」と、運転席から操作して窓を閉めてしまった。
新車とは、どのくらいしたら新車でなくなるんだ? と問うと、持ち主が変わるまでらしい。
禁煙に新車は関係ないのではと思うが、こいつが中古車に乗り換えた時に存分に吸ってやるため、黙っていることにした。
《あとがき》
梅雨入り前に髪を切りにいかなくては……
すでに湿気で、好きな方向に伸び伸びしてやがる……楽しそうだね、くせっ毛さん(泣)
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