第3話 幇助
「その方が先輩には良いかと……」
「署に行けない理由があるのか?」
管轄外の
田舎に似合わない高級車のハンドルを操作する
どこから話せばいいのか迷っているやつにはキッカケを与えるのが手っ取り早い。
「始めから話せ」
あえて低い声を出す。付き合いの長いやつに俺の脅しは効かないが、それでも
ブチ犬は、顔を前に向けたまま重い口を開いた。
「
まてまて、自殺? 問題にはなるが年に何度かある事案だ。それよりも気になる言い回しを聞き返す。
「らしいって、どういうことだ?」
もう一つ引っかかっる。
“方”って言い方はあり得ない。勾留中ならそいつは裁判を待つ罪人候補だ。
勾留中の男、勾留中のやつ、勾留中の凶悪犯。
この方がしっくりくる。
「らしいというのは……」
ブチ犬は、なにをどう伝えたらいいのかと首を傾けながら、ついでにハンドルも傾けて右に大きく
「タレコミがあったんですよ。まあ、それで自殺を知ったんですけどね」
いやいやいや、拘置所の中での不審死はすぐに上に伝えられる。お前は課長だろ。検死をしてすぐさまマスコミに発表しないと
それをタレコミで知った?
いったい、どういうことなんだ。
お高そうなネクタイを締め上げて、今すぐわかるように説明しやがれと、控えめに催促することもできるが、相手は運転中だ。
俺も命は惜しい。
ここは先輩らしく、余裕を見せてやろう。
「タレコミの内容は?」
「それが、自殺を手伝った者がいるという内容だったそうで」
「さっきから、“らしい” だの “そうで” だの、なんだ、その、また聞き的な言い方は」
「それが、また聞きなんです。タレコミは110番通報ではなく、交番の電話に掛かって……」
「録音されていなかったのか?」
「徐々に通話録音機を設置しているところですが……」
「はぁー……」
これだから田舎は。俺はそんな言葉を飲み込んだ。
ブチ犬が悪いわけではないが、東京23区はすべての交番や安心・安全ステーションに自動通話録音機が設置済みだ。
俺は次の疑問を口にする。
「で? 自殺した仏が勾留されていたわけは?」
「いや、それがー……知らな……」
「知らないだと⁈ おい、なめて……」
「いえ! あ、先輩、コンビニで足りない物を買いましょう!」
あきらかにホッとした様子で車を停めたブチ犬の、シートベルトを外そうとする腕を
「おい、
「ま、まさか! 先輩にそんなことを頼むわけがないじゃないですか! あの……あのですね、自分のこと嫌いにならないでくださいよ?」
なんだ、その上目遣い。気持ち悪い。
俺はブチ犬の腕を放り投げるように離した。
「実は、自分もまだ現場を見れていません。見るどころか、入れてもらえないんです!」
県警課長がなぜ拘置者が自殺した現場に入れてもらえないのか。その自殺者が何者かなぜ知らないのか。タレコミで自殺を知ったとは、どういうことなのか。
聞きたいことは、俺を無視して
そうだ、こいつがこういう目をして、しかもその奥に凛とした炎を見せる時は、なにか秘めた正義を抱えている時だ。
ガキの頃は弱い者いじめをする野郎に立ち向かって行った時。大人になってからは警察学校の教官の腐敗を告発しようか悩んでいた時。
ケンカはからっきしのこいつは、いちいち俺を巻き込もうとした。まあ、顔に似合わないこいつの正義感は嫌いじゃない。
俺は務めて冷静に、しかし無性に煙が恋しくなり「わかった。とにかく話を聞く。その前に一服させてくれ」と、コンビニの喫煙場所に向かう。
ブチ犬は辺りを警戒しながらついて来た。
「先輩、
口に
表の
実は、俺が五歳くらいの時、
親父と並んで兄貴と姉貴、そして俺が深々と頭を下げた記憶だ。
思えば、あれは
これは誰にも言っていない。
たんなる都市伝説だ。
今、この瞬間までそう思っていた。
《あとがき》
お昼だ〜♡
魚だぁ〜⤵︎
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