第49話 可能性。

 退院しての翌日から僕は学校に通った。

 そして今、僕は向日葵を尾行している。


「……ねぇ直人」

「なにかしら?」

「なんだじゃないでしょ」

「三宮ちゃん、私もちなっちゃんと同意見なんだけど……」


 2日後には期末テスト。

 にも関わらず向日葵を尾行しているのには訳がある。


「そもそもあの男誰よ」

「2年生の早瀬先輩じゃなかった?」

「バスケ部のエースだったと私は記憶してる」

「よし、いけ好かない奴認定」

「その認定すんの早過ぎない? 色々とツッコミどころあるんだけど」


 僕と千夏、そして雲原は向日葵を尾行して現在はカフェにいた。


 絶妙にこちらの位置がバレないポジショニングである。

 ちなみに僕は今、いつもの黒のロングのウィッグをポニテにして違う高校の制服を見に纏い女装している。


「千夏、いけ好かない認定で済んでいるのは今だけよ」

「さらに上があるの?!」

「三宮ちゃん、一応その理由を聞いても?」

「まずこんな明るい時間に向日葵を出歩かせている。よって死刑よ」

「いやまあ向日葵ちゃんの体質考えたらそうだけども?!」


 アルビノという体質をあまり理解していないのは仕方ないが、それで向日葵が病気になったら死刑どころではない。


「その2、千夏も雲原さんも向日葵があの男との交流を知らなかった事。この事から推測できる事はそもそも私たちに隠れて付き合っていたか、何かしらの相談事、というてい」

「まあ知らなかったけども」

「私も知らなかった」

「でもなんで相談事のていってわかるわけ?」

「向日葵の顔を見ていればわかる。だいぶ気を使っている」

「まあ、お淑やかな感じは私たちと居る時よりもするけど」


 愛想笑いや曖昧な相槌が多い。

 向日葵もほぼ初対面か何度か話したというくらいである。


「あの男は向日葵に対して好意を抱いていて、それで近付いている説が最も可能性のある関係性である」

「……まあ、向日葵ちゃん可愛いし、イケメンバスケ部エースが釣れてもおかしくないけど」

「パッと見は良い人そうだけども」

「良い人が期末テスト前に相談事やデートを持ち掛ける訳ないでしょ」

「……たしかに」

「ましてや早瀬先輩は2年生、進路も決めている人も多い中で、期末テスト前にする行動とはたしかに思えない」


 雲原がフォローを入れた。

 全くその通りなのである。


 向日葵に愛想笑いをさせて勉強をする時間を奪う時点でろくな奴じゃない。


「だいたい、この時期のオスなんてのは大概盛りのついているオスがほとんどなのよ。バスケ部エースで調子に乗ってて女でも引っ掛けようとしているに違いないわ。ええそうよ」


 僕はそう言いながらバッグから高倍率単眼鏡を取り出して男の顔を凝視した。


「さすが探偵助手。そんなもん持ち歩いてるとか、下手したら職質案件」

「……デザイン可愛いな」

「女装時に使用する機会が多いからこういう事も気をつけてるの」


 偽装としてバートウォッチングが趣味という女学生設定である。

 カメラと野鳥図鑑もしっかり入っている。

 警察に職質されてる間にターゲットを逃がすのが何よりも面倒である。


「……あの男、どっかで見たな……」

「学校ですれ違ったりしたんじゃない?」

「いや、正面から見たと記憶してる……のだけど」

「探偵助手って記憶力も必要なのね」


 雲原がふむふむと関心している。

 そこ関心するところか? 雲原さんや。


「思い出した。アイツ、立川議員の関係者の息子だ」

「立川の?」

「ああ。リストで見たのを思い出した」


 有栖川さんに学校のやつらの粗探しを依頼した時のリストにいた。


 立川議員にゴマすって仕事もらってる親の息子だ。

 それ以外でも家族付き合いがあったはずだ。


「なぜ今接触してきたか分かった」

「凄い超えて変態」

「と言っても現状の推測でしかないけども」

「三宮先生、お聞かせください」


 雲原、なんで僕を先生と呼ぶ?

 探偵業とかやめとけって……


「そもそも向日葵の可愛さなら入学当初から人気が出たはずなのよ」

「シスコンぶりが酷くなってる……」


 千夏、そのジト目やめてね。

 可愛いのは事実だろうに。


「クラス内でも向日葵を可愛いと思って仲良くしたい雲原勢と疎ましく思っている立川勢。この二極化していた入学当初。結果的に立川勢が優位に立って向日葵は孤立。周りも嫌がらせなどの飛び火を恐れて男女問わず近付かなった」

「それでそれで」


 雲原が食い気味で聞いてくる。


「今になって接触してきたのは立川勢の勢いが失われつつある可能性が高い」

「三好が抜けたしね」

「なるほど、三好さんが抜けて勢力が弱くなり歯向かう者が出てきたにも関わらず制裁を加えられない立川さん派閥の権力は低下、結果として抑止力ではなくなりつつあるという事ですね三宮先生」

「……ええ」


 雲原さん、すっごい目がキラキラしてらっしゃる〜


「雲原助手の補足の通り、その結果寄ってくるおとこが現れた、という可能性」

「蟲ってワードの嫌悪感ハンパないわね」

「普段は部活で関わり合いがない早瀬先輩は向日葵さんと付き合う為にアプローチ中なわけですね」


 雲原の食い付きが異常だ。

 絶対「名探偵コナソ」とか好きだろ雲原。


「アプローチ、もしくは相談というていで近づいて後々のちのちという準備段階」

「相談してるうちに好きになっちゃった〜とか言いそう」

「向日葵は優しいから親身になって聞いてあげてるうちに、とかありそうなのよね」

「ですが三宮先生、相談事とは一体?」


 顎に手を当てて考え込む雲原助手。

 楽しそうでなにより……


「考えられる可能性は千夏か雲原さん、この2人のどちらかが好きで仲のいい向日葵に相談、という設定が妥当ね」


 向日葵が千夏と仲良くなり、その後雲原が加入。

 学校でも楽しげな話す向日葵はオス共にはさぞ魅力的に見えるだろう。


 学校中の男子生徒の目を潰す必要があるかもしれない。


「それだけ聞くと最低ね」

「ダシに使われてるのは嫌だな……」

「という可能性がまず高い。だけど」

「だけど?」

「他にも可能性があるのですか三宮先生?」


 2人して僕を見つめてくる。

 僕はその期待に応えるように紅茶を含んでから話を続けた。


「あの男が立川の差し金である可能性よ」

「……差し金?」

「怪しい臭いがしますね三宮先生」

「あの男は立川議員との繋がりが少なからずある。嫌がらせが出来なくなり、三好脱退で勢力が落ちた現状、向日葵を貶める為の行動をしていてもおかしくない」


 立川本人にどれだけコマを動かせるかはわからないが、学年主任とも繋がりがある立川だ。


 加えて家族ぐるみの付き合いがある。

 取引やなんらかの融資の打ち切り、そう言った経済状況を盾に脅して向日葵に近付けさせた可能性がある。


 早瀬にレイプされかけたとか立川議員に吹き込むぞ、とか言えば動く可能性はある。

 息子である早瀬が親の経済状況をどれだけ把握しているかにもよるが。


「千夏、雲原さん、今後も向日葵の事をお願いね。私はあの男の近辺を洗うわ」

「なんか無駄になおがかっこいい……」

「おまかせ下さい三宮先生」


 探偵助手の僕に、助手ができました。


 許すまじ早瀬。

 徹底的にやってやる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る