第39話 恩田探偵事務所。
「お疲れ様です。恩田さんどうしたんですか?……はい。……はい。……ああ〜あの件ですね、はい」
「おい恩田ぁぁぁぁ! 表出ろやぁぁぁ!!」
「有栖川さんうるさいですよ。今恩田さんと通話中なんですから」
「うちの直人はぜったいやらないからなぁ?!」
「いや、普通にヘルプなんですけども」
「うるせぇぜったいヤダァァァ!!」
とある梅雨時期の有栖川事務所。
別件の浮気調査の報告書作成中に恩田探偵事務所の恩田さんからの電話だった。
内容は以前聞いていた尾行の為のヘルプ。
有栖川さんは勘違いからか引っ込みが付かず暴れ始めた。
僕はとりあえず有栖川さんからスマホを奪い取り返して恩田さんとの通話を再開した。
「○日○○時ですね。了解です。女装有りですね。わかりました」
「私も行くからな!! クソ田ぁ!!」
「……うちのアラサー独身女上司がすみません」
「直人!! 恩田なんかに謝るな!! そして私を抱き締めろ! 私は寂しい!!」
「有栖川さん。鼻の中にパクチー詰めますよ?」
「ごめんなさい」
「という訳で。はい。では」
ぶつくさ言いながら鼻水を垂らして泣きべそをかきながら夕飯を食す有栖川さん。
チームアップの時はいつもこうだ。
僕はため息を付きながら片付けをした。
☆☆☆
「みねちゃん〜久しぶり〜」
「なおちゃん〜久しぶり〜」
某喫茶店にて
『おのれ恩田ぁ……四肢を切断して街中に全裸で晒してやるぅ……』
「……有栖川さん、インカムでそんな物騒な事言わないで下さいよ」
「有栖川さんと恩田さんって仲良いですよね♪」
『高嶺ちゃん、耳鼻科行ってきた方がいい。あと眼科も』
『まあまあ有栖川、今回は高嶺と雨宮君に頑張って貰わないといけないんだから、恨み言は無しで頼むよ〜』
『うるさい恩田。お前のそのほっそい目をまつり縫いしてやろうか? 穴という穴を全部縫ってやるよ? ああ?』
今回のターゲットは高校教師の男が浮気してるかもしれないとの事で調査協力だ。
「……ターゲット確認。奥の席に座った」
髪の毛で隠れた耳のインカムでターゲット捕捉を報告。
『ああバッチリ見えてる』
「……有栖川さん、その高倍率スコープいくらしたんですか?」
『スコープ? 有栖川、お前そんなもん買ったのか?』
『うるせぇ恩田。このスコープでお前の毛穴の数を調べてその数だけナイフを刺す為に買ったんだよ』
毛穴調べるならスコープより顕微鏡では。
「……有栖川さん、スコープの使い方がおかしい気がする」
高嶺はもう慣れたのだろう。
小声でインカム越しの有栖川さんに向かってツッコミを入れてあげている。
「なおちゃん、私御手洗に行ってくるね」
「うん」
僕が前にナンパしてきた大学生3匹盗撮したようにターゲットとその
「……有栖川さん、あの男、どっかで見た事ある」
『内山田五郎、高校教師。こいつアレだろ? 直人ん所の高校の校長だろ?』
調査の経過報告書の写真は正面からではなかった為に特徴を掴みきれなかったが、今見て思った。
まさか校長まで釣れるとは。
立川との接近は今のところ掴めなかったからこれはかなり良い現場に遭遇した。
一応高校の校長だからか、生徒に見られても違和感のないように印象を多少変えている。
かなりの常習犯だろう。
『そうか。
『……お前からは情報を買わない!』
「……有栖川さ〜ん。明日から毎晩ふりかけご飯〜」
『直人ぉ……私を裏切るのかぁ〜』
「ふりかけご飯って美味しいよね〜」
尾行中にも関わらず有栖川さんの干渉が酷い。
そして思わず僕もツッコミを入れたり釘を刺したりでつい声が大きくなってしまう。
それをフォローするかのように話を合わせてくれる高嶺。
まじ助かる。
「お待たせしました。ベリーミックスフロマージュとビターショコラパフェでございます」
「ん〜♪ 美味しそう!」
「なおちゃんのフロマージュも美味しそう〜」
「じゃあみねちゃんに1口あげるから私にもちょうだい」
『おのれぇ……高嶺ちゃん……関節キスじゃないかぁぁぁ……』
「ん〜♪ 美味しい〜」
「美味しいね」
有栖川さんの怨念が飛んでるのも無視して僕と高嶺は仕事を続ける。
女子同士でワイワイキャッキャを装いながらスイーツを食べるのも仕事のうちなのだ。
『恩田ぁぁぁぁ……とりあえず死ねぇぇぇ……』
「……有栖川さん、うるさいです。怨念垂れ流すのやめてくださいよ。うるさくて聞き取れないじゃないですか」
『……恩田ぁぁぁ……下半身がもげろ……』
「……呪うのもダメです」
「なおちゃんと有栖川さんって仲良いよね。羨ましいなぁ」
「え〜そんな事ないよ〜」
『ガールズトークと呪言が繰り広げる尾行。凄いカオスだね』
インカム越しに笑っている恩田さん。
爽やかだ。呪われてるのに。
その後も尾行を続けて僕らは恩田探偵事務所に行った。
「死ねぇぇ恩田ぁぁぁ」
「ギブッ! ギブッ……た…………て……みね……ちゃん……」
「仲良さそう」
「そうだな」
ヘッドロックをキメられている恩田さん。
それを眺める僕と高嶺。
今日も平和である。
「恩田さん。今回の件、ちょっとお願いがあるんですけど」
僕は思い付いた作戦を話した。
「えげつねぇ〜。まあ、クライアントに聞いてみるよ。公務員にはとっておきの制裁だから嬉嬉として提案に乗ってくれそうだ。……弁護士とも相談は必要だけど」
「ええ。お願いします」
「憂さ晴らしに公開処刑か。いいな」
「有栖川さん、さっきのは憂さ晴らしじゃなかったんですか」
「プロレスごっこじゃない? なおちゃん」
「どっちかって言うとサンドバッグみたいな扱いだったけど」
「酷い扱いだなぁ」
僕は恩田さんの遠い目を眺めながら作戦を脳内シュミレーションした。
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