第28話 防犯グッズ無双。

「向日葵、ちょっといいか?」

「うん。どうしたの?」

「僕の部屋に来てくれ」


 悪夢を見て数日。

 僕は向日葵のいじめ問題の対応策として新たに仕入れた物を用意していた。


 学校では依然として雲原と千夏がガッチリ守ってくれているが、それでも隙を見てはちょっかいを掛けてきているらしい。


「どしたの?」

「渡したい物があってな」


 僕は防犯グッズ屋で買ってきた物を取り出した。

 防犯グッズ屋のおじさんにわざわざ取り寄せてもらった物もある。


「……リップと、ちっちゃい機械? それとペン?」

「スプレーだ。中身は催涙スプレーだ。敵の目に吹き付けて使う」


 危害を加えられそうになった時に使える便利アイテムの定番。


 実際に髪を切られそうになってるわけだし、これは必須だ。

 なんなら刃物向けられた時点で使った方がいいまである。


 向日葵は可愛いからまた変な虫が寄ってきても使えるし、かなり利便性は高い。

 露出狂なら股間に吹き付けてもいい。


 そして僕なら組み伏せてからあえて使う。

 痛い目を見るとはまさにこの事だと言わんばかりに使ってやる。


「パッと見はまさにリップだ。女性用護身グッズだからな」

「……顔に吹き付ける……痛いの?」

「ああ。痛い。だが相手に後遺症とかは無いタイプだから何かあったら遠慮なくヤれ」


 催涙スプレーのガスには2つある。

 CNガスとOCガスの2つである。


 CNガスは戦争で使われている化学物質で、後遺症や皮膚がただれたりと危険だ。


 一方OCガスは天然由来、主に唐辛子などに含まれているカプサイシンという成分を主に使っている為比較的安全で相手への後遺症もない。


 目が痛いだけでなく、むせたり肌がピリピリしたりと効果は絶大だ。


「次はボイスレコーダーだ。操作が簡単な物を用意した。小型だが性能はそこそこ良い」

「ボイスレコーダー……映画とかでしか見たことない」

「社会人でも普通に使ったりもするぞ。仕事の会議の議事録まとめとか」

「……なんかかっこいい」


 まあ、僕ら探偵業とかの場合は盗聴目的でしか使わないけども。


 というか、依頼者の車に仕込ませるようにしたりと寝室に隠して設置したりがほとんどだ。


 盗撮や盗聴は一般的に犯罪として認知されているが、依頼者の所有している物や建物などでの盗撮・盗聴は犯罪にならない。


 犯罪として主に問題なのは第三者の私有地な土に無断に侵入し盗撮・盗聴などである。


 なのでちなみにラブホでの僕と有栖川さんの行為は犯罪である。

 なのでできる限りアレは使いたくない。


 また、学校や会社での盗撮・盗聴は犯罪として基本扱われないがトイレや更衣室などの場所は犯罪だとか色々とややこしい。


 自治体によっても異なるとかでさらにややこしい。


「ボイレコの操作は簡単だ。スイッチを2回押すとバイブが2回震えてその後録音が開始、終わる時は1回押した後に録音終了、バイブが1回震えて知らせる仕組みだ」


 ボイスレコーダーの役割だけならスマホで済むのだが、操作の訓練とか必要だったりもするし面倒。

 そしていじめの場合にスマホを取られて破壊されたりもする可能性もある。


 音声を録音するに特価するならボイスレコーダーの方が使い勝手がいい。


「とりあえずボイレコのテストだ」

「うん。……」


 録音が開始したので向日葵に何か喋るように促した。


「あ〜〜〜」

「……」

「義兄さんの女装が可愛い」

「余計な事言わんでよろし」


 なぜマイクテストでそれを口にするのか。

 僕への嫌がらせか義妹よ。

 恥ずかしいから止めてもらっていいですかね。


「とりあえずボイレコのテストはこれでいい。後でチェックだ」

「あとは……ペン? だね」

「このペンはペン型カメラだ。撮影・録画・録音もできる」

「このペンすご」


 向日葵が持っていても違和感のないようにできるだけスリムで普段使いしやすい物を用意した。


 華奢な向日葵か男の指くらいの太さの持ち手のボールペンなんて持ってたら違和感丸出しだからな。


「ペン型カメラなんてスパイ映画とかでしか見た事はない人も多いと思うが、これも会議で普通に使ったりもするらしい。あとは両手が使えるから登山とかロッククライミングなどでも使ったりするらしい」

「大人って凄いんだね」


 なにが凄いと思ったのかよくわからないが、興味津々なので良しとしよう。


「録音機能はボイレコと用途と変わらないが、必要に応じて使い分けてくれ。できればペンでもボイレコでもいじめの証拠は欲しい」

「用意周到」

「証拠は足りないより余る方が良いからな」


 僕はペン型カメラの撮影・録画・録音の使い方を一通り教え、1番スキルとして必要な録画をテストさせた。


「基本は胸ポケットに挿しっぱなしにしとけばいいんだが、録画を始める時に不自然な動きを堂々といじめてくる奴ら相手にはできない。しれっと操作して確実な証拠を撮れるようになってほしい」

「わ、わかった」


 僕は向日葵に制服を着せて胸ポケットにペン型カメラをセットして録画をさせた。


「もう録画は始まってるな」

「義兄さんはチョコミントが好きです。女装も可愛い。声もちゃんと女の子みたいで可愛い」

「だからやめぃ」


 からかい上手の向日葵さん、止めてくださいな。

 恥ずかしいから。

 これを今から一緒に確認の為に観るんだぞ?

 どんな羞恥プレイだよこんちくしょう。


「よし、とりあえずチェックするか」

「うん」


 僕は自分のパソコンで向日葵から回収したグッズからデータを取り込んだ。


「義兄さん、このファイル何?」

「……それはアルバイトの資料とかのファイルだ。一応関係者以外の閲覧はダメだから」

「う、うん。……」


 アルバイト、もとい楠木じゅんの小説関連のファイルである。

 一応フェイクで普通のファイルに見えるようにしてあるが、ファイル数自体が少ないトップ画面では目立ってしまった。


 向日葵がジト目で僕を見てきたが、これだけで僕が楠木じゅんだという事がバレる事はない。はず。


 せいぜい、思春期男子のえっちなファイルだと勘違いしてくれたら有難い。

 ……いや、義兄としてはどうなんだそれ……


「まずはボイレコのデータだな」


 僕はそう言ってボイレコの録音データを再生した。


「『あ〜〜〜「……」「義兄さんの女装が可愛い」「余計な事言わんでよろし」』」


 改めてこの会話、恥ずかしいななんか。


「結構、音綺麗だね」

「そうだな。無駄に綺麗だな。義妹に弄られている義兄に精神的ダメージを与えられるくらいに綺麗だ」

「褒めたのに」

「……次」


 そうして今後はペン型カメラの録画データを再生した。


「『「もう録画は始まってるな」「義兄さんはチョコミントが好きです。女装も可愛い。声もちゃんと女の子みたいで可愛い」「だからやめぃ」』」


 ペン型カメラの機能的に手ぶれ補正は無いが、画質思ったよりも良いな。

 撮られてるのか僕なのが不服だが。


「義兄さんの照れてる顔が映ってない……」

「身長差や距離感によっては相手の顔が見えない事もあるから、慣れは必要だな」

「今度こそ義兄さんの」「ダメです」


 要らんとこでやる気を出すんじゃないよ全く……


「とりあえずいじめ対策はこんなもんだ。学校側の対応も怪しいから、助けてくれる人は限られてる。前より酷い事もされる可能性がある。やばかったらすぐ防犯ブザーをまた鳴らす事も忘れるな」

「わかった」


 牽制や今後の証拠の為にもデータは欲しいが、向日葵が危害を加えられてしまっては意味が無い。


 その辺はしっかりしておかないといけない。


「ペン型カメラの動作の練習はしとけよ」

「うん。頑張って義兄さんを盗撮する」

「……モラルある練習なら許す」

「ヒソヒソ声で眠ってる義兄さんの朝に突撃とか」

「寝起きドッキリやりたいだけだろ」

「うん。あれ楽しそう」


 ……ペン型カメラで遊ぼうとするのはどうかと思うが、マインドとしては問題ない。

 目を瞑ろう。


 向日葵なら女子更衣室を盗撮とかはしないだろうし。


「では向日葵訓練兵、本日の訓練は以上である。速やかに就寝するように」

「いぇっさー」


 ちょこんと敬礼をして部屋を出ていった向日葵を見送って僕も眠りについた。


 向日葵に弄られたからか、気恥ずかしさで疲れた。

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