第29話 勉強会。
5月半ばの一学期中間テストまであと少しである。
部活は休みでみんながみんな勉強に励む。
立川たちも向日葵をいじめること無く勉強はしているようで大人しい。
雲原がクラスで向日葵にくっついているというのもある。
クラス委員長である雲原の牽制は鋭いために控えているのだろう。
日に日に苛立っていく立川たちを観ていて僕は愉快な反面、いつ向日葵が攻撃されるかと心配でもあった。
「とりあえずドリンクだけでいいわね」
「私アールグレイティー!」
「わたしはカモミールティーがいいな」
「店長、シフト休ませて貰ってるのにすみません」
現在、僕と向日葵と千夏と雲原の4人で雲原のバイト先の喫茶店で放課後ティータイムを楽しみつつ勉強会を始めるところである。
「むしろ歓迎よ雲原さん」
ニッコニコの店長さんが注文を聞き終えると奥へ行った。
「雲原さん、私も誘ってくれてありがとう」
「ううん。こっちこそ来てくれてありがとう」
三宮なおは設定上、別の学校の生徒である。
しかし制服を持っていないので、雲原から連絡があってから家から来たというていの為に僕はいつも通りの女装である。
向日葵たちは制服である。
「三宮なお」のスマホは用意するのが面倒だったので、「月宮れお」のスマホのラインのプロフィールの名前を「宮ちゃん」に変更して誤魔化した。
月宮れおの時のスマホに、雨宮直人自身の元々のスマホ、さらに有栖川さんが契約しているスマホの3台持ちですら面倒なのに、三宮なお専用のスマホまで持つのはめんどくさい。
スーツ着て歩くビジネスマンでも個人スマホと会社支給のガラケーとかである。
僕はスマホマニアじゃないのにアホみたい持ち過ぎ問題。
「私も1人でテスト勉強をするところだったけど、誘って貰えて嬉しいわ」
一応設定の近くのお嬢様学校のテスト期間を念の為調べてから辻褄を合わせて嘘を付いた。
何事も調べてからでないと嘘を付くのは面倒である。
「というわけで始めましょうか、テスト勉強」
普段使ってる勉強道具は使ってしまえば雲原にバレる為、最低限の装備を整えてある。
お嬢様という認識を保ってもらう為にも質の良さそうな物を揃えた。
デコレーションでキラキラ輝くペンとか持ってたら違和感出るし、無難過ぎて男っぽい文房具だと思われる訳にもいかない。
かなり考えて上品で可愛いものを探した。
マジ女の子大変問題。
「……」「……」「……」「……」
この女子勉強会、すんごい静かである。
落ち着いた店内BGMとペンがノートを滑る音だけ。
ここにいるみんなはそれなりに真面目である。
普段わっしょいな千夏はそもそも文系だし、スクールカーストがわりと高いのも勉強ができるからである。
向日葵は家から基本的に出ないから勉強したりゲームしたり小説読んだりとインドア派ながら成績がいい。
ちなみに今日は日傘や日焼け止めに長袖のカーディガンの紫外線防護装備を強化して本日の喫茶店に赴いている。
「なおちゃん、ここ教えて」
「ここはこの公式使うと楽よ」
「なお〜私も数学教えて」
「三宮さん、私も数学教えてほしい」
どうやら全員数学が苦手らしい。
と言っても基礎は理解しているから教えるのが楽ではあった。
一応お嬢様学校設定の三宮なお、かなり大変な設定にしてしまった……
どうにか捌いて一段落したので一旦休憩する事になった。
「ああ〜疲れた〜」
千夏が机に溶けてだらりとしている。
「夕飯前だけど、なにか食べたいわね」
「今日はチーズケーキが食べたい気分」
「私はガトーショコラ♪」
「私はフォンダンショコラにしよう」
放課後ティータイムにはスイーツも欠かせないのである。
頼んだスイーツをみんなでつつきながら女子トークに興じる。
「三宮さんの手、綺麗よね」
「そう? ありがと」
「なおちゃんの肌すべすべ〜」
「向日葵ちゃん、舐めても怒られないよきっと」
「千夏、なにを吹き込んでいるのかしら?」
「はむはむするのはあり?」
「もちろん無し」
最近は特に女装する回数が増えた為にそれなりにケアをしている。
「ほんとだ。すべすべ〜」
雲原まで触りだして内心恥ずかしい。
元々体毛は無いし、もやし男と言われるほどに体格や骨も細いから違和感はあまりない。
ハンドクリームはどこのやつを使ってるのかとか化粧品がどうとか色々話した。
ボロが出ないようにするのは大変だ。
近いうちに女装である事を打ち明ける必要があるなと改めて思った。
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