第14話 雲原さんと千夏。

 ゴールデンウィークが終わり初日の学校。

 朝のホームルームが始まるまで僕は机に突っ伏していた。


「雨宮さん、おはよう」

「あ、雲原さん……お、おはよ」


 雲原が教室に入ってきて早々に向日葵に声をかけてきた。


 寝ているふりをしていても、視線が向日葵たちに集まったのがわかった。


 ゴールデンウィーク中になにがあったのか気になるやつらが多いようだ。


「向日葵ちゃんおはよ〜」

「千夏ちゃん、おはよう」


 別クラスの千夏もやってきて向日葵に声をかけてきた。


 千夏は文芸部だがそれなりにスクールカーストは上位の方にいるらしく、クラスで名前を知っているやつもちらほらいるようだ。


「昨日の飯テロはずるいよ向日葵ちゃん! どこのお店?」

「えと、雲原さんが働いてるお店で……」


 向日葵が雲原さんの事を紹介して千夏が雲原さんと話し出す。


 千夏、コミュ力高いよな……


「雲原さん、今度は私も向日葵ちゃんと三宮ちゃんと3人で行くね!」

「お待ちしてます」


 一応千夏には「三宮なお」の事を学校で話す際は三宮、もしくは三宮ちゃんと呼ぶようにしてくれと言ってある。

 それは向日葵も同様。


 直人である自分が「なお」という女装時の偽名は安直すぎた。

 今後はもう少し偽名でも名前をしっかり考えないといけない。

 設定も咄嗟に考えたものだったし、雨宮が三宮って「宮」被ってるじゃん。


 今までは女装時にここまで設定とかちゃんとしてなくても成立してたが、学校生活に密接に関わる可能性を想定しなければいけない。


 そう反省しつつ眠った。



 ☆☆☆



 昼休み。

 この日から向日葵は雲原さんと千夏の3人でお昼ご飯を食べるようになった。


 雲原さんも千夏もわりとすぐに仲良くなっている。

 向日葵が間にいるし、「三宮なお」という共通の知人もいたりする事もあるのだろう。

 ちょくちょく話題に出ている。


 だがとうの僕はイヤホン装備でガン無視を決め込んでいる。


 立川と三好の金髪ギャル2人は今のところ動いていない。

 視線は多少感じるが、ヒソヒソ声が聞こえるわけでもない。


「こへ、美味ひい」

「ありがと雨宮さん」

「私もちょうだい雲原さん〜」


 雲原さんは自分でお弁当を作っているらしく、向日葵が1口もらって幸せそうに咀嚼している。

 見かねた千夏も食べさせてもらい、僕の前の席には幸せ空間が出来上がっている。

 なんと微笑ましいことか。


「今のバイト始めてから自分でお弁当作る事にしたんだけど、まだ上手くいかないのよね」

「全然、美味しいよ?」


 向日葵が再度雲原さんを褒めた。


「ダメだ向日葵ちゃん、今の顔は可愛い過ぎる!」

「わっ?! ……ち、千夏ちゃん、危ないよ……」

「ごめんごめん〜」


 千夏、ガンガンいくなぁ。

 百合百合し始めたぞ。

 いいぞもっとやれ千夏。


 てか千夏、自分とこのクラスの友達はいいのか? 今思ったけど。


「雨宮さんのお弁当、自分で作ってるの?」

「ううん。お母さんが作ってくれてるよ」


 朝ご飯と弁当は主に優香さん。

 晩御飯は僕が作っている。


 朝が弱い僕としては有難い。


「お菓子作りは好きだけど、わたしは料理得意じゃないから、雲原さん凄いなぁって思う、よ」

「私は逆にお菓子作り苦手。難しくない?」

「私はどっちも苦手!」


 千夏、清々しいな。

 爽快感すら覚えたよ僕は。


「お菓子作りはメニュー見てやったら勝手にできる、よ。料理は火加減とか難しい……」

「火加減は……直感でまあなんとなく?」


 雲原さん、しっかりしてそうな性格だけどその辺大雑把なんだな。

 しかしそれで向日葵も千夏も美味いと言ったのだから問題ないのだろう。


「今度の休日にお食事会しない?! 三宮ちゃんも呼んで4人で!」

「楽しそう」


 向日葵の目が輝いている。

 向日葵が嬉しそうなのはいいんだが、僕もか……

 仕事が入ってないか確認しとかないとな。


「でも風岡さん、場所はどうするの?」

「私ん家。親に確認してみるけど」


 そうしてどんどんと話が決まっていく。

 なぜか雲原さんと三宮ぼくが向日葵と千夏に料理を教える事にまでなってしまった。


 まあ仕方ないかと諦めて僕は眠った。

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