第4話 可愛いは正義。
休みの土日。
親父と再婚相手の優香さん、向日葵、僕の4名で物件を見た。
一応親父と優香さんが前から話は進めていたらしく、改めての確認だった。
親父は僕がそこまで部屋に拘ってないと思っていたらしく、部屋を与えておけばいい、くらいに考えていた。
実際僕はそうなのだが、再婚や引越など色々と急過ぎる。
親父の仕事のツテの不動産屋であり、優良物件の話をたまたま飲みの場で聞いていて優香さんとの交際も真剣だった為にトントン拍子で結婚まで至ったらしい。
親父の行動力は言語が口から出てくるより早いのである意味納得である。
おかげで僕は置いてけぼり状態。
仕事ができる親というのも身内にとっては問題である。
まあ、そんな親父だから給料が良いわけだから良しとしよう。
部屋もしっかり貰えるわけだしな。
「直人〜この辺も片付けていいの?」
「頼む。引っ越すまでは料理作らないし」
部屋着姿の千夏が食器類やキッチン用品をダンボールに詰めている。
ハーフパンツにノースリーブ、ボブヘアーの後ろ髪をとりあえず縛って小さいポニーテール。
幼馴染とはいえ格好がラフ過ぎませんかね。
「直人って料理するわりにキッチン用品少ないね」
「
冷蔵庫の食材類はほぼ使い切り、後はレンジでチンして食べれる状態だし、野菜を処理する為にカレーを作り置きしたし、冷蔵庫はスッカスカである。
物件を見た後の休日は各々個人的な物の整理、親父は特に仕事関連の物を優先して作業し、千夏に頼んでその他の物を小物などを平日学校が終わってから手伝ってもらっている。
「猫カフェ楽しみだな〜」
手伝ってもらう作業が思いのほか多かった為、報酬のパフェに加えて猫カフェにも連れて行けと言われたのである。
猫カフェにパフェあったら楽だなと思ったら、パフェと猫カフェは別々だと言われた。
報酬とはいえハシゴすんの面倒くさ……
「でもこっから家近くてよかったね」
「そうだな。通学時間もそんなに変わらないし」
「一緒に帰れなくなるのは嫌だけど」
「たまにしか帰ってないんだから大した事じゃないだろ」
「ぼっちな直人君の為に一緒に帰ってあげてるのにそれはどうなんだい君?」
「あ、はい。すみません」
なぜ千夏は偉そうなんだ。
意味わからんけど、コントのつもりだろうからテキトーに謝っておく。
謝罪って大事。
「千夏も家に遊びに来い。義妹と仲良くしてやってほしいし」
「……ん? ……義妹……? 再婚相手って娘さんいたの? 聞いてない」
「いや僕もこの間食事した時の前の日に知ったし」
「
「親父が懇切丁寧に説明しないだろ」
「……まあ、確かに……」
てっきり親父から聞いていると思っていたので、千夏の反応は意外だった。
「義妹さんはいくつなの?」
「同い年。誕生日は1日差」
「誤差じゃん」
「そして同じクラス」
「私見たことある子?」
「あるんじゃないか? 白髪ロングの」
「ああ〜…………直人、夜這いとか絶対ダメだからね?」
「しないよ」
なんですぐそのツッコミから入るんだよ。
親父も千夏も頭の中ピンク色なんじゃないか?
千夏が男だったら「義妹、ぐへへ」とか言ってるかもしれないまである。
「あんなに可愛い子が同じ屋根の下とかやばいって。私でも自信ないわ。可愛いし」
「お前、レズビアンだっけ?」
「違うわよ。でも可愛いは正義」
「そうか」
千夏から見てもやはり向日葵は可愛いらしい。
日本人からして見ても、白髪ロングで似合ってたらそう思う。
本人はロングなら首元に紫外線来ないからとか言ってたけども。
「とりあえずキッチンはだいたい終わり〜」
「……こっちもキリのいいところだし、休憩するか」
キッチンから出てきた千夏が伸びをしながら僕の居るリビングに来た。
気持ち良さそうに伸びのせいで胸元が強調されて、僕は目を逸らしながら休憩を提案した。
千夏のこういう警戒心のない行動はどうかと思う。
それなりに胸はあるんだからさ……
「んん♪ クッキー美味しい」
「そのクッキー好きだから買い置きしてるんだよ」
今日は豆を挽かずインスタントで済ませて珈琲をふたつ用意した。
「直人、お菓子作りはしないもんね」
「1度やってみたが、あれは科学だ。料理とは別物。めんどい」
「お菓子作りとかも出来たら友達できるかもよ?」
「なら余計にしない。千夏こそ、彼氏作りの為に始めてみたらどうだ?」
すると千夏が無言でクッキーを齧り睨み付けてきた。
怖いです千夏さん。
「べつに居なくていいし」
次々と消えていくクッキー。
仏頂面であからさまに御怒りでらっしゃる。
余計な事言いましたね。すみませんでしたはい。
「……クッキー、まだあるけど、食べる?」
「……食べる」
再び睨み付けて一瞬迷ってからそう答える千夏。
こういう時、餌付けは大事だ。
「珈琲もお代わり」
「かしこまりました千夏お嬢様」
僕がそういうと凛とした表情をした。
「頼むわね執事君」
こういうコントにすぐ乗ってくれるのは幼馴染である千夏くらいだ。
執事「君」は違和感だが。
千夏お嬢様に2杯目の珈琲を提供して座ろうとすると急に肩を揉み出す千夏お嬢様。
「執事、
……めんどくせぇ。
しかし自分から振ってしまった手前、そしてその原因は僕の不用意な発言である。
僕は仕方なく立ち上がった。
「……失礼致しますお嬢様」
僕は千夏の後ろに立ち、千夏の肩を揉んだ。
もちろん実際肩なんて凝っているわけもなく、柔らかい筋肉やハリのある肌。
一瞬、千夏の胸元の向こうが見えそうになったので外の景色を眺めながら適当に数分ほど無言で続けた。
「ご満足頂けましたかお嬢様」
「……もっと!」
「……はい」
ふふんっ。と、ほくそ笑みながら珈琲の啜る千夏。
どうやらようやく機嫌が直ったらしい。
我が家は今日も平和である。
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