第2話 幼馴染。
再婚相手、天野優香さんはおっとりしてて良い人そうだった。
それが第一印象。
「この料理、直人君が作ったのね。とっても美味しいわ」
「ありがとう、ございます」
とりあえず紹介されて食事を楽しみつつ振られた会話をする。
当たり障りもなくやんわりとぎこちない。
親父と優香さんが主に話すだけ。
「……おかわりあるので、言ってください」
「……あ、はい。……ありがとうございます」
僕はとにかく天野向日葵が気になって仕方ない。
同じクラスであり、同じくクラスで孤立している同士。
共にコミュ障気味であり、再婚相手の連れ子。
初対面ならまだそれなりに無難に話せる事もあっただろうが、不意打ちでこれでは適当で最低限の会話すら浮かばない。
そもそも相手は人と接したがらない天野向日葵。
僕にどうしろと……
「直人、お前、向日葵ちゃんと顔見知りだったのか?」
親父が僕達に話を振ってきた。
親父はこういうところは変に鋭い。
僕は人見知りではないが、天野向日葵に対してのなんとも言えないやりづらさを見抜かれた。
「同じクラス。現在進行形でビックリしてるところ」
「そうだったのね! 向日葵は内気だから心配してたの〜。白皮症の事もあるから」
おっとりしつつもやはり娘の体質には気を使っているらしい。
その後は再婚の簡単な経緯やこれからの事を話し合った。
と言ってもほとんど親父と優香さんの話である。
天野向日葵は再婚や親父の事は大まかに聞いていたらしく、受け入れる方針のようだった。
僕は未だに飲み込みきれず中途半端な気持ちのまま。
親父がなにも話さなかったのもあるし、連れ子が天野向日葵であったとついさっき知ったのも、心の整理が付いていない理由としてはある。
「お皿、下げますね」
「ありがとう直人君」
「いえ。……今日はお客様ですから」
と言いつつ僕は食器を持って逃げるようにキッチンへと向かった。
雑務をしているふりをしながらそのままキッチンに篭もる。
気まずい。気まず過ぎる。
その後もどうにか当たり障りなくやり過ごし、天野親子は帰った。
天野向日葵は最後までよそよそしく、それは僕もだった。
☆☆☆
学校の昼休み。
食事を終えて、親父経由で招待されたライングループから追加された「天野優香」と「天野向日葵」という文字をなんとなく見ながら弁当を食べる。
僕の席の前にはそのくだんの天野向日葵がいる。
名前順である席。
昨日会ったにも関わらずぎこちなさが半端じゃない。
長く綺麗な白髪と小柄な背中はどこか寂しそうである。
ぼっち2人が黙々とお昼ご飯を食べているわけである。
半分ほど弁当を食べ終えている頃、スマホが短く震えた。
天野向日葵
『雨宮さん、今日の放課後、お話ししたい事があるので、お時間頂けません?』
半径1メートル以内にいる僕らはSNSサービスを使わなければ話せない仲なのである。
雨宮直人
『わかりました。互いに自宅に帰ってからですか? それともどこかのお店ですか?』
おそらくだが、出会い系の待ち合わせでもこんなによそよそしくはないだろう。
天野向日葵
『ふたりだけでお話しできれば良いだけなんですけど……雨宮さんは晩御飯の支度とかもありますよね……?』
雨宮直人
『あ、はい。そうですけど』
天野向日葵
『じゃあ、わたしが雨宮さんのお家行きます。それでもいいですか?』
親父が帰ってくるまで時間がある。
流石になんか、連れ子同士で自宅で会うのはどうなんだ? 世間的にさ。
まあたぶん、夕飯の支度とかあるだろうからって気を使ってくれているのだろうとは思うけども。
雨宮直人
『天野さんがそれでいいなら、いいですけど』
天野向日葵
『では放課後にまた伺います』
この
物理的にも、家系図的にも近い距離になるというのに、僕達の精神的距離は遠い。
これから先どうなるのか、どうしたらいいのかよく分からない。
仕方がないので残りの休み時間は机に突っ伏して現実逃避をした。
☆☆☆
「直人〜一緒帰ろ〜」
放課後、下駄箱で遭遇した
幼馴染であり、クラスは違うが文芸部に所属している千夏とはたまにこうして一緒に帰ったりはしている。
部活が今日は無いのだろう。
「おう」
靴を履いて学校を出る。
千夏とは小学校からの付き合いであり、母さんの不倫の件も知っているし、それなりに迷惑を掛けている。
「てか再婚するんだって?」
「ああ。僕も最近知った」
「
千夏は
家族ぐるみで仲がいいという方が正しいか。
不倫騒動で一時的に僕を避難させる為に千夏家に匿われていたりもした。
と言っても、大人の話し合いを小学生であった僕に見せないようにする為の避難だった。
「引っ越すんだよね。ちょっと寂しいなー」
「べつに生活圏内はそれほど変わらんらしいし、問題ないだろ」
「それはそーだけどさ」
「引越、手伝ってくれ千夏。引っ越すのも再婚の報告と同時に知って忙しい」
「仕方がないなぁ」
昔から構ってちゃんな千夏はわりと頼み事を聞いてくれるので助かる。
渋々承諾を装いつつも亜麻色のボブヘアーを揺らしながらニコニコで答えてくれる千夏。
「直人、私パフェが食べたいなぁ」
「今度な。落ち着いたら」
「うむ! 商談成立!」
そう言って笑う千夏と共に電車に乗った。
その後はスーパーに寄って買い物を終えて帰宅した。
荷物を下ろした頃に天野向日葵から連絡があり、今から向かうと報告が来た。
ふたりだけで、どう接したらいいかわからず悶々としながら待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます