白い向日葵は太陽を見ない。

小鳥遊なごむ

第1話 急すぎ問題。

「義兄さん……」


 ぎこちなくそう呼ぶクラスメイトが今は僕の自宅に居る。


 白く長い髪に紅色の瞳、肌の色素も薄く消えてしまいそうな彼女は今、僕の義妹いもうとである。


 白皮症という体質であり、アルビノと呼ばれる彼女は向日葵ひまわりという名前だった。


 同じ高校1年生だが、おどおどしていて弱々しい。

 紅眼はいつも下を向いていて、誰かに、なにかに怯える小動物のような姿を見ていて護りたいと思った。


「……義兄さん。よ、よろしく……」

「ああ。改めてよろしく」


 自分の中で、何かが変わった瞬間だった。



 ☆☆☆



 進学校に入学して2週間。

 友達を作るでもなく、部活に所属するでもなく、ただ勉強しているだけの高校生生活。


 クラスの雰囲気はぎこちなくも塊を作っている。

 その中で僕は1人でいた。


 人間関係はうんざり。

 高校だって行きたくはなかった。

 通信制にすると行ったら親父は反対した。


「ねぇねぇ天野あまのさん、天野さんってほんとにこれ地毛なの?」


 クラスのギャルたちが天野向日葵に絡んでいる。

 天野向日葵。白髪ロングで色白。

 幼げな顔はいつもなにかに怯えている。

 内気でありコミュ障気味。


「……うん……」


 俺とは違うがクラス内で同じぼっち。

 どうやら白皮症という体質らしく、いわゆるアルビノ。


 独特な容姿や幼い顔立ちではあるが整った顔は美少女と呼ぶに相応しいが、彼女はクラスから孤立している。


 いじめらしい事は表立っては起こっていない。

 彼女自身が距離を置いているというような感じ。

 仲良くしたい奴や疎ましく思っている奴もいたりと様々だが、天野は一様にクラスメイトを怖がっている。


 なんでかは知らんけど、可哀想に。

 そう思いながら僕は机に突っ伏した。



 ☆☆☆



 学校から帰宅し、残業終わりの親父と遅めの晩飯。


直人なおと、俺、再婚するから」

「……お、おう……」


 急である。

 まあいつも急なんだが、再婚どころか女の気配も僕は察知していなかった。

 鈍いだけなのかもしれないが、普段から残業も多く、会社に泊まり込みも月に1、2回はあるような親父だ。


 それなりの役職ではあるが忙しくしている親父が再婚するとは思っていなかった。


「美味いなこの炒め物」

「そりゃどうも」


 ……それだけかよ。

 なんかもっとあるだろ。相手の人の話とかさ。

 まあ、自分が作った飯を褒められるのは悪い気はしないが。


 親父が離婚したのは僕が小学校5年生の時。

 母さんの不倫だった。

 専業主婦だった母さんは不倫相手間男にぞっこんで貯金を使い込み、育児・家事放棄で僕達の家庭は崩壊した。


 母さんの醜い顔や目は未だに憶えている。

 親父は探偵だの興信所、弁護士などをフル活用して制裁し、一人っ子である僕の親権を獲得して今に至る。


「相手な、お前と同い歳の子がいるって。女の子だから襲ったりするなよ」

「ッぶーっ!! ……けっほ……けほ……」


 子持ちかよ……

 しかも女子。


 僕だって多少は性欲もあるが女は正直怖いし、なるべく人と関わりたくない。


 だが僕をここまで養っている親父がそうしたいならそれも仕方がないとは思う。


 僕だってもうガキじゃない。


「家、どうすんだよ?」


 男二人暮らしの賃貸の間取りではどうやっても子持ちの婚約者と暮らすには向いていない。


「引越しだな」

「……いつ?」

「来週の週末には引越しだ。準備しといてくれ」

「……業者への発注でももう少しゆとりあるだろうに」


 やはり急である。急すぎ問題。


「荷造りとかするけど、役所とかはどうにかしてくれよ」

「おう」


 雑な段取りをとりあえず組むと、親父は晩飯を完食して風呂に行った。


 僕は食器を片付けて部屋へと戻った。



 ☆☆☆



 翌日、学校終わりにスーパーで主婦顔負けのお買い物をしていた僕に電話が掛かってきた。


『直人、今日再婚相手と娘さん呼ぶから飯頼むな』

「はぁ?! ちょっと待て急すぎっ……切りやがった」


 もう仕方ないと諦めてお買い得商品のいくつかを棚に戻した。


 親父の友人どころか再婚相手である。

 下手なものなんて食わせられない。


「……それはせめて昨日言ってくれよ……」


「晩御飯は何がいい?」と聞かれて「なんでもいい」というのは本当に困る。

 なので基本は安い食材から作れる物しか作らない。


 だが客人を招待するのだからそうもいかない。


 親父に再婚相手たちのアレルギーの有無だけとりあえずメッセージで聞き、頭を悩ませながら買い物を終えた。


 家に帰り腰巻きのエプロンを制服越しに付けて調理に取り掛かる。


「……人と関わりたくなくても、こんな風に悩まなければいけないんだもんなぁ……」


 そう愚痴りつつも調理をする僕は社畜となんら変わらないのではないかと思えた。


「再婚相手、なんてワード、気まずさしかない……」


 人によって義母エロッ! とか義妹とか最高じゃん!! とかいう奴を見かけるが、欲に狂った人間の怖さもおぞましさもよく知っている僕からすれば嫌悪しかない。


「……あと1時間くらいで来るって言ってたな」


 切り終えた食材をレンジで熱を通しながらフライパンを動かし食器を洗う。


 やることをやってると親父が帰宅して先に風呂に入った。

 もうすぐ来ると言われて僕はせっせと準備をする。


 風呂から上がった親父が再婚相手たちを迎える準備ができた頃、インターホンが鳴って親父が出迎えた。


 僕もとりあえずエプロン姿のまま玄関へ行くと、そこには再婚らしき女性と天野向日葵がいた。


「……は……」


 もうわけがわからなくなった。





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