領域守護者

「お姉ちゃん、今日もお話ししてくれる?」


 アリサは今日もリウスの下を訪れていた。村長は冒険者ではなくほかのお友達とも遊んだらどうだと言っていたが、森の中に入れないのでは面白くない。安全に配慮された子供の遊びではなく、胸躍る冒険がしたかったのだ。

 それができないから仕方なくというわけではないが、森の中を探索できないのならせめて本物の冒険者に冒険の話をしてもらおうと思うのは自然なことだろう。

 しかし、リウスはアリサを見つめて驚いたような表情を浮かべる。


「なんじゃ、領域守護者と話さなくてもよいのか?」

「?」


 アリサが首をかしげると、リウスは得心したとばかりにため息をつく。


「村長に聞いておらんのか」

 

 リウスは相変わらず何を考えているのかわからなかったが、あきれたような表情を向けられても嫌な気分にはならなかった。リウスは何かを思い出すように上を向いて、どう表現するか思いついたように声を上げる。


「ほら、悪趣味な鎧をつけた女冒険者が集会所に顔を出しておったじゃろう」

「ああ、あの騎士様の事?」


 朝方、村の子供たちどころか大人たちまで農作業をほったらかしにして集会所に集まっていたことを記憶していた。見るからに聖騎士然とした女が村にやってきていたことから村長が何かやらかしたのかと思っていたが、まさか冒険者が来ていたとは。


「うむ。見たところまだ粗削りじゃが、領域守護者の肩書きはそれだけで信用に足る」


 見たところリウスよりも上位の冒険者のようだったが、リウスが不遜な態度を崩すことはなかった。とはいえ、リウスが長いものに巻かれている姿は想像ができない、というより見たくないというのがアリサの本音である。


「それで、領域守護者って?」

「冒険者には強さを表す等級があることは知っておるな」

「うん! 一番下は星屑スターダストでしょ? それから衛星級サテライトに……」


 三番目の小惑星アステロイド、次いで惑星級プラネット、流星級と指折り数え、「一番上が恒星級!」と言って顔を上げると、リウスの掌に頭がぶつかった。


「よく知ってるのう」


 リウスは二、三度頭をなでながらそういうも、ほとんど変わらない目線からでは気恥ずかしさよりも可笑しさのほうが勝ったようで、つい吹き出してしまった。リウスは一瞬不満げな表情を浮かべるも、すぐにいつもの不敵な笑みを張り付ける。


「じゃが、同じ恒星級にも序列が存在していることは知っておるか?」

「え、ほんと!?」

「恒星級の中にも五段階の等級があって、一番下が五等星。一番上が一等星じゃ。恒星級に志願した流星級はそこで長期間の試験を受け、一定以上の実力を認められたら恒星級として仕事ができるようになる。昔はそもそも等級など無かったことを考えれば今の冒険者制度はよくできておるのう」


 冒険者にあこがれを抱くアリサにとって、シリウスの話は興味深かった。

 

「話を戻すと、領域守護者は恒星級の中でも三等星に位置する冒険者の総称で、奴らにはそれぞれ守るべき町や地域が与えられる。そして、そこで起きた重大な事件や事故の解決が主な任務というわけじゃな。領域守護者が動く目安としては、冒険者ギルドだけでは対処できない案件が発生した場合じゃな」

「じゃあ、どうしてこの村に?」

「なに、領域守護者とて暇なときはある。世界が平和ならなおさらじゃ。領域守護者には自主的に巡回している暇人も多いと聞くしのう」

「そんな風に言っていいの?」

「そういえば私は流星級じゃったな」

「そういえばって……」


 シリウスが冒険者らしく見えないのは小柄な体格というのも大きな要因だが、それ以上に権威を傘に着ないからだろう。上下関係が厳しい冒険者が多い中、シリウスのような立ち振る舞いは珍しかった。


「今の話はふたりだけの秘密じゃ。当然、私のこともな」


 そう言ってシリウスはおどけたように片眼をつむった。

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シリウス ~人の世に降りた一等星~ 白間黒(ツナ @dodododon2

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