第7話 ハクレイとの肩慣らし

 構えた状態の二人の間に静寂が訪れる。

 呼吸ひとつすら気は抜けない。

 隙を作らない。

 つけ入る思考の隙間を作らない。

 ただ、そこにただ立っている。

 そこに在るのは空気の流れと二人の意識。

 もはや戦場せんじょうにあらず、ただの戦場いくさばであらず。

 二人だけの無想空間。

 水の流れの如く時間だけが過ぎていく。

 両者とも動かずただ相対する相手を見つめる。

 時間だけが刻一刻と流れていく。

 ただ過ぎていく。

 時が、疲れた素振りなどはない。

 両者はまだ挑まない。

 挑まないのは仕方のない事であるのかもしれない。

 ハルは無限に殺され、ハクレイは無限に殺している。

 ただ睨めつけあっているだけでも戦をしているのだ。

 ハクレイは付き合うかのようにただ構える、ハルは勝ち筋を見つけるまで挑み続けている。

 そんな戦が小一時間過ぎたころハクレイは構えている片手をほんの少しほんの石粒程度の大きさだが動かす。

 瞬間だった。

 ハクレイはカウンターをする余裕を与えられずただ斬撃を受けた。

 なんとか腕で斬撃を受け流す、しかしただそれだけしかできない。

 ハクレイを襲うは時限流抜刀術の一つ『時限流抜刀空切ジゲンリュウバットウカラキリ』が応用の一太刀。

 その一刀は光が如く一太刀、視覚は役に立たず。

 五感が内、残り四感を全て使おうともそれは知覚できず。

 頼れるは第六感。

 剣の気配を読むことでしかそれは受けられず、読めなければただ切られるのみ。

 しかし、ハクレイは達人の領域の存在。

 ジンの完成形ならまだしもハルの未だ未完成の上の時限流抜刀術の応用を受けられないはずはない。

 未完成品に負けることなく返すことすら可能である。

 何故、返せなかったか。

 それの解答は簡単イージー

 腕を動かしたことが解。

 ハル自身己の技が未完成なのは重々承知。

 狙ったのは圧。

 己が未完成な技でも得意な位置というのは存在する。

 その位置だけを定めていた。

 それゆえにそこへずれるまでただ夢想で切っていた。 

 無限に殺されながら。

 付け足すならばハクレイはこの狙いを読むことができなかった。

 これが過程。

 負けずハクレイは押し返す。

 ハルはそれと同時に宙へと飛び黒月に己が全ての重引力を明け渡す。

 そして、舞う。

 ハルが唯一完成している武術、舞櫻流刀術ブサクラリュウトウジュツの内が一つ『舞花』。

 ただ刀だけが一人気に切り裂くかのように8連撃を繰り出す。

 ここでハクレイはそれをただ‘‘受けた‘‘。

 そして‘‘無傷‘‘ただ完璧に流している、力が、ハルの8連撃のエネルギーをただ流している。

 ハルは地面に着地する。

 瞬間ほぼ視覚に映らない速度で足に力を入れ地面を踏みしめ両腕に力を込め、黒月を振るまでの一連の流れをして見せた。

 これはもはや定められた動きだった。

 ハルは舞花の8連撃目が終わると‘‘同時‘‘に同じく舞櫻流刀術が内の一つ『夢』を放つ。

 これは脳が肉体を動かす技術ではない。

 神経が肉体を動かす技術。

 定められた動きを最速域で放つ無型の技。

 放たれた刃に対しハクレイはただそれに、


‘‘触れた‘‘


 ただそれだけのことだった。

 それだけのことで、ハルは吹き飛んだ。

 血反吐を吐きながら、血涙を流しながら。

 ただ刀身に触れられただけで、内臓に損傷、全身の骨にヒビを入れ、刀に近い腕は骨が砕けた。

 そこからハルは立ち上がれない。

 足どころか指先一つ力が入らない。

 何が起きたか?

 それはハクレイの技にただただ負けただけである。

 彼女が行ったことは一つ、ただ倍にして返した、『舞花』を返しただけである。

 闘撃流武術が内一つ、『流体リュウテイ』、己が肉体で流した力を肉体全身に循環させ触れたものに流すという術。

 奥義と言え過言ではない代物。

 ハルはただ...それに負けた。

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