第5話 あのお方

視点ユーリ

 去ってしまわれた...。

 私を助けてくれた少年はあの数の敵をものの数秒で全滅させてしまった。

 グレントベアでさえ危険度はC+、ブラックウルフだって単体や数匹ならまだしも群れの場合は同格のC+、Bランク冒険者でも中堅者以上が一人で倒せるかの敵なのに...。

 お顔は拝見できなかったけど黒い東国の剣を使っているのはわかったわ。

「お嬢様おけがなどは?」

「大丈夫よモーリエ。私より自分の心配をするべきでしょう、私をかばって傷を負ったのだから...」

「不肖このモーリエ昔は冒険者として生きてきた身です、敵に襲われている最中ならまだしも回復に専念できる状態ならあの程度の傷すぐに治します」

 モーリエは胸を張り私にそういってくる。

 その後ろには、モーリエが傷を治したんであろう護衛たちがすでに万全の態勢でいた。

「ありがとう、モーリエ。治してくれたのね」

「いえいえこのくらいは朝飯前でございます」

 私はこの安心感か、生き残れたことへの喜びか頬を緩ませて笑顔ができてしまう。

 それにきずいた周りの者たちも表情を崩してしまう。

 生還への喜び、安心感は私たちを包んでくれた。

 そこから真剣な表情に変わるまではそう長くなかった。

 門限がきてしまえば王都の門は閉まってしまい馬車での入場ができなくなってしまう。

 先ほどの戦闘で時間を喰ってしまったので、早めのペースでいかなければ間に合わない。

「モーリエ今日の王都の閉門時間は?」

「18時でございますお嬢様。馬も先ほどの戦闘で軽く負傷してしまいましたが治療しておきました。死んでいないのは幸いでございます」

 モーリエはポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。

「今の時間は14時でございますね。かなり余裕はありますね。少年のおかげです」

「王都までの距離は残り50といったところかしら?」

「そうですね、少しせってしまいましたがその必要もなさそうですね」

「でも早く着けるに越したことはないわ、出発しましょう」

「かしこまりましたお嬢様」

 そう言うと、モーリエと護衛たちは警戒の態勢をとり私は馬車のに乗る。

 私が馬車の中に腰を掛けると、それを察したモーリエが出発の合図をする。

 そこから王都まで何事もなく進むことができた。

 門限には余裕を持って間に合い、無事王都のアルテミス家へとたどり着けました。

 もしあの少年、いやあのお方と再び会うことがあれば感謝を伝えたいです。

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