衣を剥ぐな
川谷パルテノン
デート
「おまたせー ごめんね 遅くなって」
「いや それはいいんだけどさ
「うん?」
ずっと好きだった。ずっと好きだったんだぜ。漆野アヅミ。俺が校内一好きな子。バレー部でリバーシ部だった。芸能人でもやってけるくらいの可愛さで性格もすんごいいいときたら世の男子が放っておくものか。女子だって放っておかないのだから。なのになんでか今まで恋愛についてはうまくいかないんだってさ。んなわけないでしょと思っていた。今日わかりました。漆野さんの私服がミストバーンだった。
「えっと そのー 暑くない?」
「今日? そうでもないけど」
「じゃなくて その 格好といいますか」
「あ、コレ やっぱ変かな……」
「いやいやいやいや全然全然そんなこと……うーん ただ」
「ただ?」
「お顔が ちょいと 見えませんといいますか 漆野さんせっかく可愛いのに目だけが 目もなんか発光してて うーん」
「可愛くなんかないよ ヤダ」
「あー ま その 今はね」
「今……」
「じゃなくてじゃなくて えっと どうすっかなコレ」
「ごめん なんか気を悪くさせちゃったかな」
「謝んないで! 違うのよ ちょっと心の準備足りてなかっただけだから 大丈夫 もう大丈夫だから カフェでも入りますか」
俺の隣で優しすぎるミストバーンが歩いている。頭の中はぐちゃぐちゃで世界は無音だった。けれどアスファルトを布地、おそらく胴衣の裾が引き摺られる音だけは鮮明に聞こえる。喋らねば。
「その服どこで買ったの?」
「え? 興味ある?」
やめてくれそのキラキラというかピカピカした瞳で俺を見つめないでくれ。
「わたしさ 小さい頃からダイ大が好きで ずっと暗黒闘気纏いたかったの」
初耳がサイケすぎる。
「でね。ヒュンケルの甲冑だとちょっと重すぎて。バレー部なのにね」
バレー関係あります?
「そしたら大魔王様の御言葉が聞こえてきたの! アヅミ! 其方に我が力を分け与えよ ってね!」
ってね、じゃなくてさ。あれもしかして漆野さんってそのおくすり飲めたねっ的な……
「そっか わたしってミストなんだ そう思った」
「ああああのさッ!」
「え?」
「病院行こ!」
「え なんで?」
「なんでもクソもないよ! キミはミストバーンなんかじゃない!」
「でも大魔王様の御言葉は絶対なんだよ! 何より優先されるんだから!」
「だったら俺がバーンだ!」
「え 」
「俺は君が好きだ! ミストバーンじゃない、漆野アヅミが好きだ! 今までキミのことを好きだと嘯いてきた奴らとは違う! 俺はバーンじゃないけど でもキミが好きなんだ だから だから そのフードを取ってキミの言葉で聞かせてほしい 俺と 付き合ってください!」
繁華街のど真ん中。ちょっと拍手が沸き起こった。
「権田くん」
「漆野さん!」
「笑わせるなっ!!!人形風情がハドラーの生まれ変わりのような顔をするのはっ……身のほどを知らぬにも限度があるっ……!!」
「へ?」
「人から人へ成りあがりだけを目あてにうろつくドブネズミなど、わたしは絶対に信じぬ!」
「ドブネズミ? 漆野さん?」
「己の欲のために主をいずれまた必ず裏切るからだ!」
「みんな見てるみんな見てる!」
「わたしは わたしは 幾千年も前からもともと一人だった!」
漆野さんはそのまま帰ってしまった。俺が本当に彼女を愛していたのなら闇の衣を剥いではいけなかったのだ。俺はミストを愛さねばならなかった。呆然とする俺の隣をジジイがチャリンコのベル鳴らしながら横切って行った。さながら冥土の案内人(ヒュンケルの執事)。不死騎士団もこれまでか、そう告げるように。
衣を剥ぐな 川谷パルテノン @pefnk
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