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「うーん」


 ハルカゼと通話した後、俺は悩んでいた。


 時刻は二十二時。俺とハルカゼはライフスタイルが似ていて、早寝早起きで、朝を充実させている。


 朝活が大好きだ。


 だから、もう眠りたいのだが――。


「ハルカゼに、おやすみって言いたい……」


 まだ、俺たちはスマホを買ってまもない。


 二人の交流を増やしやすい状況、ではある。


 毎晩、眠る前にハルカゼとおやすみを言い合えたら、どれだけ素敵だろう。


 でも、きっとハルカゼも今眠るところで、再び電話をかけたら迷惑かもしれない。


 しかも、さっきの通話は最高の終わり方をした。


 今日の成果は充分なのだ。


 俺はハルカゼに話しかける時、いつも申し訳なく思っていた。


 ハルカゼから声をかけてくることが滅多にないからだ。


 お喋りも得意じゃないと言っているし、できたらそっとしておいてあげたい。


 けれども、そっとしておくと、きっとそのまま疎遠になってしまう。


 ハルカゼとお話ししたい。


 今よりもっと、というわけではない。


 ずっと、お年寄りになるまで、心地よい関係を保っていたい……。


 俺は電気を消して、ベッドで横になった。


 そして、震える指で通話ボタンを押した。


 コールが二回、三回、四回……。


 ああ、きっとハルカゼはもう眠ってしまっただろう。


 そして、明日の朝に通話履歴を見て、驚くはずだ。


 コールなんてかけなきゃよかった……。


 ――プツ。


「……もしもし、コウ?」

「あ」


 繋がってしまった。

 ハルカゼの透明感溢れる声が届いてくる。

 くすぐったい。


「ごめんね、コウ。少し眠ってた」

「こっちこそごめん。もう布団の中?」

「うん。あったかくて、足がきもちいい」


 ハルカゼがお布団にくるまっているところを想像してしまい、鼻血が出そうになった。


「すまん、ハルカゼ」

「どうして謝るの?」

「ハルカゼの声が、聞きたくなった。ただ、おやすみって伝えたくて……」


 俺がどんよりしていると、次に天使の声が届いた。


「ふふ、コウはかわいいね」

「なっ……!」


 ハルカゼ、嬉しそうだ。

 ドキドキ、胸が熱い。


「わたし、夢を見ているのかな?」

「ううん、たぶん、現実」

「コウも確信が持てないんだ」

「ま、そうらしい」

「わたしの声を聞いたら、安心して眠れると思ったの?」

「うっ……」

「心が温かいな……。コウから信じてもらえているみたいで、うれしい」

「あまり、からかわないでくれ。おやすみ。それだけ」

「うん、おやすみ。コウ? おやすみ……。わたし、とってもうれしい」

「わかったって……」


 俺は通話を切って、スマホを枕元に置いた。バッテリーは充分残っている。

 すぐ横で、ハルカゼがすやすやと眠っている感じがした。


――――――

あとがき

 応援ありがとうございます。

 皆様もぐっすりと眠れますように。

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