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――少し前の会話を思い出す。
高校に入学後、俺とハルカゼはスマホを買った。
『特にスマホへの憧れがないんだよなー』
『わたしも。ところで、スマホでいつも、みんな何を見ているのかしら?』
俺たちは、スマートフォンに疎すぎて、こんな会話を交わすほどである。
親から勧められて、購入したようなものだ。
一応、ハルカゼとは電話番号を交換しているけど、連絡を取り合ったことはほとんどない。
俺は、風呂上がり、ベッドに腰掛けながら幼馴染のことを想った。
今、ハルカゼは何をしているかな……?
少し、気になる。
こういう時のために、みんなスマホを使っているのかもしれない。
でも、ハルカゼ、寂しいからって、俺から電話をかけられたら、迷惑だろうな。
十分くらい考えて、『電話番号が間違っていないことを確かめるため』、という理由を考えて、幼馴染に連絡してみることにした。
『緊急事態になった時、操作に慣れていなくて、連絡できなかったら大変だから』という保険つきだ。
ちゃんとした理由があっての行動だ。
声が聞きたいから、という本心には、気づかれたくない。
緊張しながら通話ボタンを押すと、ハルカゼのスマホと繋がった。
「もしもし、ハルカゼ?」
「あ、うん。びっくりした」
ハルカゼの声からも、まさか急にはかかってはこないだろうという驚きが伝わってきた。
俺はゆっくり深呼吸して、用意していたセリフを告げる。
「あのさ……、もし必要な時に連絡がつかなかったら、大変だと思って、かけただけ」
「そうなんだ」
「…………」
「…………」
ダメだ、会話が続かない。
俺が心臓を跳ねさせていると、ハルカゼがこう切り出した。
「緊急時って、たとえばどんな時?」
「え? うーん」
ちょっと考えてから、シチュエーションを想像する。
「たとえば、夜、人がいっぱいいて、はぐれてしまった時とか?」
しまった、と思った。お祭りの夜のことを言っている。
これでは、君と一緒に夏祭りに行きたいと告白しているようなものだ。
恥ずかしい。
「そうね。お祭りではぐれてしまったら、大変だものね」
「うん……」
「………」
「…………」
俺は緊張で気を失いそうになりながらも、ハルカゼをお誘いする。
「こ、今年も行く? 夏祭り」
「えっ……」
なんだ、この戸惑いは。
やっぱり、高校生にもなって、恋人同士でもない男女がお祭りに行くのは、おかしいだろうか……?
こんな質問、するんじゃなかった。
今夜、眠れるかな……。
「…………」
ハルカゼは、たっぷり沈黙してから、ようやく喋った。
「コウは、毎年わたしと一緒に夏祭りに行って、その、つまらなくないかな」
「え」
「わたし、お喋り得意じゃないから。男の子のお友達と遊んだ方が、楽しいんじゃないかって……」
「うう……」
「コウ……?」
胸が熱くなってくる。
俺は震えそうになりながらも、言葉を返す。
「ハルカゼ、高校生になってから、少し雰囲気変わった気がする。その……、隣を歩いて、お祭りの夜を楽しみたいって、強く思うよ……」
「…………ぅ」
「ハルカゼ?」
小さなうめき声が聞こえた気がしたから、心配する。
「……大丈夫。コウも身長伸びたよね。昔はわたしよりも低かったのに」
「いつの話をしてるんだよ」
「コウは、わたしの隣を歩きたいんだよね」
「なっ」
俺は瞠目しながらも、頷く。
「そういうことには、なるかもしれない」
「う、うれしいな。わたしも、コウの隣にずっといたい……」
「…………」
「…………」
恥ずかしすぎる。
俺はもう、胸が熱くて泣きそうだった。
最後にお別れの台詞を紡ぐことにした。
「じゃ、そういうことだから。あったかくして寝ろよな」
「うん、ありがとう。コウの声が聞けて、よかった」
「…………」
「…………」
「……じゃ」
「また明日、ね。朝が楽しみ……」
通話を切って、俺はベッドに倒れた。
どうして、ハルカゼはこんなにも可愛いのだろう。
――――――
あとがき
お疲れ様です。今日は火曜日ですね。
僕もマイペースにお仕事に励みます。
いつも応援ありがとうございます!
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