第3話




 すると、中から銀盆に乗せられたポカポカと白い湯気を立てる彩り豊かな料理が姿を現した。



「わあ……!今日もとても美味しそうです……!」



 うふふと花が綻ぶ様な微笑みを浮かべて料理が乗った銀盆を受け取ったアリシアはそのままいつもの様に食卓机に向かおうとした……その瞬間。突然、監禁部屋の壁に立て掛けてあった大きな鏡から「第三皇女アリシアァアアアア!!この下着を着ろぉおぉおおお!!」とセクハラ紛いなことを大声で叫びながらやたら顔が良い金髪の青年が飛び出して来た。



「!!?」



 無論、突然鏡から飛び出して来た青年にアリシアは目を丸くして吃驚するが、鏡から飛び出してきた青年は扉の前で身を強ばらせるアリシアを目敏く見つけると、目にも止まらぬ早さでアリシアに駆け寄り、そのままドン!と扉に手を付いて自分と扉の間にアリシアを閉じ込めた。俗に言う壁ドンってやつである。しかし、胸キュン必須の行為も身長180センチ以上ある長身の男がやるとなると威圧感がゴリゴリで胸キュンどころではない。実際、壁ドンをされているアリシアは半泣きで青年を見上げており、誰がどう見てもこの行為にときめいたりなんかしてないことが分かる。だが、壁ドンをしている青年……大国ハルバルドの王子ハーヴァはと言うと……



(うおおおおお!?つ、つい勢いで壁に追い詰めてしまったが……ここからどうすればいいんだ!?このまま押し倒せばいいのか!?服を脱がすのか!?いや、キスをする方が先か!?)



 と、内心めちゃくちゃ焦っていた。そう。何を隠そうハーヴァは普通に歩いているだけで女性が掃いて捨てるほど言い寄ってくる自他共に認めるハイスペックイケメン王子なのだが、女性を口説いたり、女性と共に夜を過ごしたりと……一言で言うならば女性経験が一切ない、大国の王子にしては珍しい清廉潔癖な王子なのである。故に、壁ドンの状態からどういう手順を踏んでアリシアを手篭めにすれば自然な流れになるのか全く分からず、ハーヴァは完全に混乱していた。



(お、落ち着け……!落ち着いて考えるんだ……!ハルバルド・ハーヴァ!俺は大国ハルバルドの王子!!こんな敵国の王女一人手篭めにするなんてどうってことないんだ……!!う、うおおおおおお!覚悟しろ!第三皇女アリシアぁあぁああああ!!)



 混乱しながらもどうにか自分を鼓舞したハーヴァは一度深呼吸をして気持ちを切り替える。そして、怯え震えるアリシアの顎に手を添えてクイッと上を向かせると、耳元に顔を近付けて吐息を吹き掛ける様に囁いた。



「フッ、どうした?そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして……まあ、驚くのも無理はないな。だって、大国ハルバルドの王子がこんな護衛も付けずに一人で敵国の皇女が囚われている地下室に来るなんて夢にも思ーー……」

「ハルバルドの……王子……?」



 ハーヴァが『ハルバルドの王子』であると言った途端、それまで怯えていたアリシアの表情が一変し、ボッ!と日に焼けてない白い頬が真っ赤に染まる。その恋する乙女の様なリアクションにハーヴァは些か面食らうが、すぐに『フッ、俺の魅力は初対面の敵国の皇女さえも魅了してしまうのか』と謎の自己解釈をすると満足気に笑みを浮かべて頷いた。



「ああ、俺の名前はハルバルド・ハーヴァ。このハルバルド王国の第一王子にして次期王位継承者だ。第三皇女アリシア、こうして面と向かって会うのは初めてだったな」

「……ひ、ひう……で、でも……わたし、見ての通り、ハーヴァ様の好みじゃ……」

「は?俺の好み?おい、一体何を言っているんだ?」

「……う、ううっ……だ、だって……ハーヴァ様はわたしを抱きに来たんですよね……?」

「お、おぼおおおおおっ!!?」



 何も知らない筈のアリシアにいきなり目的を言い当てられたハーヴァは動揺のあまり素っ頓狂な奇声を上げてしまう。



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敵国に送られた王女が母国より良い暮らしを送るようです @3960

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