第一章 中学一年生

私は中学生になる。

 4月1日入学式。ママは、6つ下の弟の入学式に行ったから、私の入学式には来れなかった。

 けれど、私にはおばあちゃんがいる。私はおばあちゃんと、ずっと仲がいいんだから。私には、おばあちゃんがいるんだから。だからママが来れなくたって、ちっとも寂しいなんて思ってない…


 私は今日、受験日以来に自分の通う中学校の正門を潜った。この学校に来るのは、これで2回目だ。

 第一志望以外に、受ける予定はなかった。いや、そもそも第一志望に落ちる予定はなかったんだけど…


 校舎は六階まであって、エレベーターもついている。校内は、廊下から教室に至るまで、清潔感があって綺麗だった。花は沢山植えてあり、校庭は一面緑色のチップで敷き詰められていた。そんなこの学校は、「質素で古風」という印象が、まるで似合う学校だった。


 私が生まれて早12年。私は中学生になる。


 この門出の日に、ここの学校には似つかわしくない綺麗に着飾ったご婦人方と、スーツ姿の映える中年層の紳士達。それから私と同い年の12歳少女が、私と同じ服を着て、講堂に参列する。そこは、甘い香水の香りがキツく漂っていた。私には、その全てがなんだか気持ちが悪く思えた。


 入学式は、質素に、速やかに行われた。それからクラス分けが発表されて、各自教室に案内された。緑色の黒板と、木で作られた42脚の椅子が、とても大きくて広い空間だった。しかしそんな暇もなく、私達は着席早々に体育館Aに連行され、流れる時間の遅さに困惑するも、緊張がそれを感じさせまいとした。


 体育館では、クラス写真を撮った。


 この時初めて気がつく。私は、ジャケットの下に着る服の種類を間違えている。着なきゃいけないのは、紺のセーターじゃなくて、水色のベストだ。私は必死に隠した。シャッターが降りるまで必死に身だしなみを整えた。


 恥をかいた。


 しかし、この羞恥はこれで終わりではなかったのだ。と言うのも、私たちは電車の定期券を買わなくてはいけない。そのため、身分証明になる写真が必要なのだ。


 これは大事件である。


 しかし、私がそれに抗う術はなかった。私は神様を睨みつけて、この悲惨な運命を受け入れる。

 順番は出席番号順なので、13番目だ。

 あと二人…あと一人…私は、体に悪いほど激しい緊張を止めることはできなかった。なんて言っても、紺色のセーターを着たピン写真だ。

「撮りまーす。3、2、1…」


 呆気ない。


緊張がバカみたいに消えていく。これならいっそ、清々しい限りであった。


 「撮り終わった人から解散して下さい。」

時刻は午前12時前、正門で写真を一枚。おばあちゃんに写真の撮り方を丁寧に説明し、胸に花のついた私は、お日柄もよきこの日に、小学生から中学生になった。

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少女は春に咲こうと、 糸葱 糸目 @asatuki-itome

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