血の繋がっていないお兄ちゃんと恋人になる恋愛大作戦！！ 〜動き始めないと恋も愛も始まらない〜

前編 血の繋がっていないお兄ちゃんの恋人になりたいから戦略を考えました！！

「ふふふ、今日の『智哉（ともや）お兄ちゃんと恋人になる恋愛大作戦』はこれだ！！」

　壁に貼られた計画表を眺めながら、私はニヤリとした。

　私の名前は紗季（さき）。

　血の繋がっていないお兄ちゃんに恋をしている中学三年生。

　お兄ちゃんに初めて出逢ったのは私が中学一年生の時、お兄ちゃんは中学三年生だった。

　その時の関係は、ただの従兄妹同士だったんだけど――

『私は行方不明になるから、お金持ちの親戚の子になるのよ』

　母子家庭で貧乏だったお母さんと私。

　お母さんは貧乏生活から逃（のが）れる最後の手段として、お金持ちの親戚の家に私を預ける計画を企（くわだ）てた。

『あなたが無事にそこの一人息子と結婚ができたら、そこで、私たちの貧乏生活は終えることができるわ』

　二年経った今も、私はお母さんとの約束を忠実に守り、今日も『智哉お兄ちゃんと恋人になる恋愛大作戦』を実行する予定だ。

　ただ誤算だったのは、最初は戦略的にアプローチをしていたはずだったのに、気がつくと私は本当にお兄ちゃんのことを好きになってしまっていた。

　だから、今日考えた戦略は、本気でお兄ちゃんの恋人になるための計画。

『出逢い：お兄ちゃんの部屋のドアが開いたら、私も部屋から出て、偶然に出逢ったフリをしながら「気が合うね」と伝える』

『朝食：お母さんと一緒に朝食の準備をして、料理ができるアピールをする』

『通学：家を出る時間を合わせて、「あ、今から出るの？　じゃあ、一緒に行こっか」と言って、一緒に通学する』

『放課後：お兄ちゃんよりも早く駅に行って、「偶然だね。せっかくだから、一緒に帰ろ」と言って、一緒に帰る』

『帰宅後：家に着いたらお兄ちゃんは勉強を始めるから、飲み物と軽食を準備して部屋に持っていくことで、胃袋からお兄ちゃんの心を掴む』

『夜：天気予報で雨が降る予定になってたから、「雨が降ってるから、なんか寂しくなっちゃって……」と言って、お兄ちゃんに添い寝してもらう』

「よし！　これで、お兄ちゃんと私は恋人同士になれるはず」

　まあ、何度も失敗してるけど……

　今日こそはと、私は計画表を見返しながら、頭の中にその内容を叩き込んだ。

　ガチャッ！

「え？　あっ……」

　計画表を見つめながらうっとりしていたら、お兄ちゃんが部屋のドアを開ける音がした。

「まずい！！　このままだと、いきなり計画が狂ってしまう」

　私が慌てて、部屋のドアを開けると――

　ドン！

　部屋から出た途端、私はお兄ちゃんにぶつかった。

「あ、紗季、おはよう。ぶつけたところ、痛くなかった？」

「うん、大丈夫。おはよう、お兄ちゃん」

　ぶつけた鼻を抑えながら、私はお兄ちゃんに挨拶をした。

「お母さん、朝食の準備手伝うね」

　朝の出逢いは失敗してしまったから、朝食の計画は成功させて、名誉挽回しないと。

「え、別にいいのに」

「ううん、私が手伝いたいの」

　お母さんはそう言ってくれたが、私は失敗を取り戻さないといけない。

「じゃあ、遠慮なく手伝ってもらおうかしら。朝食は出来てるから、テーブルに運んでもらえる？」

「はい」

　私はお母さんの指示通り、準備された朝食をテーブルに運んだ。

　って、全然、料理が出来るアピールになってないんだけど！！

「紗季は家のお手伝いして偉いな」

「自分の家だと思って、気を遣わなくていいのよ」

　あれ？

　失敗したと思ったけど、印象は意外に悪くなさそうだ。

「それじゃあ、行ってきまーす」

「ま、待って、お兄ちゃーーん！！　私も一緒に行くーー！！」

　お兄ちゃんに先に家を出られてしまった。

「学校出るの遅くなっちゃった！！　急いで、駅に向かわないと……」

「あ、紗季。今から帰りか？」

　お兄ちゃんの方が先に駅に着いて待っていてくれた。

「あれ、今日は勉強しないの？」

「ああ、紗季の好きなデザートを作ってから勉強しようかと思って」

「ありがとう、お兄ちゃん」

　おい、私が胃袋掴まれてどうするのよ！！

「あーあ、今日も惨敗だった」

　雨予想だった天気は、少し時間がずれて、深夜から降り始めることになったらしい。

「どうして、私って何をやっても上手くいかないんだろう……」

　なかなか頑張ってるって思ってもらえないけど、本当はこれでも頑張ってるよって言いたい。

　『紗季だから仕方がないよね』って言われるんじゃなくて、『さすが紗季だね』って言われたい。

　私がもっとしっかりしてたら、お母さんと離れ離れにならずに済んだのかもしれない。

　私がもっと親のことを大切にしてたら、お父さんとお母さんは離婚しなかったのかもしれない。

　様々な過去の記憶が思い起こされて、私の目からはいつの間にか涙が溢れ出していた。

　コンコンコン！

　部屋のドアをノックする音。

「お兄ちゃん？」

　このノックの仕方はお兄ちゃんだ。

「よく分かったな」

「ノックの仕方でなんとなく」

「こんな時間にどうしたの？」

　もう寝ていてもおかしくない時間だ。

「夕食の時に暗い顔してたから、体調でも悪いのかなと思って……」

　ほんと、お兄ちゃんには敵わないなぁ。

　私が辛い時に、いつも助けてくれるお兄ちゃん。

　私はドアを開けてお兄ちゃんに泣きついた。

「私ね……」

　失敗ばかりして自信が持てないこと。

　実の親がいなくなって、本当は寂しいこと。

　それら全てを感情的に話したのに、お兄ちゃんは最後まで話を聞いてくれた。

「……ごめんね、こんな妹と一緒に暮らすことになって……」

「ううん、大丈夫。僕は妹が出来て本当に嬉しいと思ってるから」

「お兄ちゃん、ありがとう……」

　この家のお金とお兄ちゃんのステータスが欲しいと最初は思っていた。

　でも、本当に欲しかったのは、きっと、自分のことを本当に大切にしてくれる人だったんだね。

　そのことに気づいた私は、心が満たされていくのを感じていた。

「お兄ちゃん、大好きだよ。ずっと、私の傍にいてね」

　気がつくと私はお兄ちゃんに、自然とそう告白していた。