3.それが、コミュニケーション
「えっ?」
ぼくはあわてて振り向く。三角座りの阿部さんは、ひざにあごを乗せて遠くを見ている。
「わたしもな、自分のことアホやなって思とるよ。
そんなことないよ、とかばうことはできなかった。阿部さんが大きくため息をつく。
「さっきの
ぼくはドキリとした。でも、こちらを見てくる阿部さんは笑みすらなく、とても言いつくろえそうにない。
ぼくは正直に首を縦に動かした。
「想像だけど、丸いところに昔の王さまが眠っていて、お
「うん、それが一番ありそうやな」
阿部さんもうなずく。ポニーテールの先が、風に少しなびく。
「それじゃ」とぼく。「どうして、あんなウソの話をしたの? あ、もちろんおこってるわけじゃないんだけど」
「わかっとるって」
阿部さんが、また遠くに目を向ける。
「わたしな、加藤くんにちゃんと笑てほしいねん。気ぃ使て話し合わせようとしたり、笑うの我慢したり、そんなんせんでええんよ。ウソつきやて笑てくれてええねんで」
「そんな、阿部さんのこと笑ったりなんて、ぼくには……」
「加藤くん優しいもんな、そういうの慣れてへんねやろ。それに、そういうんが、東京でのコミュニケーションなんやろなぁ」
阿部さんが「そんなん味気ないわ」と、首を横に振る。
「笑わせんのも笑われんのも好きなんが、大阪のコミュニケーション、いや、わたしのコミュニケーションやねん」
その言い方は、ぼくの中で
環境が変わる、なんてむずかしい言い方を親や先生がしていたけれど、それってたぶん、人との接し方にも違いがあるってことなんだ。
「気ぃ使わんでええんよ、加藤くん。笑いたいときは思いっきり笑うてや」
阿部さんがまた、こちらに顔を向ける。目も口も笑っているのに、どこか悲しそうだ。
もしかしたら、ぼくが気づいてないところで、阿部さんはずっとこんな表情をしていたのかもしれない。なかなかわかってもらえない、そんな
ぼくはまっすぐ、うなずいた。
「ごめんね、いつも気づかってもらって」
彼女らしいちょっと
「え? わたしは別に気ぃ使てへんで」
「でも、ぼくがクラスとかで一人にならないように、声をかけてくれてたんだよね?」
「そんなことまで思てへんかったよ。ただ、加藤くんて、今までわたしの周りにおったタイプとちゃうかったから、なんていうか、気になってまうだけで……」
「ど、どうしたの?」
「べ、別にどないもあらへん。あらへんねけど……、あぁ、もうなんかはずかしわっ!」
急に大声を上げた阿部さんが、両手をバンザイして後ろに倒れる。
とたん、「痛っ」と両手を引き戻した。
「大丈夫?」
「うん、いけるけど、なんか硬いもんが手に当たってな」
阿部さんがくるりと振り返って、草の合間から何かを拾い上げる。そして、それを手のひらにのせて、ぼくのほうに見せてきた。
「……カギ、だね」
ぼくはつぶやく。細身の金属と小さなプラスチックの部分、そこから伸びるデフォルメキャラのキーチェーン。見るからに、阿部さんの自転車のカギだった。
ふと、何か来るなと感じた。
「見てみ、古墳からカギが出てきたで」
ぼくは真っ先に浮かんだ言葉を口にした。
「それを言うなら、ひょうたんから
阿部さんがおなかを抱えて笑い出した。
古墳にカギ穴 山下東海 @TohmiYA
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