シューティングスター·ヒーローズ

よなが月

第1話 平凡が終わる日

 平凡……それは僕·鷲宮わしみや夏輝なつきを一言で表すには十分過ぎる言葉であり、そうである以上に僕にとっては少々複雑な言葉でもあった。ただ、高校生活も3年目に突入し、それまで特に何事もないままここまで来てしまった……これによって、僕は嫌でも自分が平凡以外の何者にもなれない事に気付いた。でも、今年は少しでもそんな自分を変えようと大きく動いてもみたんだ……


 星ヶ崎ほしがざき高等学校はこの町のどの高校の中でも特に進学校として名高い……そして僕は今年からそんな学校の全生徒達をまとめる存在……のサポートをする副会長に立候補したんだ。そして選挙の結果、僕が副会長になったんだけど……上手く出来るか不安だなぁ。


「夏輝ーっ!久しぶりだなぁ!」

「わっ、せ、蝉沢せみざわ君……久しぶりだね。もしかして進級出来たの?」

「あぁ……春休み返上で課題を片っ端から片付けてやったぜ。何より新しく入ってくるであろう後輩達に胸張れる先輩でありたいからな!」


 蝉沢せみざわ遊人ゆうと君……僕とは小学生の頃からの親友で、中学時代には地元最弱と言われ続けてきた星ヶ崎中サッカー部を瞬く間に地元どころか全国の強豪校と互角に渡り合える程までに成長させたっていう伝説を残してるからある意味僕とは真逆の存在……だけど僕にとっては大切な友達です。


「は、春休み返上でって……言ってくれれば僕も手伝ったのに」

「何時までもお前の力を借りる訳にはいかねぇよ。だってもう今年で10年の付き合いになるんだぜ?そろそろ俺も本気で文武両道に切り替えていかないとなって」

「そっか……うん、応援するよ、蝉沢君!」

「おし、まずは手始めに実力テストでクラス内10位以内に滑り込んでやるかぁ!」

「いいね、それ!」



 3年生、しかも高校になってようやく……A組というクラスの一員になれた。他の人からするとそれくらい普通じゃない?と思うかもしれないけど、僕は面白いくらいにC組になってたから、とても嬉しかった。


「夏輝ってやっぱこの頃は廊下側の隅っこの方になるのな」

「五十音順だからね……」

「神様、今年1年マジで真面目に頑張るんで何卒……何卒……夏輝の近くに俺を導き下さぁい!」

「あはは……なれるといいね」


 蝉沢君と話している中で窓側の席……というか僕の席と丁度対角線上にある席で外の桜を眺めていたオレンジのショートヘアの少女と目があった。


「ん、あぁ……天川あまかわさんだな。あの子超可愛いし、真面目なのにコミュ力高いって凄ぇよな」

「……」


 天川涼葉すずはさん……蝉沢君とはまた違った所で真逆の存在だ。蝉沢君や周りの皆の話している通り、明るくて皆を率先して引っ張っていく……その明るさから今年の生徒会長として生徒会も牽引していくんだろうなぁ。僕なんかが彼女のサポートなんて務まるのかなぁ……


「今、あの子と生徒会を引っ張っていくのって無理かも……なーんて思っただろ?」

「う……うん。自分を変えようって副会長になったけど、僕と天川さんとじゃ色々差があり過ぎるなぁって」

「なるようになるって!何だかんだ最後は上手くやれるみたいな事ってあるだろ?」

「そ、そうだといいな……」



―星ヶ崎電脳研究センターでは、人工衛星ステラ内部で観測されたある異常について対処にあたっていた。


「ステラ内部のサーバーに過剰なウィルス反応を確認……!現在、アルタイルがこれに対応していますが……」

「アルタイルだけでは手に負えないようならお前達も出るんだ。今日は遂に例の端末が世に出るんだ……何としてでも衛星内でウィルスを撲滅しろ!」

「了解!」


 職員達が先行で試作された端末を用いて各自職員用のウィルスバスタープログラムを送り込み、衛星内でウィルスと戦っている巨大な鷲の形をした存在と共に無数のそれと引き続き戦闘を繰り広げていた。



―そして、学校では生徒会室にて各会員が自己紹介をしつつ、その後には会長の涼葉と副会長の夏輝が前任の先輩達が残した様々な取り組みの記録をまとめていた。


「天川さん、このノートってここで大丈夫……ですか?」

「うん、ありがとう!でも、そろそろ一旦休憩しない?さっきから鷲宮君、動きっぱなしでしょ?」

「このくらいバイトで慣れてるから、大丈夫です。天川さんの方こそ休んで下さい。張り切り過ぎも体に毒ですから」

「それ、鷲宮君にも当てはまると思うけど?ほら、ジュース奢ってあげるから、ついでに休もうよ!」

「この調子じゃ今日中には」

「いいの!先生には後でちゃんと説明すればいいんだし……これは私からの会長命令、だぞ!」


 天川さんは戸惑っている僕に少しムスッとした様な顔をしながら人差し指で僕の鼻の先を突きながら言った。僕はそれに折れてノートの束を一旦机の上に置くと、彼女と一緒に近くの購買部の方へ向かった。


「うわぁ……凄いね、町中にあるどの自販機よりも値段が安いよ!ねぇ、何がいい?」

「えっと……じゃあ、これにしようかな」


 僕は自販機の一番上の段にあったグレープジュースをそっと指さした。すると天川さんはニコッと微笑みながら自販機に百円玉と十円玉を1つずつ入れてくれた。


「……あぁ、ボタンが届かないんだね。後は僕がやるから……ありがとうございます、天川さん」

「じゃあ私も同じもの……お願い、鷲宮君!」

「そっか……じゃあ」


 缶タイプのグレープジュースを買った僕らは近くの席に座ってそれぞれ飲み始めた。


「これ、凄く美味しいよね!鷲宮君も好きなんだね」

「うん……小さい頃からよく飲んでるんだ。これの炭酸版もあるみたいだけど、僕はこれが好きかな」

「後味がスッキリしてるもんね……ねぇ、良かったらさ、もっと鷲宮君の事……教えて!これから一緒に生徒会、やるからね!」

「え、あぁ……うん……」



 なんて、天川さんとゆっくり話してたら……あっという間に夕方になってる!?これから蝉沢君とホシガシアのイベントホールで新型の情報端末の発表会があるっていうのに……!


 天川さんと正門前で分かれてから一歩前へ出た次の瞬間、僕の脳内に突然ホシガシアのイベントホール内で爆発が起きる……そんな感じの光景が流れ込んできた。


「今のは……一体……じゃなくて!今はとにかくホシガシアに急がなくちゃ……!」



「あー、遅いぞ夏輝!生徒会の書類まとめってそんな時間取られるもんなの?」

「ま、まぁね……」

 本当は天川さんと長時間喋り続けてたなんて間違っても……口が裂けても言えない……!


「お、そろそろ始まるぞ!リアライザーも腕に着ける感じがカッコ良かったけど、今度はどんなのになるのかマジ楽しみだぜ!」

「……そうだね!」


 さっき門の前で見たあの光景が……これから起きる事を予知してるんだとしたら……


『皆さん、大変長らくお待たせ致しました。これより、サテライザー制作発表会を開始致します!』


 会場の照明が一斉に落ちると同時に中央のステージに照明が集まり、そして壇上にはリアライザーを作った会社……エンジョイゲームズのCEO·矢崎やざきさんが立っていて、開会の宣言に合わせて隣りにあったショーケースにかけられていたクロスが取られ、中に入っていた新型の情報端末の姿がお披露目となった。


「ありゃ、何かリアライザーよりちっさくね?」

「確かに……腕に着けれそうな感じはするけど、小さいね」

『今回我が社は電脳研究センターとの全面協力の元、リアライザーを超える性能を持つ第3世代の端末……サテライザーの開発に成功しました!これは人工衛星ステラとの通信によって快適な速度で様々な情報を提供します!』


 そして次の瞬間……僕の脳内に流れ込んできたあの光景が……現実になった。突然天井から眩い光が降ってきて、会場全体の歓声は一気に騒然とした戸惑いに変わり始めた。


 そして……僕らの目の前で展示されていたサテライザーは紫色の光に包まれながら、その形を一瞬でRPGの序盤で戦う事になるゴブリンやオーガのような化け物へ変化してしまった。


 これが……僕のそれまで当たり前だった日常が唐突にお別れを告げ、全てが予想不能の連続の日々へと始まる最初の出来事だった。

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