言葉にできずに飲み込んだ想いは、重たすぎて消化不良を起こす
CHOPI
言葉にできずに飲み込んだ想いは、重たすぎて消化不良を起こす
「またねー!」
「ばいばーい!!」
小学生くらいの子たちが大きな声でそれぞれの別れの挨拶を告げながら、それぞれの家へと帰っていく。その様子を眺めながらぼんやりと、懐かしいな、と思った。あの頃は当たり前に帰る家があって、当たり前に「ただいま」「おかえり」を言う人たちが居て。自分にだってそのような時期があった。もうかなり前の話になってしまう、そんな年代だけれど。
空を見上げると夕焼けが奇麗だった。夕焼けってなんですごくノスタルジーを感じるんだろう。小さい頃の記憶がそう思わせるのか、それとも別の何かがそう感じさせるのか。理由はよくわからないけど、夕焼けを見るたびに少し寂しくて切ない気持ちになる。“戻れないあの頃”の象徴の一つに夕焼けの景色がある気がする。そこまで考えて頭を横にふった。考えすぎだ、疲れている証拠だと思う。
家について部屋に入る。近くのコンビニで買ってきたものをテーブルの上に放り投げておく。洗面所に向かって手を洗ってうがいをして。部屋に戻ってテーブルの上に投げ出した荷物をゴソゴソとかき回す。少しアルコール度数が高めの缶チューハイ、おつまみは適当にピーナッツ。プシュッ、と缶を開けてそのまま一口。行儀が悪いのはわかっているけど、コップを出す元気もない。テレビのリモコンに手をかけ適当にザッピングしたけど、どの番組も頭に入ってこず早々に電源を落とした。頭がぼーっとする。やっぱり今日は疲れているみたいだと、どこか俯瞰的に見ている自分がいた。
帰り道で見た夕焼けを思い出した。疲れている分アルコールが回るのが早いのか、あの夕焼けを思い返しただけで涙が出そうになった。“帰りたい”と強く思う、でも同時にそれが“どこ”なのかが分からない。実際にある場所なのかも、正直よくわからない。だけどなんだかもう、ずっと長いこと探しているような気もしている。帰り道が分からない、迷子のような気分。何に迷っているかすら、見えていないというのに。
何とも言えないモヤモヤがずーっと頭の中をぐるぐる回っている。こういう時、どうしていいのか未だによくわからないでいる。大人になって助かったと思うのは、このグルグルをやり過ごす手段にアルコールが増えたことだ。胸につっかえたものを一緒に流し込むように缶チューハイを煽る。美味しい、とはあまり思わない。本当は日によってはジュースだったりもするけど、モヤモヤがひどい今日みたいな日はアルコールの方がいい。
今日もまたそんな想いを何も解決しないまま、それでも何とかやり過ごして明日を待つ。長いこと痛みを感じ続けている心は、それでもいつかマヒして痛みを感じなくなる日が来るのだろうか。それともこのままずっと、生きている限りはこの痛みと付き合っていかなくてはいけないのだろうか。
酔いが回ってきて目を瞑る。
――あぁ、良かった。
夕焼けはもう、見えなくなっていた。
言葉にできずに飲み込んだ想いは、重たすぎて消化不良を起こす CHOPI @CHOPI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます