神の嘆き! 怒り! 捨てられる聖女や勇者に付きまとう神の苦悩

大熊猫小パンダ

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 決して人が干渉することの、認識することのできない場所。

 次元が違うその場所を、人は『天界』や『天国』などと呼ぶ場所。



 そんな場所に存在する一つの場所。

 人間の、会社の部署のような名前を付けるならば――『救世部』



 その役割は簡単、人の歴史の存続を途絶えさせてしまうような存在が確認されたとき、俗に聖女は勇者と呼ばれる神の力の器足りえる人間。『代行者』を選び出して力を与え、代行者に世界を救済させるための部署である。



 人の歴史を存続させる。

 それだけを聞くと、神々がとても人にやさしいように聞こえるだろうが、どうしようもない事態になれば世界そのものを畳んでエネルギーへと還元・消滅させてしまう。回収したエネルギーで新しい世界を創造したほうが収支が合うからである。



 神々が存在し続けるための生命線とも言える『救世部』だが、神々や天使たちの間でこう呼ばれている。


 

 ――『カミシニの部署ブラック部署』と。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 その場所はどこまでも続く塔をイメージさせた。

 下に、上に延々と続く円形の壁によって構成された場所。しかし、よくよく見るとそれは壁などでなく、また棚でもない。隙間なく並べられたブラウン管テレビのようなモニターによってその場所は作られていた。



 モニターには様々な、神々が作り出した数多の世界が映し出されていた。

 無限とも思えるその数に辟易しつつ、モニターの壁のよって形成された塔の中を天使が忙しく飛び回る。



 ここは『救世部』

 数多の世界を監視し続け、何かが発生したときに対策を考えて実行する部署だ。神々が存在し続けるために、そして天界を維持するためのエネルギーを確保するために、日夜画面とにらめっこする部署だ。



 とはいえ、本来はそこまで忙しい部署ではない。



 世界を創った神次第ではあるが、世界に問題が起きないようにセーフティを用意したうえで、小さなことであれば世界の自浄作用でどうとでもなるように創られている。

 これは神が世界を創る時の絶対のルールなので、本来であれば問題は起きないはずなのである。



 そう、本来であれば……。

 とはいえ、どんなに万全を期してもエラーは発生する。だからこそ『救世部』なんて部署が存在するのだ。



 『救世部』を現在管轄する、いまだ名を持たない若い神のもとに、塔を形作っていた一つのブラウン管モニターを持ってくる。その画面には……




『偽聖女○○!! 国を騙した罪でおまえを追放する!!』(王子である私を敬わない聖女など不要だ! あとお前の妹のほうが素直で可愛いし有能だぞ! 消えろ、醜女めっ!)

 


 茶番であった。



「なんでそぉなるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 しかし、それらを管轄する神からすれば大問題だった。

 画面に映っている聖女は本物だ。まぎれもなく、『救世部』が見つけた世界の危機。それをどうにかするために神の力を与えた代行者。



 もう一度言う。『本物』であると。



「え、なんで!? 自分より上の立場にいる姉が許せないから王子と結託して存在しない罪のでっち上げ! からの追放! ばっっっっっかじゃないの!」



 とある世界の人間からすると、ここから追放された聖女とそのお助け達によって状況は一気に逆転し、ざまぁされてるのが楽しいんだよ。などと言うのかもしれない。だが、それは物語だからそう言えるだけであり、世界の危機に対する救済措置を邪魔された神にとってはたまったものではない。



 ピーッ!! ピーッ!!



 神が頭を抱えていると、甲高い警告音がいくつも鳴り響く。先ほどのブラウン管モニターと同じように壁から抜きだされ、神の前へと移動してくるモニターに映るもの。



『第七代聖女○○様。 第八代聖女○○様の代わりに前線での戦闘・支援をお願いいたします』(大した援助はしないけどね。せいぜい頑張って敵を減らした上で亡くなるをお祈り申し上げます。)


『勇者○○。魔の勢力と結託し人類を滅ぼそうとした第二の魔王としてお前を処刑する!!』(人心を集めすぎた英雄なんていらないから退場させるね)


『不当不屈の聖者○○!! 国家転覆の容疑で貴様を断罪する』(神の声を聴いたことなんて一度もない似非教会だけど、都合の良い教えに違反するから死んで)


『剣の乙女○○。王族を毒による暗殺未遂で処刑する』(似非ヒロインの嫉妬で殺される剣の乙女様かわいそう……。でも人間関係の立ち回りが下手だから仕方ないか)



 等々etc……。

 


 神が世界に生み出した代行者たちが、守られるべき者たちによって不当に追放、ないし処刑されていく映像だった。

 ちなみに、カッコ内の言葉はその世界の人間たちの本音である。



 す、救えねぇ……。



 想像してほしい。

 自分がこうしておけば大丈夫だから。そう、親切心で労力を無駄に払ってまで作り上げた安全策。それを全くの無視。ないがしろにされた時のことを。その気持ちをっ!!(血涙) 



 そもそも代行者という存在を生み出すこと自体、神にとって本来ならばしなくて良い出費であり、エネルギーの無駄遣いなのだ。

 神の力は確かに強大だが、それをそのまま人間の体に宿すことはできない。器の大きさや強度、そもそも認識できる次元の問題と、問題が恐ろしいほど多く存在する。

 そのため、わざわざ人間が使えるエネルギーに変換しなければならず、100のエネルギーに対して1しか渡せていない。それでも人間が扱えるエネルギー基準にすれば膨大になるのだが、失われた99のエネルギーの回収には当然のことながら時間がかかる。

 具体的には、代行者が世界を救ったことで神への信仰心が高まった状態。それが200年程度継続することでようやく回収出来る。逆に、200年以上たつと人間は世代交代によって当時を忘れてしまうので、それ以上の時間をかけなければ回収できないコストをかけることはマイナス以外の何物でもない。



「なのに……なのにぃ……」



 神は嘆いている。



「率先して無駄にするんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 


 神は……怒り狂っていた。さもありなん。



「滅びたいの? ねぇ滅びたいのっ!? お望みなら世界閉ざすよっ!?」



 そう叫ぶ神の後ろ姿に、天使たちは同情しつつも遠ざかっていく。誰だって理不尽な事態に巻き込まれたくないのだ。天使であっても。

 


 経営者の苦労を、労働者は実感の伴う理解をしない。

 労働者の言い分を経営者は理解できても、それに寄り添うことはできない。



 会社経営のそれが、神の世界でも通用するとはどこの世界の人間が思うだろう? いや、思うまい。



 ピーッ!! ピーッ!!



 そしてまた、不幸の教えのおかわりがきた。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 その時、神にとっての救いが訪れた。

 神の胸元(?)にあったバッチのようなものが赤く光る。

 


「あ、失点が増えてクビになった」



 いくら不可抗力であろうと失態は失態。失態を重ねた場合、回数をカウントしていたそのバッチが赤く光り神の資格をはく奪。天使へと降格させるというものである。

 本来であればだれもが厭うであろうそれ。しかし、この神にとってそれは救いだった。



「も、もう! もう、この無意味な監視をしなくていいなんて最高ぅ! 自由はないけどそれはいつものことだし責任は上に押し付けられる! ひゃぁぁぁはぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 神は、神から今しがた降格されて天使になった存在は狂喜乱舞した。

 こんな解放感は、自分が生まれてから初めてだと。心の底から喜びを感じていた。



 その部署、『救世部』はまごうことなき『カミシニの部署ブラック部署』であった。 







 代行者たちにはやさしくしてねっ!



 To Be Continued……? 

 後任の神の嘆きが……怒りが聞こえる。(続かない)

 



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