四話 学校へ行こう(二)

 翌日、早速学校へと行く為に緋月一行は準備を終わらせて事務所の前に立っていた。ちなみに服装は来た時のままなので、宵霞以外は晴明の術で姿を隠している。


「アタシ有名人だから、もしバレたらごめんね〜」


 もちろん人気絶好調の宵霞も変装をしているが、帽子からはみ出た白い髪はとても珍しい為、バレるのも時間の問題だと宵霞は踏んでいる。


「だいじょーぶ! 宵姉がすっごく人気なのは昨日の……てれび? 見てよぉく分かったから!」


 昨日のライブ映像を見てからずっと上機嫌の緋月は、宵霞の周りをぴょんぴょんと跳ねながら答えた。時折うろ覚えの曲を口ずさんでいる。


「あはは、何処にいるか分かんないけどありがと緋月〜!」


 晴明の術はある程度見鬼けんきの力があれば見破ることが出来るのだが、宵霞にはそこまでの力が備わっていないため緋月達の姿は見えていない。その為、彼女は声がした方向に嬉しそうに手を振るのであった。


「いいかい? 緋月、紅葉。この術は姿を見えなくするだけであって、声はハッキリと聞こえてしまうんだ。人の多い所では喋ってはいけないよ?」


「おう、宵霞姉さんにもバッチリ聞こえてるみたいだしな。喋んなよ緋月、鼻歌も無しだ」


 晴明は緋月と紅葉に向かって術の注意点を説明する。無論紅葉は理解しているようで、未だに鼻歌を零している緋月に向かって更なる注意をした。


「うっ……分かってるよぉ……!」


 鼻歌を指摘された緋月は、痛い所を突かれたと言う様に目を逸らすと、おずおずと答えた。


「とにかく行こっか! 多分、ここに居たらすぐアタシってバレちゃうし……」


 そう言って宵霞は歩き始める。緋月達は慌ててその背を追いかけた。学校までの道のりを知っているのも、この現し世に慣れているのも宵霞だけだ。そんな彼女を見失えば、緋月達はどうしようも無くなるのである。


 見慣れぬ石造りの住宅地を抜け、何処か壱番街道に似たような雰囲気を醸し出す商店街を通り過ぎ、牛の付いていない静かな牛車が横を通り過ぎる道を真っ直ぐに歩いて、ようやくそれらしい立派な建物が見えてきた。

 途中、熱狂的な宵霞のファンに気付かれ声をかけられたり、前からやってきた小さな犬に晴明が吠えられたりと色々あったが、どうにか大きな問題を起こさずに辿り着くことが出来たのである。


「流石に正門からだとバレるから、裏門から行くよ〜」


 宵霞は耳のいい緋月に聞こえるか否かの声量で告げた。よく見ればパラパラと同じ制服を来た人達が正門を通り過ぎ、校内へ入っているのが分かった。


 そうしてぐるりと学校の外周を周り裏門に辿り着いた時、そこには一人の初老の男性が立っていた。


「……おや! お待ちしてましたよ、宵霞君。久しぶりですね、お元気でしたか? ……それに、御家族の方々も。隠り世から遥々、ありがとうございます!」


「校長おひさ〜! アタシはこの通り超元気!」


 影津の様なカッチリした服装の男性はにこやかに宵霞に手を振ると、しっかりと緋月、紅葉、晴明に目を合わせてお辞儀をする。宵霞も嬉しそうに手を振り返していた。


「っ! 俺たちが見えてんのか!?」


「おや、これはこれはご丁寧に」


 紅葉はその校長と呼ばれた男性が自分達を見ていることに驚いて後ずさったが、晴明は動揺を見せることも無く同じくお辞儀を返した。


「…………」


 そして、その場でただ一人、緋月は呆然としたまま立ち尽くしていた。その表情には驚きと困惑、そして微かな畏怖が混ざっている。


「この人……かみ、さま……?」


  呼吸に交えて落とされたその言葉は、その場にいる誰もの表情を驚愕に染め上げた。

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