第42話 正確な宝の地図

「これが、集まった情報を元にして書き直した地図だ」

「そうそう! こういうのが欲しかったんだ~!」


 私と園生くんはフロンデさんに呼ばれて自由業組合に来ている。

 そして私たちが座っているテーブルには一枚の地図が広げられていて、フロンデさんにお願いしてから数日もかからず、私たちがバングルさんから書き写した地図よりももっと詳細な地図を完成させていた。


「こんな短期間で作れちゃうものなんですか?」


 私が思ったことを素直に口に出すと、フロンデさんは少し得意げな顔をしながら腕を胸の前で組む。


「俺を誰だと思ってるんだ。これでも一組合の運営を任せられてんだ、色々なつながりってもんがあんだよ」

「なるほど、横のつながりとか色々あるんでしょうね」


 私がフロンデさんに素直に感心していると、横で静かにフロンデさんが書き直した地図を見ていた園生くんがブツブツと独り言を言っているのが耳に入ってきた。


「まだバングルさんは知らないだろうし、合流して一緒に行った方がいいのかなぁ……」


 そもそも私はマイダの国から出たことがないのだけど、この周辺は安全なのかな?

 また、どろぼうとか……それよりも凶暴な野生動物とかいたら……。


 思わず、野生動物に襲われる想像をしてブルブルと身震いしてしまった。


 どちらも自分の世界に入ってしまっているなんでも屋の二人を見て、フロンデさんが頭を掻きながら小さくため息をつく。


「とりあえず、あいつに言ってやれ。それから一緒に行くもよし、一人で行かせるもよし、好きにしたらいいんじゃねえか?」



 私たちはフロンデさんの地図を受け取り、バングルさんの元へと向かうことにした。何度も通ったことのある道のはずなのに、急に「冒険者組合」や「武器商人組合」、「武具屋組合」など冒険に関係する文字を意識してしまう。


 まだ、一緒にお宝を探しに行くと決まった訳じゃないのに緊張しているのかもしれない。


「律歌ちゃん、何かあった?」

「……えっ」


 周りの看板に注意がいっていたので、園生くんの言葉の真意を測りかねてしまった。

 園生くんはさっきよりも歩調を緩めながら、私の顔をジッと見つめてきた。


「何か気になることがある?」

「気になること……」


 私は少し迷ったけど、今の気持ちを簡単に吐き出した。

 このタイミングで言うなんて、「この先のお宝探しは頑張ってくださいねー」と突き放しているように捉えかねない。なので、言葉選びは少し慎重に説明した。


 その間、園生くんはただ黙って耳を傾けてくれた。


「そっかぁ。この街の外に出ることについては確かに不安があるよね。地図を見る限りだとここからそう遠くはないし、まだ安全な地域だからそう心配しなくても大丈夫だと思うよ」


「あとは……」とあごに手を添えた園生くんはイタズラッ子のような目でこちらをみると、楽しそうに言葉を紡いだ。


「バングルさん次第じゃない?」



 楽しげに笑う園生くんと緊張で胃がきゅっと縮む思いの私はバングルさんのいる家へと向かっていった。



 ***



「あ、ニーア? 悪いんだけど、うちのなんでも屋が困ってたら助けてやってくんない?」

「んー……僕、可愛い子の依頼しか受けないことにしているんですよね」

「ニーアからしたら少し年上だが、可愛いぞ」

「あんたが?」

「あ、あぁ~イヤイヤ、俺じゃない。困っているかもしれない子が、可愛いぞって」

「ん~可愛い子が困っているのは世界の損失ですからね、わかりました。チエも同行させます?」

「そうだな」


 薄暗い部屋の中で大きな影と小さな影がゆらゆらと動いていた。ふたつの影に、もうひとつ小さな影が増えた。


「ちょっとぉ……チエは別に可愛い子が困ってても別にどーでもいいんですけどぉ」

「あ、あぁー……でもほら、イケメンが困ってるのは損失だろ?」

「うんにゃ、全然。むしろ困っている姿に母性が刺激されてたまらんのですけどぉ!」

「イケメンが困ってる姿が間近で見られるぞ?」

「ホント!? 行くいくぅー!!」


 大きな影が手で頭をおさえるような仕草をした。

 はぁ、疲れる……と小さくぼやく声は宙に消えていった。

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2週間で夢を見つける方法 たい焼き。 @natsu8u

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