第41話 協力者を探して
3日後、私と園生くんは改めてクラトさんのお宅にお邪魔した。
「もう、大丈夫なんですか?」
「うん。単純な脱水症状だったからな」
私とクラトさんの会話を黙って聞いていた園生くんが、腕を胸元で組みながらクラトさんを軽く睨む。
「たかが脱水、って甘く見てたらいつか大変な目に遭いますからね? 気をつけてくださいよ?」
園生くんがムスッとした声でクラトさんにいう。
それを聞いたクラトさんが苦笑いを浮かべながらポリポリと頭を掻く。
「……はぁ、悪かったよ。で、だ。アイツのことで何かあったんだろ?」
「そうそう、それなんですけどね……」
私たちはクラトさんに、バングルさんに会えたことや彼の現状、あのお宝探しに付き合うことになったことを報告した。
話を黙っていたクラトさんは喜んだ表情を見せたりしたけど、最後の途方もない宝探しの話については私たちを気の毒そうな顔で見ていた。
「……で、その怪しい宝物探しに付き合うのか……?」
クラトさんが半分死んだ目をしながらこちらを見る。私と園生くんは顔を見合わせてお互いの気持ちの奥底をうかがい合う。
やがて、園生くんが少し重い口を開いて答えた。
「正直、今のままでは簡単に宝物が見つかるとは思っていません。なので、一応情報収集というところからスタートしようと考えてます」
「……そうなのか」
クラトさんが小さな声で「きっついな」とぼやいた声も私には聞こえた。チラリと園生くんのほうを見ると、彼の耳には届いていないみたい。
園生くんはジッとクラトさんの目を見つめて「助けてください!」と必死に訴え始めた。
「情報収集とは言ったものの、各組合で依頼するのも時間がかかるし……クラトさんも協力してくれませんか?」
「……ぅえっ……」
クラトさんからあからさまにイヤな声が漏れた。あぁ、声だけじゃなくて顔からもイヤそ~なオーラが溢れている。
そんなクラトさんの態度にめげずに園生くんが更に圧す。
「そこをどうにか……っ! 僕たちを助けると思って! ね?」
園生くんが少し小首をかしげながらクラトさんにお願いする。
その仕草に、クラトさんが心底めんどくさそうな顔をした。でも、園生くんの態度に根負けしたのか頭を掻きながら、一度項垂れると大きくため息をついてクラトさんは天を仰いだ。
「わぁったよ。でも、そんなに協力はできねーぞ」
「わぁい! ありがとうございます!」
「……そのブリッコキャラはやめろ」
クラトさんが寒がるように二の腕をさすった。
それから私たちはこれからのことを話し合った。
私はマイダの国についてはあんまり詳しくないけど、クラトさんはかなり詳しく土地勘はもちろん、顔も広いようで私や園生くんではたどり着けないような人脈からも情報が得られそうだった。
なので、クラトさんは単独で動いてもらって私と園生くんは二人で一緒に動くことにした。
園生くんとタイムの散歩ルートで情報を集めたり、組合で聞いてみることにした。
「いや~街の外に宝があるなんて聞いたことないなぁ~」
「子供のお遊びなんじゃない?」
「誰かのイタズラっぽくないか?」
街の人たちに聞いても返ってくる答えはどれも否定的なものばかり。
何となく想像はついていたけど……ね。
「うーん……やっぱりこれといった情報はないみたいだね~」
園生くんも半分予想していたのか、頭の後ろで両手を組みながらあっけらかんとしていた。
「そうなると残りは組合での情報にかけるしかないかなー」
「ほんの少しで良いから何かあればいいんだけど……」
私たちはタイムを連れたまま自由業組合へ顔を出してみることにした。
タイムはいつもよりも散歩時間が長くなったことが嬉しいのか、歩き方がどこかルンルンと軽く見える。
お尻としっぽがフリフリしていて可愛い。
「どうもー」
相変わらず人気のない自由業組合の外観に、初めて来たタイムは少し戸惑っているみたい。
そんなことなど気にもとめず、園生くんがタイムを連れたままズカズカと組合の中に入っていく。
タイムは初めて入る建物が怖いのか、すっかり尻尾も耳も垂れ下がり、リードに引っ張られながらズルズルと店の中に入っていく。
「おー。今日はどうした?……何だ、新入りか?」
自由業組合のフロンデさんからは相変わらずめんどくさそうな返事が返ってきた。でも、タイムを見て表情が和らいだ。
それから、フロンデさんは私たちに空いてるイスを勧めながら建物の奥へと消えてしまった。
その間に、園生くんがここに着くまでに街のみんなに言われたことをブツブツぼやきながらまとめていた。
タイムは私の横でちょこんと座って、しっぽを私の足にそっと絡ませて静かにしている。
しばらくすると、フロンデさんが戻ってきた。その手にはお皿が2枚あり、それをタイムの前にゆっくりと置いた。
チラッとのぞくと、1枚のお皿には水が、もう片方にはご飯のような穀物とよくほぐされた肉が乗っていた。肉はよく焼かれているようで、ほんのり焼き肉の良い匂いが漂ってくる。
タイムの鼻孔も匂いにくすぐられて、固く閉じた口の端からよだれが垂れそうになっているが、そんなことも気にならないくらい目の前のご飯から視線を外せないでいる。
「食べていいんだよ」
フロンデさんが私たちへと投げる声色とは全く違う、優しい声音でタイムに声をかける。
タイムはチラリとフロンデさんを見てから私と園生くんを見て指示を待っているようだった。
園生くんがフロンデさんの声色の違いに目を見開いている。
私もびっくりしたけど、そんなあからさまに態度に出さなくても……。
「んだよ、そんな目で見るんじゃねーよ」
フロンデさんも恥ずかしいのか、いつもよりも言葉遣いが荒い。
照れを隠すかのように乱暴にイスに座って足を組み、「で?」と私たちに今回の目的を話すように促してきた。
「これなんですけどね、何か情報知ってれば教えて欲しいんです」
園生くんがバングルさんの持っていた地図を書き写したものを目の前のテーブルに広げながらフロンデさんに聞く。
「……は? 何だよ、これ。ふざけてんのか」
「大真面目です」
園生くんが真剣な顔でフロンデさんを見る。
が、途端に表情が崩れてフロンデさんにすがるように泣きつく。
「バングルさん、大真面目なんですよ~! これの目印の所に宝があるって、何の確信もないのに信じてるんです! 僕たちを助けてくださいよ~」
「だぁっ、わかった! とりあえず、抱きつかないでくれ、むさ苦しい!」
くすんくすん、とわざとらしく泣き真似をしている園生くんをよそにフロンデさんは改めて地図を見る。
そのうち、地図を回転させたり裏返してみたりしていたけど「ふむ……」とつぶやいたまま動かなくなってしまった。
「え、っと……フロンデさん……?」
「あー……」
壊れた機械のようにブツブツとつぶやくフロンデさんを眺めていたら、彼の独り言が少しずつ大きくなっていった。
「一応、みんなに聞いてみるか……? いや、それかワンチャン……。……いやでもなぁ……」
「……」
「うん、そうだな。ものは試しだ、なんでも屋、これ借りて良いか?」
やっとフロンデさんが私たちに答えてくれた。
園生くんの目が心なしかキラキラしているように見える。
「何かわかりそう?」
園生くんの声に期待がこもっているのが私にも伝わってくる。
確かに私的にもなんでも屋的にもこの依頼を成功させたい。そのためには手がかりになるものは何だって欲しい。
「わかるかどうかはわからないけど、まぁ一応調べてみよう」
「ありがとうございます!」
私たちはフロンデさんの調査結果に期待しつつ、自由業組合をあとにした。
フロンデさんは何か情報がつかめたら園生くんに連絡をとるという算段になった。
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