第6話 薬物(2)

 集中しろ、集中!集中!

 体力はもうほとんど残ってない。もう少し運動してたらとも思うが今はそんなことを考えている場合じゃない。集中。集中。

 松井が近づいてくる。ゆっくりとだが確実に。松井の手が一気に俺の服目掛けて伸びる。速い!だが、見える!俺は松井の手を避けて両手で握った金属バットを勢い良く松井の頭に叩き込む。

 「ぐわあああああ、痛ぇぇぇぇ!」

 松井が頭を押さえて叫ぶ。俺は間髪入れずに松井の顔面に向けて金属バットを振る。一度だけでなく、二度三度振る。

 とうとう松井は倒れる。俺は息を切らしながらも中島の方を振り返る。

 「はぁ、はぁ、どうだよ!柔道に勝ったぞ!はぁ、はぁ、つっても現役のヤツではないだろうけど。」

 現役で続けていたなら俺に勝ち目はなかったな。

 「後ろを見ろ!」

 中島が叫ぶ。俺は後ろを振り返る。次の瞬間俺は勢い良く地面に叩きつけられる。

 「っううううう!!」

 マジかよ、まだ立つのかよ!?俺は背中の痛みに涙目になりながら松井を見る。なんなら涙が頬を伝っている気がするが。

 松井は頭や鼻から血を流しつつ立っていた。俺の方を見ている。そして、拳を握り、俺の顔面に叩き込む。鼻に今まで感じたことのない痛みが走る。くそ、こんなところで終わっちまうのか。

 「何やられてんだ。」

 松井も俺もその声のした方を見る。塩崎だ。遠藤は地面に倒れている。意識はあるようだが俺同様動けないぐらいボコボコにされている。

 「柔道か?」

 「そういうお前は空手か?」

 「今はボクシングだ。」

 「なるほど、現役ってところか。」

 「ああ、分かるだろ。現役じゃないお前が現役の俺に勝てると思うか?」

 「多少のブランクってヤツだ。現役といってもまだ日は浅そうだしな。」

 「そうか、それならやってみろ。」

 「お言葉に甘えて遠慮なく。」

 松井が動く。服を掴もうと素早く手を伸ばす。しかし、服に触れるより速く塩崎の拳が松井の顔面に届く。

 「っ!?」

 「何驚いてんだよ、当たり前だろ?現役の俺と現役じゃないお前、どちらが強いのかなんて。」

 塩崎は二度三度松井の顔面に拳を叩き込む。松井は何度も服を掴もうとするもことごとく避けられ、攻撃を浴びせられ続ける。そして、とうとう松井は地面に膝をつく。

 「勝負ありだな。」

 「勝負ありだ?確かに喧嘩じゃどうやら勝てないみたいだが勝者はこの俺だ!」

 そう言うと松井はコートの中から黒いものを取り出す。映画やドラマ、漫画でしか見たことのないものがそこにはあった。拳銃である。拳銃を塩崎に構える。

 「動くな!撃たれたくなきゃな!」

 「くそっ。」

 まずい。拳銃を向けられたんじゃ塩崎は動けない。俺は背中の痛みに耐えながら立ち上がる。あと一発頭に金属バットを叩き込んでやる。そうすればさすがにもう立ってられないはずだ。俺は慎重に松井の背後に近づいていく。ダメージを負った松井は興奮ぎみになっており、目の前の塩崎しか見えていない。拳銃持ってるからってビビるな!震えるな!俺なら出来る!なぜなら俺は運が良いほうだからだ!いける!

 「松井!後ろにいるぞ!」

 「っ!?」

 この声は遠藤だ。叫ぶ体力が残ってやがったか、もうやるしかねぇ!集中!

 松井は遠藤の声に反応し、後ろに顔を向けようとしている。俺はその頭に金属バットを叩き込んだ。

 「ぐわあああああ!」

 松井は叫びながら地面に倒れる。その際に拳銃を手から落としていたので素早く回収する。これでもう銃はねぇはずだ。

 「中島、証拠の写真は撮れたか?」

 「ああ、一応二、三枚は撮れてる。」

 ならもう勝負はついたな。

 「塩崎、もう良いだろ?証拠もあんだし、警察に持っていきゃ遠藤は終わりだ。」

 塩崎は何か考えている様子だ。しばらくすると塩崎が声を発する。

 「まだだ。」 

 「は?」

 「遠藤は薬を買う顧客、松井が薬を売る売人ってところだ。」

 「それがどうかしたのか?」

 「考えてみろ、松井一人で出来ると思うか?」

 「そりゃ確かにそうだが、警察に任せたほうが良いだろ?俺ら別に警察でもなんでもねぇんだからよ。」

 「松井のグループがあったとして俺らの同級生だったらどうする?」

 「それは…。」

 そうだ。俺はもともと塩崎たちと行動してるのは確証を得たかったからだ。山中が関係しているんじゃないかという考えがあったからだ。

 松井のグループが高校の同級生で構成されている場合、彼らは無職で働き口がなく、そのため犯罪に手を染めているのかもしれない。

 「確かめよう。松井の携帯にグループのやりとりがあるはずだ。」

 「ああ。」

 俺と塩崎は松井に近づく。松井は意識を持たせるのがやっとのようだ。動く気配はない。俺たちは松井の服のポッケに手を突っ込む。

 「あった。」

 塩崎が携帯を取り出す。

 パスワードがかかっているみたいだ。塩崎は松井の手を携帯に当てる。すると、画面が開いた。指紋認証のようだ。

 トークアプリを開き、トークの履歴を見る。そこにはグループのやりとりがあった。

 見てみると知っている名前があった。鶴橋圭人(つるはしけいと)。かつての高校の同級生であり、よく遊びもしていた俺たちの友の名がそこにはあった。

 

 

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Asaka @tanakakyouhei

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