第5話 薬物(1)
「出てきたぞ、遠藤だ。」
奥田さんのことを思い出してぼーっとしていたが塩崎の声で我に返る。見ると、遠藤が会社からちょうど出てきたところだ。相当焦っているのか足早に会社から離れていく。
「今から薬をやる気だな、行くぞ。」
そう言って塩崎もその後ろにいた俺や中島も遠藤のあとをついていく。
*
奥田さんとすれ違った日、遠藤の帰宅するルートの下見を行った。すると、人気のない道があることが分かった。
「おそらくここだ。この道で遠藤は薬を使用するはずだ。」
「確かに使うならここだろうな、んで作戦としてはどうするよ?」
「簡単だ。ヤツが薬を使用しているところをカメラに収めて警察に提出する。」
「そんだけ?」
「そんだけだ、簡単だろ。俺達は遠藤のあとを付いていって薬を使用するところをカメラに撮る。あとは警察に任せとけばいい。このまま今日は解散して、明日遠藤が退社するであろう時間より前の十七時ごろに会社近くの店に集合だ。」
「ああ、分かった。」
と中島が返事をする。
それにしても中島ならともかく奥田さんと同じく高校時代空手部だった塩崎が気づかないとはバカなヤツだ。俺は気づいたのに。と塩崎のほうを見ていたら目が合ってしまった。
「唐沢、お前も分かったか?」
「ああ、分かってるよ。」
「俺の顔なんかついてるか?」
「いや、相変わらずバカな顔してんなと思ってよ。」
「お前も相変わらずバカ丸出しな顔してんな。」
「なんだと!この野郎!」
「止めとけよ、どうせお前じゃ口喧嘩したところで勝てないんだからよ。」
くっそー、実際その通りなんだよな。高校時代の時から何かと口喧嘩で勝とうとしていたが一度も勝てたことはない。俺は勝つことを諦め、気になっていたことを話す。
「そういや、なんでお前は薬持ってんの?」
「言ってなかったか?情報提供してくれる人がいてな。その人から薬を入手し、遠藤が薬物をやってるという情報も入ったわけだ。」
「なるほど。」
「ああ、そろそろ解散して明日に備えよう。」
*
翌日の今日十七時頃集合し、今に至る。田城には昨日解散してから何度か連絡してみたがいまだ返信はない。何かあったのだろうか?
そんなことを考えながら歩いているといつの間にか人気のない道に入っていた。足早に移動していた遠藤の足が止まる。ポケットから何かを取り出す。あれがーー。
「薬物だ。中島、携帯で写真を撮るぞ。」
「分かった、塩崎。」
中島と塩崎が携帯を取り出す。
「何撮ってんの?」
後ろから男の声がし、振り返る。その直後顔面に痛みが走り、俺は体が壁にぶつかる。殴られた、野郎!俺は持っていた金属バットをその男に振る。男は簡単に片手でガードする。
「すぐに殴れるなんて躊躇がねぇな、慣れてる。」
「二回やってりゃ案外体が動くんだよ。」
待てよ、こいつ。松井純(まついじゅん)だ。高校時代遠藤と仲が良かった男だ。松井は野太い声で遠藤に話しかける。
「遠藤、お前が薬やってるの撮られるところだったぞ!」
「マジかよ、こいつら。高校の時の陰キャグループのやつらじゃねぇか、何撮ってんだよ!くそ!」
遠藤もこちらに近づいてくる。まずい、挟まれた。中島と塩崎を守りながら戦うには二対一じゃきつい、どうする?すると、塩崎が話しかけてくる。
「唐沢、お前は松井を頼む。俺は遠藤をやる。」
「なんだ、戦えるのか?空手続けてたんだな。」
「今は空手はやってねぇ、ボクシングだ。」
そういうと塩崎は遠藤の前に立ち、構える。松井の相手をしろなんて言ってくれる。松井は高校時代柔道部だった男だというのに。とはいえ、やるしかねぇ!俺は松井の方を向き、構える。
「お前が俺の相手か?」
「ああ、俺はてめえに全く恨みはねぇが協力するって言っちまったからな。やらせてもらう!」
俺は勢い良く金属バットを再び振る。しかし、今回も片手でガードされる。俺は一旦下がる。一度でも捕まっちまったら硬い地面に叩きつけられる。それだけは回避したい。俺が決めあぐねていると松井が動いた。速い!俺は金属バットを振るが片手でガード、もう一つの手で服を捕まれる。まずい、そう思った時には遅く体が浮く感覚。そして、背中に凄まじい衝撃と痛みが走る。
「ぐわあああああ!?」
「痛ぇだろ?背中の骨ヒビが入ったかもな。さてと次はお前かな?」
中島の方に松井が動き出す。背中の痛みに耐えながら立ち上がる。松井が振り向く。
「まだやる気か?大怪我じゃすまねぇぞ。」
「うるせぇよ、まだてめえが勝つと決まったわけじゃねぇだろ!」
やってやる、こいつの攻撃を避けて渾身の金属バットを叩き込んでやる。集中しろ、集中!集中!
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