第4話 同級生(4)

 「山中の実家の住所が分かった。とにかく行ってみる。」

 「大丈夫なのかよ?」

 「俺のほうがお前より強いんだから大丈夫に決まってんだろ。」

 「はぁ!?まだ決着ついてないだろ!何てめえが勝ったみたいに言ってんだ!」

 「勝ってたろうが!俺が!てめえ疲れてヘトヘトになってたろうが!」

 「お前こそヘトヘトだっただろうが!」

 「てめえと話すと気分悪くなるから切るわ。」

 「俺も同じこと思ってたわ。」

 唐沢との電話を切る。あいつと電話するとめちゃくちゃ腹立つ!俺が勝ってたろうが!くそ!

 そう思いつつ、山中の実家に向けて歩き出す。数分歩いた時に川野から電話がかかる。

 「もしもし。」

 「もしもし。俺だ、川野だ。今どこにいる?」

 「なんだ、唐沢と行動しないのか?」

 「当たり前だ!あんなヤツと行動できるか!くそ!負けたのも腹立つしよ!」

 「昔ボコッてたヤツに負けるってどんな気持ち?」

 「てめえ煽ってくんなよ、くそ!」

 「今から言う住所に来い、そこで合流する。じゃあ切るぞ。」

 「分かった。」

          *

 「ここか。」

 ポツリと呟く。山中の当時の実家の住所は小さな公園になっていた。無駄足だったか、そりゃ中学通ってたのなんて十年も前だしな。

 「川野のヤツ遅いな。」

 あいつ、もしや方向音痴なのか?

 「田城だったか?久しぶりだな。」

 「てめえは?」

 「覚えてるだろ?小学校、中学校の同級生だった島田だ。島田修司(しまだしゅうじ)。」

 「ああ、久しぶりだな。こんなところで何やってる?」

 「何ってそりゃ邪魔な虫の排除だよ。」

 「邪魔な虫?まさか俺のことか?」

 「ここいらで手を引け。同じ小学校、中学校出身なんだ、助けてやる。」

 「嫌だね、やっと山中につながりのあるヤツが出てきてくれたんだ。ここで手を引く訳にゃ行かねぇな!」

 俺は島田に殴りかかる。しかし、島田はそれを簡単に避ける。そして、顔面に痛みが走る。パンチをくらったのだ、鼻血が出る。

 「もう一度言う、手を引け。田城。」

 「俺ももう一度言うぜ、断る!」

 「バカなヤツだ。力の差も分からんとはな、バカにつける薬はないな。」

 「お前のそれボクシングだろ?」

 「なんだ、分かってるじゃないか。」

 「そりゃ小学生の時からボクシングやってるって知ってたからな。でもよ、今もボクシングやってんのかな?」

 「どういう意味だ?」

 「現役じゃなさそうってことだよ!」

 再び走り出す。島田に殴りかかるも島田のパンチが先に俺の顔面に当たる。俺は顔が後ろにのけ反ったように見せかける。島田は追い打ちをかけようと前に出る。俺は勢い良く顔面を島田の顔面にぶつける。頭突きである。島田は頭突きをくらい、のけ反った。俺はそのタイミングで腰を使ったパンチを島田の顔面に打ち込む。島田は地面に倒れ込む。俺は島田の上に跨がり、馬乗り状態になる。そのまま島田の顔面にパンチを打ち込み続ける。すると、肩に手が乗る。見ると川野がいた。

 「おい、それ以上やると死んじまうぞ!」

 見ると、島田はもう意識はなく、血だらけになっている。俺の手も血だらけだ。

 「悪い。助かった。」

 「こいつ、島田か?」

 「ああ、そうだ。待ち伏せしてやがった。」

 「どうして田城がここに来るって知ってたんだ?」

 確かに妙だ。俺がここに来ると知っていたのは住所を送った川野、電話した唐沢、あとはーー。

 「そういうことか。」

 「なんか分かったのか?」

 「ああ、逃げるぞ。」

 「は!?」

 「島田からの連絡がなければ山中は再びここに送り込むはずだ。新たな刺客を。」

 「島田はどうすんだ?」

 「ここに置いていく。どのみちこいつを担いでは逃げられん。それに裏切ったヤツがいることも分かった。そいつのところに行くぞ。」

 「裏切ったって誰がだよ?」

 「実はもう1人無職になったヤツがいてな、そいつとも連絡を取ってたんだよ。入学だ、入学正浩(にゅうがくまさひろ)。」

          *

 俺たちはその場を離れ、移動する。携帯を開くと唐沢から電話がかかっていることに気づく。入学の件が片付いてから連絡してやろう。

 「入学の家はここだ。」

 入学の家の前には誰かが立っている。

 「なるほど、入学に裏切るように言ったのはお前か?本多。」

 「田城君、久しぶりだね。残念だよ、君とも仲良くしたいのに。どうかな?今からでもこちら側については?」

 「バーカ!断るに決まってんだろ!」

 「そうか、じゃあ仕方ないね。良いよ、やってくれ。森。」

 すると、もう一人男が出てくる。こいつは森だ。頭のネジがブッ飛んでるヤツ。こいつもいんのかよ、くそ!

 「仲間に加わるなら今のうちだけどどうする?」

 「くそ食らえだ!バーカ!」

 森が全力でこちらに走ってくる。他にも気配を感じる、もう一人か二人隠れてやがる。

 「逃げるぞ!川野、走れ!」

 「おう!」

 川野と共に全力で走る。後ろから追いかけてくる足音が聞こえる。

 どのくらい走っただろう、地面に倒れ込む。隣にいた川野はいない。後ろから追いかけてくる足音もしない。

 「川野を探さないと。」

 俺は息を切らしながらも立ち上がる。もう日が沈みそうになっている。息を切らしながらも俺は一歩また一歩と歩き始めた。

 

 

 

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