第3話 同級生(3)

 「久しぶりだな、唐沢。」

 「なんでてめえがここに?ていうかどうして家の住所知ってんだよ?」

 「学校行って実家の住所教えてもらったんだよ。そんでお前の家の住所を教えてもらった訳だ。とりあえず中に入れてくれ。」

 なんでこいつが俺の家に?俺に頼みでもあんのか?ただでさえ、今は山中ってでかい山を追ってるってのに。仕方ない。せっかく来てくれたんだし、入れてやるか。

 「入れよ。」

 「ありがとよ。」

 そうして塩崎を家に上げ、対面で座る。

 「で何の用だよ?お前が用もなく、俺の家調べてまで来ないだろ?」

 「ちょっとお前に手伝ってほしいことがあってな。詳細はもう一人の家に行ってから話す。」

 「もう一人誘うってことかよ?誰の家だよ?」

 「中島だ。覚えてるだろ?」

 「覚えてるに決まってんだろ。高校卒業してからも何年かは連絡取ってたし。」

 「なら話は早い。今から中島の家に行くぞ。」

 「今から!?マジかよ。」

 ちょっとめんどくさいと思ってしまった。

          *

 中島の家に着く。

 「って実家じゃねぇか?」

 「前は一人暮らししてた時期もあったみたいだが今は実家で暮らしてるそうだ。」

 「ってことはてめえ一回来てんな。」

 「ああ、中島にもお前を連れて来てから話すと伝えてある。」

 インターホンを鳴らす。すると、高校時代からそこまで変わってない中島が出てくる。中島幸平(なかしまこうへい)、俺同様死んだ魚の目をした男である。

 「唐沢を連れて来た。」

 「ああ、家に入ってくれ。唐沢も久しぶりだな。」

 「ああ、久しぶり。」

 こうして、中島の家に入って、部屋に案内される。高校時代来たことがあり、狭く、物が散乱しているような部屋だった気がするが部屋はきれいに整頓されている。小さなテーブルを三人で囲うようにして座る。 

 塩崎が話し出す。

 「まずはこれを見てくれ。」

 塩崎がポケットから何かを出す。それは小さな袋に入った白い粉だった。

 「なんだ、これ?」

 「薬物だ。」

 「は!?薬物!?」

 「依存性の高い薬だ。最近ここいらで売人が動いてる。」

 「なんだ、まさか捕まえようってか?」

 「ああ、捕まえる。こいつを。」

 「こいつ?」

 塩崎が写真を出す。

 「高校の同級生遠藤将太(えんどうしょうた)、こいつは薬物をやってる。捕まえてムショに入れる。こいつには高校の時世話になったからな。」

 「どうしたんだよ、塩崎。復讐なんてお前らしくねぇよ。」

 「実は俺、仕事クビにされてよ。無職なんだ。次の仕事も見つかりゃしない!人生終わってんだよ!なのにこいつは薬物やってて仕事も上手くいってる!高校の時ろくなやつじゃなかったってのに!神なんていない。こいつに裁きを与えるのは俺たちだ。」

 マジかよ、塩崎も無職?これは偶然?田城や俺と同じ?でもこいつは中学の同級生じゃない。高校の同級生だ。山中が関わってるはずない。そんなはずない。

 そんなことを考えていると中島が口を開く。

 「俺もこの前クビになって無職で仕事も見つかってないんだ。分かるよ、塩崎。お前の気持ち。」

 「は?お前も無職?」

 偶然じゃない。偶然にしては出来すぎてる。

 「悪い、ちょっと電話してくる!」

 俺はそう言って部屋を出て、田城に電話する。なんで出ない。何やってんだよ、あのバカは!何回か掛けるも出ない。仕方なく、部屋に戻る。

 「何の電話だったんだ?」

 「いや、親からさっき電話かかってたの思い出してさ。」

 まだ言えない、確証がない。

 塩崎が再び口を開く。

 「頼む、手伝ってくれ。」

 「俺もこいつには高校の時世話になったからな、手伝うよ。」

 「中島、ありがとう。唐沢、お前はどうする?」

 「やるよ、俺も。」

 こいつらともう少し行動して確証を得たい。偶然か、偶然じゃないかの確証を!

          *

 「遠藤の会社も調べてある。ヤツが薬物をやってる瞬間を押さえる。今から遠藤の会社に行ってそこから遠藤が帰るルートの下見だ。」

 「帰るルートまで分かってんのかよ?」

 「ああ、ヤツは帰るまでに薬物をやる可能性がある。家には誰かがいるみたいだった。家では薬物をやってない、無論会社でも出来ない。考えられる可能性として会社から家に着くまでの間にやるということだ。」

 「なるほど。」

 信号で止まる。横断歩道を見て正面を向く。向こう側にも人がおり、信号が青になるのを待っている。あれ、この人どこかで。そんなことを考えていると信号が青になる。俺たちは歩き出す。向こうからその人も歩いてくる。その人とすれ違う。俺はこの人を知っている。名前は奥田沙耶香(おくださやか)、高校の同級生で高校三年生の時に仲良くなりたいと思った相手だ。向こうは別のほうを向いており、俺に気づくことはなかったがその瞬間俺には時間が止まってみえた。まるで運命を感じたかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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