第4章
このイベントの成果は世界中で大々的に報道された。昆虫たちの異常発生の真実、それは昆虫と人間との和平を訴えるためのデモンストレーション活動だったのだ。それを知った人間たちは真の意味での「昆虫との共存」を考えるようになった。むやみやたらな昆虫採集の禁止、昆虫が生活できる環境の整備、そして昆虫の世界を理解するための教育が重要視されたのだ。結果として人類は昆虫という同じ惑星の住人のことを考えながら生きることを決意したのだ。勿論、人間たちの生活に支障が出ないように、害虫対策も怠らないようにした。次第に昆虫の異常発生もなくなっていき、人々は普段通りの生活を取り戻していった。
それから、イサム・ハラダ博士はノーベル賞を受賞した。但しそれは自然科学的な賞ではなく、この度のイベントが「昆虫と人間の共存の架け橋」となったことで平和賞を受賞したのである。
以上のこともあり、博士の研究所は多くの研究員が働く立派な施設となり、昔のような粗末な場所ではなくなった。
「今や博士も世界が誇る立派な先生ですね」
イサム博士をおだてるトオル。
「ははは、ワテも鼻高々や。これで世界中の人間がワテみたいな昆虫好きになるんやで」
一匹のチョウが舞う空を見上げながら上機嫌に笑う博士なのであった。
暫くして、先程の一匹のチョウが樹液の流れ出るクヌギの大木に止まった。樹液の周りにはスズメバチやカナブン、カブトムシやクワガタムシ、そしてアリなど、様々な種類の昆虫たちが止まっていた。
「どうだ、あの博士の様子は?」
「相変わらず上機嫌だったぜ。全く、我々の言葉を理解できただけであんなにチヤホヤされるとかアマちゃんだな」
「しかし人類も漸く我々の言語を理解できるようになったとは間抜けなものよ。我々昆虫は数年くらい前に突然人類の言葉がどういう訳か理解できるようになったのによ」
「本当、あの人間って生き物は気味が悪いわね。サイズどころか態度までデカいのよ。我々昆虫の方が数が多いし数億年から地球を支配している。それなのにアイツらが今や地球の支配者面しちゃって」
「そうだそうだ。いっそのことアイツらをギャフンと言わせようとデモ活動を行ったら、アイツら本気で頭を抱え込みやがって」
「そしてあの博士が我々の言葉を理解する機械を発明したというので、こっちが『和平と共存』を主張したら、アイツらすっかり信じ込みやがった。愚かなもんだぜ」
「アレはアイツらを油断させる為の口実だったからな。さてもうそろそろ気味の悪いアイツらを駆除する準備に取り掛かるか。まずはヤブカたちに未知の感染症を媒介してアイツらにパニックを起こさせてやろうか」
「もし我々の計画が成功したらあの勘違い博士は赤っ恥をかくことになるな。いい気味だぜ」
「体だけでなく図体までデカい不気味な生物どもめ、思い知るがいい」
クヌギの樹液に集っていた昆虫たちがまた一段と騒がしくなっていった。
(完)
バグリンガル ケン・シュナウザー @kengostar2202
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