第5話 いきなり記者会見

「おっと、電話だ」


 間葉が振動するスマホを取り出した。


「おっ、陽子からだーーこんな時間にどうしたんだろう。今はあいつは外遊しているはずなんだけど……」


 間葉はスマホを耳に押し当てようとしたが、すんでのところでやめた。


「おい陽子、なんで電話を映像つきにしてあるんだ」


 間葉は画面に向かって軽く拳骨を突き出すポーズを取った。画面の向こうでは、若い女の人がこちらに手を振っている。世間知らずな私も顔くらいは知っている、彼女が天原王国の第一王女にして実質的権力者、天原陽子である。


「あ、そうそう間葉、今はあんまりふざけない方がいいわよーー実は、こっちは今から記者会見をするところなの。国民諸君に、紀斗奈ちゃんの生い立ちを説明しとかないといけないから」


 そう言って陽子さんが手を伸ばすと、くるりと画面の中が回転し、部屋いっぱいに詰め込まれているギャラリーたちが映った。メモを持っている人や、カメラを回している人が多い。いわゆる記者たちがほとんどなのだろう。


「えー、皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます」


 姿は見えないが陽子さんが話し出し、一斉にフラッシュが焚かれる。


「さて、今日は重大発表があるのですが……ん、何ですか、谷川たにがわ放送の大橋さん?」

「いえ、私はここで、一つはっきりさせておきたいことがあるのです」


 大橋さんと呼ばれた中年の男性が、勢いよく立ち上がった。


「どうしてそんなに重大発表が次々とあるのでしょう。昨日も同じ題目で記者会見をやりましたよね」

「ええ、やりましたね。でもあれは本当に重大発表だったではありませんか。消費税を上げるというね」

「だから言っているのです。国民は戦々恐々としているのですーー今日はどの税の増税が発表されるかってね。まずはそこをはっきりさせてください。今日は増税に関する話ではないという言質が欲しいのです」

「今日は増税の話ではありません」

「ではどのような話なのでしょうか」

「それを今から話すのです。いいから座りなさい。私はあなたにマンツーマンのインタビューを受けているわけではないのですから」

「ああ、これは失礼しました」


 大橋さんは着席した。


「それでは、今日の本題に入ります。まずは皆さん、こちらの映像をご覧ください」


 陽子さんがリモコンを手に取り何やら操作すると、横のテレビの電源がついた。そこには若い男性が映っている。


「あれ、この人はどこかで見たことがあるような……」


 私が思わずそうつぶやくと、横の間葉は少し引いたような目で私を見た。


「おいおい、キト、本当に大丈夫か? 彼がこの国の国王じゃないか」

「えーっ、国王さんってもうちょい年上じゃなかったですか?」

「いや、この国王はまだまだ若いけどなーーたぶんかなり前に撮ったものだと思う。それでもさすがにわかるだろ。なんつーか、キトは天原王国のことを全然知らないな。もしかして昨日あたり、転生者と入れ替わったんじゃないか?」

「やだなぁ、それはないですよ。本当にそういう政治的なことには興味がないんです。でも、昨日『ペルソナ・カール』が完結したことは知ってますよ」

「小説の話にしか興味がないのかよ。まあいいから、おとなしく映像を見ろ」

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悪役令嬢専門の小説家なんだが悪役令嬢じゃなくて王女になってしまった 六野みさお @rikunomisao

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