第1話 誤った召喚

「失礼します陛下! 召喚完了しました!」


 部下が帝王の寝室を蹴破って入ってきた。


「おい! ここわしの寝室やろ……しかもまだ真夜中やん。 お前、頭いかれとんのか?」


 帝王は目ヤニを取って部下に飛ばしつける。眠たいのだ。


「いやぁーー! まさか本当に召喚出来るとは思ってなくて……ちょっと興奮してしまいました!」


 帝王の部下はかなりはしゃいでおり、興奮気味だった。目は血走っており、ガンギマリだった。


「早く起きてください陛下! 今、その者を紹介しますのでっっ!」


 部下は帝王の手を引っ張り、部屋の外へ連れ出そうとする。


「今服着るからぁ! 部屋入る時はノックくらいせぇやぁ!」


 寝巻き姿の帝王は激怒し、部下をつまみ出した。


ーー「……さささささ、こちらへどうぞ。 ただいま召喚された者を呼んで参ります!」


 服を着た帝王は部下に城の食事場まで案内された。


「この城を護ることになる異世界の強者か……ふふふ、楽しみやなぁ」


 部下の興奮が移ったのか、帝王も内心ワクワクしていた。帝王が椅子に座ろうとした時、部下から声がかけられる。


「陛下! お連れしました!」


 部下が扉を開け、召喚された者を席につかせた。


「ほう……貴方が召喚者か。 待っていたぞ!」


 その者の体は細く、汗で汚れたシャツと短いズボンを履いた男だった。髭が生え、髪はボサボサで黒縁メガネをしていた。帝王はその姿を見て、首を傾げた。城を長年に渡り護ってきた屈強な兵士にはまるで見えないからだ。


「あのーー、ここってどこなんですか? 僕は家でゲームしていたのに……」


 その男は体を震わせながら帝王に話しかけてきた。


「ここはディスピカボー帝国の王城じゃのぅ。 貴方は魔王軍との戦争を止めるべく、わしの命令で異世界から召喚したんじゃ!」


 帝王は震える男にざっくりと説明する。説明もてきとうなのだ。


「いやぁー、わし貴方に会えるの楽しみやったんじゃぞ!城を何年にも護っていた逸材やもんな? それにしては……案外細いのぅ」


 帝王が握手しようと手を伸ばした。そこで震えている男は手を伸ばしながら帝王に話しかけた。キョロキョロと辺りを見回している。


「ひとつお聞きしたいのですが……」


「なんや? なんでも言うてみ?」


「……ここにはインターネットはあるのでしょうか? あと、僕がさっきまでやっていたゲームはどこにあるのでしょうか? セーブしてないんですよ……そもそもここって電気通ってるんですか?」


 男は超早口で淡々と帝王に質問する。その姿に帝王は眼を丸くした。


「なんじゃ? ネット、ゲーム、セーブ? あー、すまん貴方の武具のことか? それなぁ、こっちには召喚できてないねんなぁ〜こっちでなんとかして……」


 帝王が言い終わる前に男は差し伸べられた手を勢いよく弾いた。だが帝王は常日頃から鍛えていたため何のダメージも負わなかった。手を弾かれたことに帝王は呆気に取られる。


「ふ、ふざけるんじゃねぇーー! 今カンナたんの攻略手前だったんだぞ!? セーブしてねーんだぞクソが! 俺はかえっからな!」


 男の態度が一変し、帝王を怒鳴りつけた。その男はオタクだったのだ。


「ただでさえ、現実リアルは嫌なことばっかりで家にずっといたのによぉ! こんなくそくそ世界に召喚しやがって! クソが!」


 吐き捨てるように言うと男は食事場横の休憩室に立て篭もってしまった。

 その男は長年に渡り自宅を守っていた警備員ガードマンだったのだ。

 帝王はそれを見て唖然としてしまう。


「陛下……次の召喚はどのようにいたしましょう?」


 部下が帝王に気を遣って声をかける。


「うん、えっと〜どないしよか……」


 部下と帝王は俯き、声を出せないでいた。 

 食事場は2人がワインを啜った音が虚しく響いたのだった。





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