6 隠された真実
「すり替えた? 私が?」
静乃先輩は、上品な笑い声を立てた。「どうして?」と訊き返す声に、ほんのりと挑戦的な
「これから撮影するのは、自主映画のラストシーンです。主人公は、大学生と小説家という二足の
静乃先輩は、居心地が悪そうな顔をした。窓の外の浜辺では、夢叶と森浦先輩が、じゃれ合うように走っている。
「台本が本来のままであれば、このあとヒロイン役の
「たとえ書き換えられていたのだとして、なぜ
静乃先輩も、淡々と言った。僕がどこまで突き止めているのか、探りを入れているのだろう。ここは推理が不要な領分なので、「簡単なことですよ」と僕は答えた。
「ここに来る前に、僕は夢叶に会っているからです。病院を出たその足で撮影現場に向かった所為で、自分の台本を家に忘れてきた夢叶に」
静乃先輩は、
「今朝、僕のスマホに夢叶から一度目の連絡がありました。
「……なるほどね。だから羽柴くんが他の部員に台本を借りて、夢叶ちゃんに届けたのね。真相は、寝坊でも腹痛でもなければ、私を
「いえ、先輩に会いに来たのは本当ですよ」
「何よ、やっぱりストーカーじゃない」
「その議論は、話がややこしくなるので今度にしましょう」
――『
静乃先輩を捜して喫茶店に入る前に、僕は人使いの荒い
そして、その場で内容を確認した夢叶が――台本の
「
ひと呼吸を置いてから、僕は言った。
「昨日の夜――合宿の最終日の前日に、静乃先輩が、わざわざ家まで届けに来てくれた、って。台本が
窓の外では、役を
「たとえ羽柴くんの推理通りだとして、台本を改竄したのがどうして私ということになるの? 私は小説を書けないのよ? 台本の改竄なんて大それたこと、私にできるわけないじゃない。興ざめなラストシーンを書けば、すぐに改竄だとバレるわ」
「本当に、そうでしょうか」
「え?」
「静乃先輩は、小説を書かない。僕たち新入部員にも、そう自己紹介をしていました。他の先輩たちも、すっかり
僕は、静乃先輩の目を見つめる。薄茶色の瞳の奥に、隠された真実を探すように。
「静乃先輩は、本当は、小説を書けるとしたら?」
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