5 謎解きの応酬
冷房の人工的な香りに、スパイスの
「最初に
「店内は、こんなに
「そうかしら。そもそも
「いいえ。静乃先輩への
僕はメニューを手に取ると、さっきの静乃先輩のように
「静乃先輩は、僕が喫茶店に入ってすぐにカレーを注文しました。この行動は、喫茶店に来てからさほど時間がたっていないことを示しています」
「私が何を食べようか迷った可能性は、考えないの?」
「苦しい言い訳ですよ。僕は静乃先輩が学食で食券を買うときに、迷って時間をかけている姿を見たことがありません」
「待って、いつ見てたの?」
静乃先輩は、
「こんな議論をするまでもなく、あのお客さんが静乃先輩よりも早く来店したのは明確です。あのお客さんはオムライスを食べ終わっていて、僕たちのカレーが運ばれてくるのはこれからです。僕が目的を持ってこの喫茶店に来たように、静乃先輩にも喫茶店でこの席を選ぶ理由があったんです。――この席でなければできないことは、何なのか。それは、間違いなくこれです」
僕は、窓の外に目を向けた。
「静乃先輩。知っていましたよね? 撮影現場が、ここから見えること」
「僕たち文芸部と、夢叶たち映画研究部の集合場所は、あの砂浜でした。静乃先輩は合宿に興味がないと言っていましたが、実は僕たちのスケジュールを
「隠すつもりなんてないわ。私は本当に気が向いてここに来たの。すぐに砂浜に行ってみんなと合流しなかったのは、ここに来るために早起きをして、朝食を食べ損ねたからよ。食後にはみんなの所へ行くつもりだったわ」
「本当にその通りなら、今までの静乃先輩の発言は、あまりにも
静乃先輩は、再び沈黙した。店内のBGMが切り替わる合間を
「静乃先輩は、遠くからこっそりとみんなの様子を
「私が、どんな犯罪を行おうとしているの?」
「その推理を言葉にする前に、聞かせてください。僕の推理が当たっていたら、静乃先輩は
僕は、静乃先輩をひたと見つめた。
「静乃先輩が、
静乃先輩は、僕を見つめ返した。感情の
「台本を、すり替えたんです。森浦先輩が原作を務めて、後に映画研究部で用意された台本を――ヒロイン役の
窓の外の砂浜では、ついにラストシーンの撮影が始まろうとしていた。
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