第26話 騒動を終えてから
「圭ちゃん、今日から圭ちゃんの下駄箱はあっちだよ」
「あっち?」
「そう、あっち」
朋香が指を差す先は職員玄関だった。
俺は状況を理解出来なかった。そして頭を掻きながら、
「俺達は生徒だろ」
朋香に対して俺は正論を投げかける。
俺じゃなくても他の誰だってそう言うとは思うんだけどな。
「何言ってるの?私は校長だよ?」
「それは肩書きだけの話で仕事はしてないだろ」
「それでも校長は校長です。使っても問題ありません……それにほら見て!」
朋香は俺の腕を引っ張りながら無理やり職員玄関へと連れて行く。
「こ、これは……」
「私達の愛の下駄箱だよ♡」
俺の目に飛び込んできたのは金色の輝きを放つ下駄箱だった。おまけに俺と朋香のツーショット写真とハートのバルーンで飾り付けされていて異彩を放っている。
「なんだよ、これ……」
「どう!?凄いでしょ!凄いでしょ!」
朋香は目をキラキラさせて俺にグイグイ近づいてくる。
その目は金色の下駄箱よりも輝いて見えた。
「凄くねぇよ!早く撤去しろ!」
「えーとね、上が圭ちゃんで下が私で――」
「勝手に話を進めるな!俺の話を聞け!」
「何か不満な点でもあった?」
「不満だらけだわ!こんな特級呪物を学校に置くな!」
「と、特級呪物とは失礼な!愛の塊だよ!?」
「どこをどう見たらそう思えるんだ!明らかに存在が浮いてるだろ!」
俺の言葉を聞いて朋香は下駄箱をじーっと見つめ始めた。
「……大丈夫だよ」
「今の間はなんだ?」
「き、気にしない!気にしない!」
「……お前、本当は変だと思っただろ?」
「お、思ってないし……!ほ、ほら、早く教室行くよ!」
朋香は俺から逃げるように急いで靴を履き替えて廊下へと向かう。
「朋香、逃げるなよ!」
「逃げてないし!」
「この野郎!……使いたくはないが、しょうがねぇ!」
俺も履き替えて朋香の後を追う。
「あれ?下駄箱使ったの?無理して使わなくても良かったんだよ?」
「お前が用意したのに使わないのも申し訳ないと思っただけだ」
「圭ちゃんはツンデレなんだから♡」
「うるせぇ!」
「そういうところが私は好きだよ♡」
「……勝手に言ってろ」
「はーい。分かりまーした」
結局はこの下駄箱を使う羽目になってしまった。
残りの高校生活、ずっとこれを使うと思うと気がおかしくなりそうだ。
「そういえば、制服。うちのやつに変えたんだな」
「ちょい待ち。圭ちゃん、朝から一緒にいるのに今それ言う?」
朋香は頬を膨らませて不満げな態度を取る。
「いや……あれだけ色々あれば、言うタイミングなんか無いだろ……」
「うーん、まあ、そうかもね。でも、もっと早く言ってくれても良かったんじゃないの?」
「それは悪いと思ってるよ……すまん」
「ちゃんと分かってるならよろしい。それでどう?似合ってる?」
「ああ、似合ってるぞ。可愛い」
「やっぱり可愛いよね!前の制服ってなんか地味で嫌いだったんだよね。でも、この学校のは文句なしで可愛い!特にこのスカートの柄!」
朋香は微笑んで満足気な表情を浮かべる。
どうやら機嫌は損ねないで済んだみたいだ。
「そうだな。お前が着てるともっと可愛いぞ」
「それはそうでしょ!私を誰だと思っているのさ!」
「元カリスマ高校生アイドルな」
「元を付けないで!それに次世代が抜けてる!間違えないでよ!」
俺は「はいはい」と二つ返事で答えた。
周辺にある学校の中でも、うちの制服は断トツに可愛いと言っても過言ではない。
この制服が目当てで受験する女子もいるくらいだ。
「何にせよ、お前がうちの制服を着ることになるなんて夢にも思わなかったぜ」
「もしかしてさ、圭ちゃんは制服が目当てで、この学校に入学したの?」
「そんなわけあるか!家から近いから選んだだけだ!」
「ほんとはこの制服を見たかったからなんじゃないの~?」
「違うからな。制服はたまたまだ。たまたま……」
「たまたま……ねぇ~?」
「……」
朋香はニヤついた顔で俺を見つめてくる。俺は少し視線を逸らす。
なぜ逸らしたか。それは朋香の言う通り、この制服が目当てだったからだ。
選んだ理由が制服だなんて絶対に知られたくない、恥ずかしすぎる。
「あっ、そんな圭ちゃんに一つだけ良い情報教えてあげるよ」
「なんだよ」
「実はこの制服って私の衣装デザイナーがデザインしたんだよね~」
「……は?」
「驚いて当然だよね。実は買収した校長って私のファンだったらしくて、それで数年前に制服のオファーをしたんだってさ。そのおかげで買収もしやすかったんだよね」
「なんと哀れな校長……」
そういえば、そんな話を中学の時に聞いたことがあった気がする。
当時は詳しくは知らなかったが、地味なセーラー服からアイドルが着るような可愛いブレザーに変更された学校があると。まさか朋香が関係しているとは思わなかった。
「まあ、良いじゃん?学校の人気と知名度は上がったわけだし」
「それもそうだな……てかさ、お前……」
「ん?どうしたの?」
「いい加減スカートから手を離せよ」
朋香はさっきからスカートをたくし上げて、ひらひらと靡かせていた。
このままではもう少しでパンツが見えてしまう。
「別に良いじゃーん。ほれほれ」
「全然良くねぇんだよ!パンツ見えちまうだろ!」
俺は更にスカートをたくし上げようとする朋香の手を押さえ込む。
「私のパンツなんて、もう飽きるくらい見たでしょ。朝だって見たくせに」
「まだそんなに見てねぇし!」
「いやいや!だってほら、一回、二回、三回……あれ?数えてみると、実際それくらいなの?」
朋香は思わず首を傾げる。
「なんで疑問形で返すんだよ。そもそも、俺は数えたことすらねぇし」
「確かにそうだよね。数える必要がないもんね」
「それはどういう意味だ?」
「見たくなったら私に頼めばいくらでも見れるってこと。私達ってそういう関係じゃん♡」
朋香は口元を手で隠して「ふふふっ」と言いながら微笑んだ。
「なるほど。やっぱり変態の考えることはひと味違うんだな」
「圭ちゃんの方が変態のくせに」
「お前のせいだろが……」
「じゃあ、お詫びにパンツ見せようか?」
「見せるな!」
「それなら、おっぱい揉む?」
「揉まねぇよ!」
「それじゃあ、どうしたいのさ……もしかして、セックスしたいんだね!?」
朋香は手を叩いて「これしかない」と言わんばかりの顔で俺に視線を送る。
残念ながら答えは、
「したくねぇよ!教室に行きたいんだわ!」
俺は押さえていた手を離して再び教室へと向かう。
「ちょっと、圭ちゃーん!もう少し付き合ってくれても良いじゃん!」
「うるせぇ!終わりだ、終わり!これ以上は無理!」
「そんな~~~~~!」
こんなやり取りをしているのにも関わらず、時刻はまだ朝の八時半を過ぎたところだ。
俺達の騒がしい一日はまだまだ終わらない。
次世代のカリスマ高校生アイドルは幼なじみの俺と交際するために引退したらしい。 倉之輔 @Kuranosuke3939
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