第97話 強くなった私たち
ケントがブルームで素材の買い取りを行ったあとは、タルトがせっせと〈製薬〉している間にスキルのためにレベル上げをすることにした。
……タルトにだけ任せちゃう形で申し訳ないけど……!!
私たちが狩場に選んだのは、〈咆哮ポーション〉の素材をゲットできる〈ドラゴンの寝床〉だ。
ケントを前衛に、私、ティティア、リロイ、ココアが参加している。ブリッツとミモザはほかの〈聖堂騎士〉たちとの連絡のため、今回はきていない。
一度狩りを経験しているので、ケントたちもだいぶ慣れたようだ。
「〈挑発〉! からの、〈
「いくよ~! 〈空から落ちた瞳は、鋭さを増し敵を撃つ♪〉」
ケントがドラゴンを釣ってココアが歌ってスキルを使うと、頭上に集まった水が剣の形になってドラゴンを貫いた。右手に杖、左手に魔導書を装備して戦う姿は、とても格好良い。そしてその強さは、〈言霊使い〉のときとは比べものにならない。
私も負けてられないね!
「いい感じ! 〈女神の守護〉〈女神の使徒〉!」
「――〈闇落ち女神の祝福〉〈女神の鉄槌〉!!」
私が支援をし、そのあとにリロイが攻撃スキルを使う。私が一人で支援を回せるので、リロイが攻撃枠になれるのだ。
それからしばらく狩りをして、一休みすることにした。
「そういえば、前に倒した〈黒竜〉って……もう復活しないのか?」
水を飲んだケントが、疑問を私に投げかけた。
ボスによって多少の違いはあるけれど、ゲームのときはだいたい一時間から三時間おきに復活する設定だった。〈黒竜〉の復活時間は一時間だ。
「ダンジョンにいるボスは、ほかのモンスターより時間はかかるけど復活すると思う。〈黒竜〉の場合は……私も確認したことはあるわけじゃないから、絶対ではないんだけど、早ければ一時間くらいで復活するんじゃないかなぁ……?」
「一時間……!? すご……」
予想外に早い復活だったらしく、ケントは絶句している。
〈黒竜〉の復活サイクルが一時間と早いのは、誰でも初回討伐時に〈ドラゴンの笛〉をもらえるからだ。なので、〈黒竜〉は大人気ボスでいつもフルボッコにされていた。
「……倒したい?」
「いやいやいやいや、あの戦いを今から!? 大変だろ! タルトもブリッツもミモザもいないのに!!」
もしかしたらと思って聞いてみたけれど、まったくそんなことはなかったらしい。
「あはは……。って、ケントの卵が光ってるよ」
「うおっ!?」
ケントがずっと腰のあたりに縛りつけていたドラゴンの卵が、淡く光り出している。いよいよ孵化するときなのだろう。
「ドラゴンが産まれるんですか!?」
「こ、こんなところで孵化して大丈夫なの!?」
「いや、わかんないけど……あ、卵にヒビが入った!」
ティティア、ココア、ケントが慌てふためいているうちに、日々の入った卵が割れて、中からドラゴンの赤ちゃんが出てきた。
『キュイー!』
ケントの相棒として誕生したドラゴンは、黒色の防御力重視のどっしりとした個体だった。水色の瞳に、鋼のような鱗。愛嬌があって可愛いけれど、成長するにしたがって勇ましさが増えていくだろう。
〈竜騎士〉の相棒になるドラゴンは、ケントが手に入れた防御力重視の黒い竜、攻撃力重視の赤い竜、回復など支援重視の青い竜の三種類からランダムで誕生する。前衛として盾もするケントには、相性のいい子だ。
ちなみに、私の兄は赤いドラゴンが相棒。
「うおおおぉ、俺の相棒か……!!」
「やったね、ケント! おめでとう! これで一人前の〈竜騎士〉だよ!」
「おめでとう!」
「「おめでとうございます」
ココア、私、ティーにリロイがお祝いを口にすると、ケントは「ああ!」と言ってはにかんだ。
「名前をつけてやらないとな! ん~~~~、よし! 綺麗な水色の目だから、お前は今日からソラだ! 一緒に空を飛んで冒険しような! よろしくな!!」
『キュイキュイ~!』
空の色から名前をソラにしたのが、なんだかケントらしくてほっこりしてしまった。
「よろしくね、ソラ」
『キュイ!』
私の呼びかけにも嬉しそうに答えてくれて、現実になった〈竜騎士〉めっちゃいいな……などと思ってしまうのであった――。
***
「ポーションは持ったですにゃ? 足りないものがあれば、すぐに教えてくださいにゃ!」
「タルトが一生懸命作ってくれたからな、ばっちりだぜ!」
タルトが消耗品の配布をし、それぞれ使い方を確認してしまう。
今回、ココアがお土産にと買ってきてくれた〈水のキノコ〉で〈水羽衣のポーション〉を作ることができた。これは防御力を上げる効果があるので、戦闘中はできる限り使いたいアイテムだ。
特にケントが大絶賛だ。防御力が上がるのは、前衛のケントにはかなりありがたいポーションだからね。タルトもケントは常時使えるようにと、多めに配ってくれている。
「にしても、〈咆哮ポーション〉もあるし……〈錬金術師〉ってすごいんだな。〈火炎瓶〉を使うスキルも強いし、尊敬する……!」
「えへへですにゃ。道具が必要なのと、素材集めが大変ですけど、楽しいですにゃ」
こうして準備をする私たちを見て、天使は「人間は大変ですね」と肩をすくめた。
「天使ちゃん……」
「大聖堂はフローディア様にとっても大切な場所ですから、頑張ってくださいね」
「あ、はい」
私が条件反射で頷くと、天使ちゃんはそれはそれは可愛らしく微笑んだ。
ゆっくり深呼吸を繰り返して、私は目の前のクリスタルの大聖堂を見上げた。今、ここにロドニーと〈ルルイエ〉がいる。そしてもう一人の要注意人物は、修道院にいた〈暗黒騎士〉だ。
……今はこっちのレベルの方が上だと思いたいけど、油断はしない方がいいね。
私が振り返ると、仲間たちが並んでいる。
タルト、ティティア、リロイ、ケント、ココア、ブリッツ、ミモザ――そして連絡を取り合っていた〈聖騎士〉と〈聖堂騎士〉がざっと二〇人ほど。
最初は一人で国を出たのに、気づけばこんなにも仲間ができるとは……悪役令嬢だったときには思いもしなかったね。
「さあ、時は満ちた! いざロドニーを倒すとき!!」
私が高らかに宣言すると、全員が自身の武器をぐっと握り込む。その表情は真剣そのもので、この戦いの重要度がピリッとした空気からも伝わってくる。呑気なのは、私たちを傍観している天使くらいだろう。
今回の目的は、ロドニーの捕獲、〈ルルイエ〉の討伐だ。〈暗黒騎士〉は捕獲、討伐、どちらでも構わない。〈聖堂騎士〉たちは一度牢に捕えることになっている。
クリスタル大聖堂に最初に突入したのは、〈聖堂騎士〉たちだ。その後に私たちが続く。ティティアを守る形でリロイ、ブリッツ、ミモザがつき、私やタルトたちはそれをサポートしつつ臨機応変に動く。
主に〈暗黒騎士〉の相手を私たちがして、ティティアたちにはロドニーを追い詰めてもらう。
私がクリスタル大聖堂に入ると、すでに戦いが始まっていた。が、ロドニー側の〈聖堂騎士〉には多少戸惑いが見えている。こちらの〈聖堂騎士〉を指揮しているブリッツが、ものすごい強さで敵を薙ぎ払っているからだろう。
……みんなレベル100越えになってるからね!
この場はブリッツたちに任せ、私たちはロドニーの元へ走った。目的地は、ティティアの部屋だ。
「あと少し――ッ!」
ケントが声を上げた瞬間、スキルで攻撃された。それをケントがどうにか大剣で防ぐと――そこにいたのは、修道院で見た〈暗黒騎士〉だ。
……やっぱりいるか。
私はありったけの支援をかけなおし、閉まったままの扉を見る。〈暗黒騎士〉はティティアの部屋の扉の前に立っているので、護衛をしていたのだろう。
「ケント、そのまま引き付けてて! ――〈大地に焦がれた私は生命の芽吹きに祈りを捧ぐ♪〉」
ココアが歌った、『リアズ』のテーマソングをもじった歌のスキルは、床から植物を生やして〈暗黒騎士〉を拘束した。
「ぐっ、なんだこの魔法は……!!」
〈暗黒騎士〉はどうにか抜け出そうともがいているが、びくともしない。ふふっ、〈歌魔法師〉おそるべしだね。
「……なんともあっけないものですね」
リロイがため息とともにそう告げると、〈暗黒騎士〉は「ふざけるな!!」と声を荒らげた。どうにかして植物をちぎろうとしているらしいが、無理のようだ。
これならロドニーの拘束もとんとん拍子にいけるかもしれない。私がそんなことを考えていると、ティティアの部屋の扉が開いた。
「「「――っ!?」」」
騒ぎは部屋の中にも届いただろうに、ロドニーが出てくるなんて――そう思ったが、そうではなかった。
扉から出てきたのは、ロドニーではなく〈ルルイエ〉だった。
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