第96話 今後の流れ
差し出された天使の手は透明感のある肌で、思わずまじまじと見てしまった。美しいものは、景色以外にもたくさんあるのだなと思わせられる。
私がすぐに答えなかったからか、天使は首を傾げた。
「さあ、すぐにフローディア様の元へ行きましょう」
天使の言葉に、しかし私は首を振る。
「いいえ。まだ行きません」
確かに天使の提案は魅力的だ。しかし、私にはまだやらなければならないことがある。これを後回しにはしたくない。
「……なぜですか?」
「先に大聖堂の問題をどうにかしたいからです。ティー……〈教皇〉ティティア様の力が戻った今、ロドニーを倒してクリスタル大聖堂を取り戻すチャンスです」
「シャロン、それは……!」
私の言葉に慌てたのは、ティティアだ。表情を見るに、天使を待たせるなんてどんでもない! ということなのだろう。
しかしよく考えてほしい。今、〈聖女〉クエストを進める余裕が私たちにあるのか? ――と。ないだろう。クエストといえば、かなりの確率で戦闘がついてくる。それを考えると、私たちにはまったくもって準備が足りないのだ。私がそういったことを説明すると、ティティアも理解できたようで、ぐっと口を噤んだ。
「それに、ケントとココアがいない状態で次のステージに進むのは危険だからね」
あの二人が覚醒職になって戻ってきたら、かなりの戦力アップになる。私の〈聖女〉クエストを進めるのは、それからがいいだろう。
「――ということで構いませんか? 天使様」
念のため私が天使に問いかけると、しばし考えるそぶりを見せつつも……「いいでしょう」と頷いてくれた。
「大聖堂はフローディア様に祈りを捧げる大切な場所ですからね。今の乗っ取られている状況は、わたしも看過できるものではありません。すぐに、取り返してください」
「は、はいっ!」
天使の言葉に返事をしたのは、ティティアだ。天使に取り戻すよう言われてしまっては、何がなんでも取り戻さなければいけないとティティアの使命感のようなものが燃えたのかもしれない。
……すんなり許可を得ることができてよかった。
「それと、わたしのことはどうぞ天使ちゃんとお呼びください。天使に個体名はありませんから」
「え、あ……はい。天使ちゃん、ですね」
「それでよろしいかと」
まさかの天使ちゃん呼びに驚きつつも、ティティアは素直に頷いていた。
***
天使が仲間に加わってからケントとココアを待つまでの間、私たちはいつも通り狩りをした。覚醒職のスキルレベルを少しでも上げておきたいからだ。
同時に、アイテムの買取も強化した。〈聖女〉クエストを進めるには、かなりの消耗品が必要になるだろう。前回の〈ルルイエ〉戦のときのように、ポーションに不安を覚えるのは避けなければいけない。
ということで、今はしばしスノウティアの宿で休憩中だ。
タルトはティティア、天使ちゃんと三人で買ってきたお菓子でお茶タイムをしている。リロイとミモザは大聖堂に関する今後を話し合っていて、ブリッツは解放した〈聖堂騎士〉たちと連絡を取るために出かけている。
私はといえば、今後のことをぼーっと考えていた。
スキルはレベル80で一度スキルポイントの取得が終わり、覚醒職になったらその時点のレベルから再びスキルポイントを得られるようになる。ただ、覚醒職で得られるスキルポイントは30なので、ちょっと少ない。
私は102レベルで〈アークビショップ〉になったので、レベルが106でも、上がったのは4レベルだけなので、スキルも4ポイント分しか取得できていない。
シャロン
レベル:106
職業:アークビショップ
スキル
〈祝福の光〉:綺麗な水と〈空のポーション瓶〉×1で〈聖水〉を作れる
〈ヒール〉レベル10:一人を回復する
〈ハイヒール〉レベル5:一人を大回復する
〈エリアヒール〉レベル5:自身の半径7メートルの対象を回復する
〈完全回復〉レベル5:自身の60%の体力とすべてのマナを捧げ相手の体力とマナを完全回復させる
〈解呪〉:呪いを解くことができる
〈女神の知識〉レベル5:スキルの発動スピードが向上する
〈リジェネレーション〉レベル5:体力を10秒毎に体力を回復する
〈マナレーション〉レベル5:30秒毎にマナを回復する
〈身体強化〉レベル10:身体能力(攻撃力、防御力、素早さ)が向上する
〈攻撃力強化〉レベル3:攻撃力が向上する
〈魔法力強化〉レベル3:魔法力が向上する
〈防御力強化〉レベル3:防御力が向上する
〈マナ強化〉レベル3:自身のマナが増える
〈女神の使徒〉レベル3:攻撃力、魔法力、防御力が向上する
〈女神の一撃〉:次に与える攻撃力が二倍になる
〈女神の守護〉レベル5:バリアを張る
〈キュア〉:状態異常を回復する
〈聖属性強化〉レベル5:自身の聖属性が向上する
〈耐性強化〉レベル5:各属性への耐性が向上する
〈不屈の力〉レベル5:体力の最大値が向上する
「いい感じにスキルは取れたけど、支援特化だからもうちょっと装備があったらいいんだけど……」
具体的には、空いている左手装備とアクセサリー装備がほしいところだ。ただ、いいものはそれなりの場所じゃないと手に入らないので、難しいところ。今はプレイヤーがいないので、ドロップや鍛冶師などの良質装備が流通してないのが痛いね。
私がうんうん唸っていると、「ただいま!」とケントが帰って来た。ココアよりケントの転職の方が早く終わったみたいだ。
「おかえり!」
「おかえりなさいですにゃ」
「「おかえりなさい」」
私たちがケントを迎え入れると、嬉しそうにへらりと笑った。そしてケントの腕の中には、大きな卵が抱えられている。
……現実で〈竜騎士〉になると、ああやって卵を持たなきゃいけないんだ。
私がそんなことを考えていると、タルトが不思議そうに「その卵はなんですにゃ?」とみんなの疑問を代表して聞いてくれた。
「ふっふっふっ、よく聞いてくれた! これは〈竜騎士〉になった俺の相棒なんだ!! 卵が孵ると、ルディ様みたいにドラゴンと共に戦うことができるんだ!!」
「すごいですにゃ!!」
「わあ、ケントの相棒のドラゴンが産まれるんですね!」
ドヤッと嬉しそうに告げるケントに、タルトとティティアがすごいすごいと感激している。「触っても大丈夫ですにゃ?」と興味津々だ。
「かなり硬い卵なんだよ。ほら」
ケントがソファの上に卵を置くと、タルトとティティアが目を輝かせながら優しく触れた。
「それで、ええと……」
「うん?」
「そちらの方は? なんか神々しさを感じるんだけど……」
そういえば、天使の紹介をすっかり忘れてたね。
「この子は女神フローディアの遣いなの」
「フローディア様の元へ案内するために参りました。個体名はありませんので、天使ちゃんとお呼びください」
「ててて、天使!? ちゃん!?」
ケントは盛大に驚いて、何度も目を瞬いている。「そんなすごい人をフレンドリーな感じに呼んでいいのか!? でも……」と、葛藤もしているみたいだ。
「天使ちゃんを見ると、やっぱり驚くしかないですね」
「人間の前に顕現することはほとんどありませんから」
「なるほど……」
ひとまず、天使のこととこれからの動きを説明した方がいいだろう。そのためにお茶でも用意しようと思っていたら、「ただいま!」とドアが開いた。ココアだ。
「おかえり、ココア」
「おかえりですにゃ!」
「「おかえりなさい」」
みんなで迎えると、ココアは部屋に入ってすぐに天使を見つけて、目を瞬かせた。その神々しさに、思わずどうすればいいか処理落ちしたのかもしれない。
「お茶をしながら、今後の作戦会議にしようか」
私はお茶とお茶菓子を用意して、これからのことを話した。
「つまり、レベルアップしたから大聖堂を取り戻して……」
「その後に、女神フローディアの元に行く……っていうこと?」
「そうです!」
ケントとココアが状況を理解してくれたので、私は大きく頷いた。
「ティーとリロイの呪いも解けたから、大聖堂も取り戻せたらいいと思うんだ。ケントとココアも〈竜騎士〉と〈
ロドニーたちを放っておいたままにするのもよくないだろうし。
「……わかった。ティーたちのために、大聖堂を取り戻そう。それに、ここは俺たちの生まれた国でもあるんだ。ロドニーの好き勝ってにさせとくのは嫌だ」
「そうだね。私たちの国を取り返そう!」
「おお!」
二人は気合十分のようだ。私も負けないくらい気合を入れて、最高の支援でサポートしなきゃいけないね。
すると、ココアが「そうだ、お土産があるんだった!」と鞄の中をなにやらごそごそし始めた。
「素材を買ってきたよ! タルトが〈製薬〉で使えるかと思って」
「にゃにゃっ! すっごく助かりますにゃ! ありがとうございますにゃ~!」
ココアがテーブルの上に素材を置くと、タルトは尻尾をピーンと立たせて喜んだ。お土産の内容は、〈火のキノコ〉〈水のキノコ〉〈薬草〉などの素材類だった。
「わあ、〈火炎瓶〉と、〈水のキノコ〉があれば防御系のポーションを作ることもできますにゃ! ありがとうですにゃ、ココア」
タルトがほくほく顔でお土産を回収すると、ケントが「その手があったのか!!」と頭を抱えた。素材を買ってくるというところに頭が回らなかった自分を悔やんでいるらしい。きっと、ドラゴンの卵のことで頭がいっぱいだったんだろうね。
……ドラゴンの卵は受け取ってから二四時間で孵化するから、明日にはケントの相棒をお披露目することができるだろう。
「まあまあ、〈転移ゲート〉があればいつでも買いに行けるから大丈夫だよ」
「ハッ! そうだった!! なら、タルトが準備してる間に買ってくる! ブルームで素材を買ってこれるのは、俺とココアくらいだからな」
「じゃあ、お願いしますにゃ」
「任せとけ!」
ということで、ケントはとんぼ返りで再びブルームへ行ってしまった。
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