第87話 囚われの騎士たち
ゲートでツィレに来た私たちは、二手に分かれることにした。私、ティティア、ココア、ブリッツが牢屋に囚われている騎士を助ける。リロイ、タルト、ケント、ミモザは内部の様子を探ることと、何かあった際の囮役だ。
リロイ曰く、絶対にティティアには傷一つ付けてはいけない。なので、率先して囮役を希望した。リロイも地位のある立場なので、囮としてはうってつけだ、と。
「さてと、行きますか」
外套のフードを深く被り、秘密の地下通路からクリスタルの大聖堂へ侵入する。この道は私も知らなかったので、リロイに教えられたときは驚いた。
大聖堂以外にもいろいろ繋がっているらしい。
「ティティア様、何かあればすぐに逃げてください」
「リロイも無茶はしないでくださいね。今回は、捕まっている仲間の奪還ですから」
助けにいったのに捕まってしまっては本末転倒だ。リロイは「もちろんです」とティティアの前で膝をついた。そして私を見る。
「シャロン、ティティア様を頼みます」
「もちろんです。ティーは私たちの総大将ですからね!」
敵に奪われるなんてとんでもない。
「じゃあ、気合入れていくよ!」
「「「おー!!」」」
私、ティティア、ココア、ブリッツの四人は、地下牢を目指して歩き出した。ブリッツを先頭にして、私、ティティア、ココアという順で続く。夜中ということだけあって、人は少ない。
……とはいえ、ゼロってわけではないね。
所々に見張りの聖堂騎士がいるので、慎重に進んでいくしかない。
「外から見たときも思いましたけど、中もとっても綺麗ですね」
こんなときですけどと言いつつ、ココアが感嘆のため息をついている。しかし、それには私も全力で頷くしかない。
ここ、クリスタルの大聖堂は〈聖都ツィレ〉のシンボルだ。
外観はもちろんだけれど、内部もクリスタルがふんだんに使われていて、キラキラ光り輝いている。まるでオーロラのような輝きは、私の視線を釘付けにするのだ。
天井の吹き抜けも高く、色とりどりのクリスタルが月明かりを映している光景は――言葉で表せないくらいに美しい。
……どうせなら、もっと堂々と見学したかったね。
クリスタルの大聖堂を取り戻したら絶対に来ようと、私は強く心に誓った。
「――見張りです」
「!」
先行しているブリッツの声を聞いて、私たちは足を止める。どうやら見張りは二人組の聖堂騎士で、欠伸をしながら歩いているみたいだ。
口元に手を当てて、私たちは柱の陰で息をひそめる。
「は~。ロドニー様の命令で見張りを増やしたのはいいけど、暇だなぁ」
「ロドニー様もまだ帰ってないしなぁ。いったいツィレはどうなることやら……」
聖堂騎士たちの会話を聞いて、苦笑するしかない。ひとまず今日忍び込んだのは、いい判断だったみたいだ。
見張りが通り過ぎるのを待って、私は口を開く。
「別にロドニーに心酔してるってわけじゃなさそうだね」
「給金を貰えれば、上は誰でもいいんでしょう」
ブリッツが頷いて、「こっちです」と一枚のドアを示す。開くと、地下に続く階段が出てきた。
なるほど、こうやってわかりづらくしているのか。
これは知らなければ素通りしてしまったと思う。
「――! シャロン、後ろからも人の気配がしてます!!」
「っ! 急いで下りよう」
私たちが慌てて階段を下りていくと、ちょうど聖堂騎士が通り過ぎた。ギリギリセーフだ。
「は~心臓に悪いね。でも、あと少し。ティー、大丈夫そう?」
ティティアは私以上に緊張しているみたいで、「はい」と返事をしつつも大きく深呼吸をしている。
――とはいえ。きっとこの先には地下牢を見張る聖堂騎士がいるので、よっぽどのことがなければ戦闘を避けることはできない。作戦としては、気絶してもらって、代わりに牢屋に入れる……というものだ。
階段を下りるとすぐに牢屋へ続く入口があり、その前に見張りの聖堂騎士が一人いた。
「それじゃあ、自分が……」
「待ってください」
ブリッツが剣の柄に手を添えたところで、ココアからストップが入る。その手には杖が握られているので、私はピンときた。
「相手を眠らせるスキルがあるんです。それなら戦闘音も立たないので、ほかの見張りに気づかれる可能性も低いと思います。――〈
ココアが静かに、歌うようにスキルを使うと、聖堂騎士は何度かうと……として目を擦り、しかし襲ってきた眠りに抗えずその場に崩れ落ちた。
「わ、すごいです……。これなら、争うことなく騎士たちを助けることができますね」
「お任せください!」
嬉しそうなティティアに、ココアが笑顔で答えた。それにブリッツも頷いて、「先に進みましょう」とゆっくりドアを開けて中の様子を覗き見る。
「……中にも見張りが一人いますね。聖堂騎士です」
「なら、私が眠らせますね」
「お願いします」
ココアは頷いて、ドアの隙間から上手くスキルを使う。見張りはあっという間に眠り崩れたようで、ブリッツがドアを開けた。
「これで大丈夫そうです」
ほっと胸を撫で下ろすも、ブリッツは見張りを縄で縛っていく。目が覚めてこちらに歯向かってこられたら大変だからね。
拘束し終えるとティティアが一番に駆けこんでいったので、私も慌てて追いかけて中へ入る。
「みんな、無事ですか!?」
「「「――ティティア様!?」」」
ティティアの声に反応したのは、聖騎士と聖堂騎士だ。ざっと見る限り、二〇〇人ほどが収容されている。全員がやつれているような状態で、碌に食べ物を与えられていないみたいだ。
……リロイからの事前情報だと、寝返っていない聖堂騎士は約半数で五〇〇人。聖騎士は見習いを含めて三二人。ブリッツとミモザは一緒に行動しているから、聖騎士は多くても三〇人。捕まっていない人もいるみたいだからか、もう少し少ない。
私の後ろに来たブリッツが、「残りは〈フローディア大聖堂〉かもしれませんね」と言う。確かに、向こうにも牢屋あるならば可能性は高い。分散して捕えることによって、リスクも減らせるだろうし、互いに人質のような状態にもなる。
「助けに来るのが遅くなってしまい、ごめんなさい。わたしは不甲斐ない主です……」
ティティアが膝をついてそう告げると、「そんなことありません!」と声が上がる。
「私たちこそ、ティティア様をお守りできず申し訳ございません」
「ティティア様がご無事で安心いたしました……」
騎士たちはみんな辛い状況だっただろうに、自分たちのことよりもティティアの心配をしてくれている。
すぐにブリッツが見張りの持っていた鍵を使って、牢屋を開けた。しかしその直後、ドン! と地面を揺らすような大きな爆発音が響いた。
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