第86話 作戦会議

 温泉から上がった私たちは、一度女子部屋へ集合した。全員がゆったりした浴衣姿なので、なんともゆるりとした作戦会議だ。

 私がミモザと話したことを、整理してみんなに伝える。ロドニーがまだ修道院にいるだろうと思われるので、今のうちに大聖堂を取り返す……のは難しいかもしれないけれど、捕らわれた仲間を助けられるのではと話す。


「え、大聖堂に乗り込むのか!?」


 まずケントが驚いた。


「確かにロドニーがいない今、チャンスと言えますね。たとえ奪還できずとも、ロドニー側の戦力を削ぐことは重要です」


 リロイはとても乗り気のようだ。一刻も早く、ティティアに大聖堂に戻ってほしいと思っているのが伝わってくる。


「そうですね……。ロドニーが何をしたいのか、明確にわからないままなのも不安ではありますが、早くみんなを助けたいです」


 ティティアがそう言ったのに頷き、私たちは今から――ツィレの大聖堂へ向かうことにした。


「「「――って、今!?」」」


 私が当然のように即決行を告げたら、全員が目を見開いて驚いた。いやまあ、そうだよね。疲れてるよね。もう寝たいよね。

 ……となると、作戦は明日の夜になるかな?

 さすがに昼間に乗り込んでやりあえるほど甘くはないだろう。


「ロドニーがいつ帰ってくるかわからないから、明日の夜よりいいかなと思って。でも、くたくただよね。……正直、私だって疲れてるし」


 私は支援職なのでまだいいけれど、特に前衛のケント、ミモザ、ブリッツはもっと疲れているはずだ。タルトとティティアだって、よくよく考えればまだ七歳だ。

 ……やっぱり今日は寝よう。そうしよう。


 無謀を言ったと猛反します。


「明日の夜にしましょう。さすがに、今から行くのは体力的にも精神的にも辛いですし――」

「いいえ、今夜……行きましょう」

「ティー……?」


 私が作戦決行日を明日にしようとしたら、ティティアが声をあげた。ぐっと握った拳を膝にのせて、決意を秘めためで私たちを見回す。


「みんなが疲れているのは、重々承知しています。……ですが、わたしの騎士たちは、きっと牢屋で辛い思いをしているはずです。助けられるのであれば、どうか、一刻も早く……助けたいのです」

「…………」


 ティティアの思いに、私は何も言えなくなる。使えてるしやっぱり明日、なんて、そんな気軽に言える雰囲気は一掃された。その重厚な雰囲気に、ああ、やっぱりティティアは教皇なのだなと思い知る。


 私は静かに頷き、ほかのメンバーの様子を見る。


 ケントとココアも日中は大変だったはずだけれど、私たちほどではないからか、問題なさそうに頷いている。リロイは言わずもがな。ミモザとブリッツは聖騎士なので、ティティアの言葉に異を唱えることはほぼないだろう。となると、残りはタルトだ。私がタルトを見ると、冒険の腕輪に手を添えていた。


「苦しくて、辛いのは嫌ですにゃ。だから、すぐにでも助けに行きましょうにゃ! わたしはティティア様の専属〈錬金術師〉ですにゃ! お任せくださいにゃ!」


 一番疲れているだろうに、タルトは堂々と言い切った。

 その格好良さに惚れ惚れしていると、タルトはテーブルの上にポーションを並べ始めた。どうやら、今までこつこつ作っていたみたいだ。


「これは、わたしが〈製薬〉スキルで作った〈元気1000倍ポーション〉ですにゃ。これがあれば、今夜中に乗り込めるはずですにゃ!」


 タルトが出したポーションを見て、思わず「おおっ!」と声をあげてしまった。みんなの注目が私に集まるが、仕方がない。

 ……ゲーム時代は使い道がなかったポーションだけど、現実になるとまた違うんだね。


「お師匠さまは知っていると思いますが、この〈元気1000倍ポーション〉があれば、飲んでから三時間の間は眠気もなく、疲れもなく、頑張り続けることができるんですにゃ。ステータスは、ほんの少し上がりますにゃ」

「そんなすげぇポーションがあったのか……!」

「いつの間に作ってたんだか……私の弟子、さすがだね!」


 ケントがまじまじと元気ポーションを見ている。赤い透明の液体が入っているポーションで、ゲーム時代は若干のステース上昇の効果があるだけだった。タルトが言った眠くならない疲れないというのは、アイテムの説明文だ。そのため、ゲーム時代はその効果がなかったし、特に必要なものでもなかった。加えて材料の素材もちょっと集めるのが面倒だったので、若干のステータスアップでは割に合わないと、常用はされなかったのだ。


 ……もちろん、ここぞというときには使ったけどね!


「タルト……! ありがとうございます」

「当然ですにゃ!」


 ティティアがわっと涙ぐみつつタルトに抱きついて、何度も「ありがとうございます」と告げる。私はその様子を見ながら、これは成功させるしかないね……と気合を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る