第85話 温泉で癒しタイム

 カポーンという鹿威しの音を聞きながら、私は温泉に浸かっている。隣には、タルト、ティティア、ココア、ミモザもいる。

 ……部屋風呂だから、結構キツキツだね。

 ここは〈氷の街スノウティア〉でいつもお世話になっている宿。部屋に温泉がついているのが売りで、料理も美味しい。

 今までは男女混合で一部屋用意してもらっていたけれど、人数が増えたこともあって男女で部屋をわけることにした。女は私、タルト、ティティア、ココア、ミモザ。男はリロイ、ケント、ブリッツ。気づけば合計八人の大所帯になっていた。


 私たちは〈常世の修道院〉へ行き、〈聖都ツィレ〉のクリスタル大聖堂を乗っ取ったロドニー・ハーバスを追い詰めたものの――ボス〈ルルイエ〉部屋に入れられてしまい、命からがら逃げのびた先で〈ヒュドラ〉と戦いへとへとになりながら戻ってきたのだ。しかも〈ヒュドラ〉との戦いは回復アイテムが切れたところを、ケントとココアがお世話になったという〈竜騎士〉が助けてくれた。どんな人かまだ話を聞いてはいないけれど、感謝しかない。


「とりあえず今日はゆっくり疲れを癒そう。ココアとケントの転職のお祝いもしたいねぇ」

「ありがとうございます」


 ココアは嬉しそうに微笑んで、「無事に〈言霊使い〉になりました」と報告してくれた。ここからは、覚醒職を目指してレベルアップしていくのみだね。


「ちなみにケントは……最初は〈盾騎士〉になるって言ってたんですけど、〈騎士〉になったんです。知り合った〈竜騎士〉が格好よくて、憧れちゃったそうですよ」


 そう言ってココアがクスクスと笑う。


「〈竜騎士〉! わたしを助けてくれた人ですにゃ。確かにとっても格好よかったですにゃ!」


 タルトがにゃにゃにゃっ! とはしゃぐ。そして矢継ぎ早に、ココアに質問をしていく。


「なんで一緒にいたんですにゃ? また会えますにゃ? 好きなものを知っていたら教えてほしいですにゃ。ぜひお礼をしたいんですにゃ」

「えっと、〈竜騎士〉の――ルーディット様に会ったのは〈ファーブルム王国〉に行く途中だったんだけど――」

「ぶふぅっ!」

「「「シャロン!?」」」


 思わず噴き出してしまった!!

 私が噴き出したせいで、一斉に全員がこっちを見るが……まさかルーディットが私の実兄だなんて、とてもではないが口が裂けても言えるわけがない。

 ……だってそうなったら、私の身分とかあれやこれやも明かさなきゃいけなくなっちゃう。

 別に、みんなに隠したいわけではない。伝えてもきっと私への対応は変えないと思う。だけど今……この国には元婚約者で〈ファーブルム王国〉の王太子イグナシアが来ている。間違いなく、厄介ごとだ。それにみんなを巻き込みたくはないのだ。

 ……でも、ずっと黙ったままっていうのもよくないよね。

 大聖堂関連のいざこざが落ち着いたら、みんなに話すのがいいかもしれない。そのときには、多少はイグナシアの周囲も落ち着いている……と、願いたい。


「ごめんごめん。……それで、どうしたの?」

「それで、ファーブルムへ到着するのが夜遅くなりそうなときに声をかけてきて送ってくれたり、ケントが稽古をつけてもらったりしてくれたんです。そしたら、私の転職のあとに〈牧場の村〉で偶然再会してたんです。急いでる私たちを心配して、ドラゴンで送ってくれたんですよ」


 すごくいい人ですよねと、ココアがルーディット兄様のことを話してくれた。


「素敵な人ですにゃ」

「よい人に出会えたのですね」

「私もぜひ手合わせしていただきたいものです」


 タルト、ティティア、ミモザがそれぞれ感想を告げる。タルトは助けてくれた兄にうっとりしているように見えるけれど、脳筋で短気なところがあるのでお勧めはできない。

 ……というか、もしかして私を捜しにエレンツィに来たとか!?

 大聖堂関連のこのクソ忙しいときに~~! と思わず叫びたくなってしまったけれど、ルディ兄様は純粋に私を心配してくれているのだろうから……どうすればいいのか判断に困ってしまう。

 私は温泉に深くつかりながら、今後のことをどうしようか……と考える。


 ルディ兄様は目立つから、私が気をつけていれば会わないような気がする。家族には手紙を送って――ってすると、ルディ兄様に私の居場所がばれてしまう可能性があるか。

 ……ここはちょっと、いったん保留にしておこう。


 考えることはロドニーのことだ。

 今の私のレベルは72になっていて、まあまあいい感じではあるけれど、覚醒職の〈アークビショップ〉にはまだ少しかかるといった感じだ。



 シャロン

 レベル:72

 職業:ヒーラー

 スキル

 〈祝福の光〉:綺麗な水と〈空のポーション瓶〉×1で〈聖水〉を作れる

 〈ヒール〉レベル10:一人を回復する

 〈ハイヒール〉レベル5:一人を大回復する

 〈エリアヒール〉レベル5:自身の半径7メートルの対象を回復する

 〈完全回復〉レベル4:自身の60%の体力とすべてのマナを捧げ相手の体力とマナを完全回復させる

 〈リジェネレーション〉レベル5:体力を10秒毎に体力を回復する

 〈マナレーション〉レベル5:30秒毎にマナを回復する

 〈身体強化〉レベル10:身体能力(攻撃力、防御力、素早さ)が向上する

 〈攻撃力強化〉レベル3:攻撃力が向上する

 〈魔法力強化〉レベル3:魔法力が向上する

 〈防御力強化〉レベル3:防御力が向上する

 〈女神の一撃〉:次に与える攻撃力が二倍になる

 〈女神の守護〉レベル5:バリアを張る

 〈キュア〉:状態異常を回復する

 〈聖属性強化〉レベル1:自身の聖属性が向上する

 〈耐性強化〉レベル5:各属性への耐性が向上する

 〈不屈の力〉レベル5:体力の最大値が向上する



「ん~、ロドニーをどうするか、それとも次のレベルアップ先を決めるか……。ドラゴン狩りとかもいいかも? あ、スノウティア近くのダンジョンもあったね。うん、ダンジョンいいかもしれない」


 私がどこのダンジョンに行こうか、それともここら辺のダンジョンをレベル上げついでに制覇してしまおうか。なんて考えていたら、ティティアたちが小動物のような瞳で私のことを見ていた。


「え……どうしたの……?」

「い、いえ……。シャロンのレベル上げは、すごいです! わたし、頑張ります!! 強くなるために、乗り越えなければならない試練ですから……!」

「わたしももっと強くなりますにゃ」


 ……私のレベル上げは別に試練でもなんでもないんだが?

 そう思いつつも、ティティアが気合を入れてくれるなら、私もそれに応えなければいけないだろう。

 しかしここでミモザから待ったがかかった。


「ロドニーだが、まだ修道院にいるんじゃないかと思うのだが、どうだろう?」

「あ、そうですね。そこまで早く帰ってこられないと思います」


 なんせロドニーのレベルは46だったからね。むしろ、よく修道院の奥まで行けたと褒めてあげたいくらいだ。

 ……肉壁にされていた部下たちは可哀相だけれど。


 ミモザは思案しつつも、一つの案を口にした。


「今、ロドニーがツィレにいないのなら――大聖堂を取り戻せるんじゃないか? そこまで行かなくても、捕らわれた仲間を助けることができるかもしれない」

「――確かに、それは一理ありますね」


 ティティアの仲間を解放するなら、ここが絶好のチャンスだろう。ミモザの案に頷いて、賛成する。


「温泉から上がったら、リロイたちにも相談しましょう」

「みんなを助けられるんですね……!」


 ティティアが安堵した笑みを浮かべ、「早く相談しましょう」と一番に温泉から上がった。





***


いつもありがとうございます。

宣伝です!

今日! 7月25日、小説の3巻が発売します!!

なんだか厳しそうな雰囲気なので、応援してくださる方は購入していただけるととても嬉しいです。まだまだ書きたいんじゃー!

何卒よろしくお願いいたします……!!


来週28日は、コミカライズが更新です。


3巻は下記のエピソードが収録してあります。

加筆修正をしつつ、番外編は70ページくらい書き下ろしました。

ケントとココアの転職の話です。

ブルームと、森の村リーフに行きます。


『回復職の悪役令嬢』

エピソード3 ユニーク職業〈聖女〉クエスト・上

レーベル:MFブックス(KADOKAWA)


イラスト:緋原ヨウ先生

★地図

★職業一覧

プロローグ(ロドニー・ハーバス視点)

スキルの確認をしよう

再会

〈深き渓谷〉

自己紹介(お話し合い)

〈ワイバーン〉がやってきた!

〈冒険者の腕輪〉大作戦

お約束の不法侵入

〈ヒーラー〉へ転職

〈常世の修道院〉

〈火炎瓶〉を投げつけるだけの簡単な仕事です

ロドニー発見

ボス〈ルルイエ〉

〈焼け野原〉

エピローグ(ルーディット・ココリアラ視点)

番外編/二人で憧れの二次職へ!(ケント視点)


どうぞよろしくお願いいたします。

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