第79話 スパルタレベル上げ

「シャロンがあえてスパルタというと、いったいどんな地獄が待っているのだろうと体が震えますね……」

「私は鬼か何かか?」


 ふるふる震えているティーに冷静にツッコミを入れつつ、別に無謀なことはしないと告げるがリロイには疑いの目で見られた。解せぬ。

 そんななかで、タルトがめちゃめちゃやる気を見せている。


「たくさんレベルを上げて、ティーのために頑張りますにゃ!」

「タルト……! ありがとうございます。わたしも弱音を吐いている場合ではありませんね。血反吐をはきながらでもやりきってみせます……!」

「血反吐をはく予定はありませんが?」


 まったく私をなんだと思っているのか。

 単に効率よくレベル上げをしようっていうだけなので、別に無茶はしないよ。



 私が狩場に選んだ場所は、T字路になっている場所だ。左右どちらともに一本道が伸びていて、少し歩くと曲がり角があり、最終的に同じ場所に出る左右対称の作りになっている。

 つまりここは、右、左、両方からモンスターが湧くポイントなわけです。さらにブリッツに少し奥からモンスターを釣って来てもらえば、みんなでフルボッコにすることができる。



「なるほど、ここを拠点にして狩りをするんですね」

「確かにそれなら、前衛以外の疲労は抑えやすいですし、周囲の状況把握も簡単です」


 ブリッツとミモザはすぐに頷き、自分がすべきことを把握してくれたらしい。頼もしいね。


「基本的な支援と、釣りに行くブリッツに何かあったときは私がフォローします。リロイはこの場所に残って、支援と、余裕があれば攻撃スキルも使ってください」

「わかりました」


 固定狩りの支援であれば私一人で十分なので、リロイにはちょっとでも火力の足しになってもらう作戦だ。

 幸い、ポーション類はいっぱい用意してあるからね。


「わたしたちはここで攻撃しますにゃ!」

「わたしも攻撃スキルを取ったので、頑張ります……!」


 タルトとティティアが気合を入れたのを見て、ブリッツが動き出した。



 ブリッツが右手の通路へと進んでいくのを見て、ミモザが左手の通路側へ陣取る。これは、左手の通路からモンスターがやってきた際、ミモザが前衛としてすぐ対応できる立ち位置だからだ。

 ……でも、慣れてきたらミモザも釣ってきていいんだけどね?

 とは、さすがに言わないでおいた。


 少し待つと、ブリッツが〈嘆きの魔女〉と〈ゴースト〉を一体ずつ連れてきた。それを見たミモザが、すかさず〈女神の一閃〉で攻撃をし、タルトが〈ポーション投げ〉を行う。リロイとティティアもそれに続き、敵を攻撃する。


「〈女神の守護〉〈身体強化〉! ブリッツ、そのまま左手の通路の敵を釣ってきて」

「わ、わかりました!」


 ブリッツの役目は敵を連れてくることであって、攻撃することではない。そのためブリッツが連れてきた敵の処理は私たちが行う。その間に、もう一方の通路から敵を連れて来てもらうというのが流れだ。

 とりあえず、一時間くらいやってみて一度反省会かな……?



「〈マナレーション〉! ……あとはポーションも飲んじゃおう」


 やはり自然回復程度ではマナの回復が追い付かないので、私は遠慮なくポーションを飲みながら支援をかけていく。

 すると、ちょうどブリッツが敵を連れてきた。今度は魔女、犬、修道士の三体だ。うん、なかなかいい感じに釣れるようになってきたね。

 が、ブリッツがこちらに辿り着くよりも早く修道士から攻撃を受けて倒れこみそうになる。それはさせないよ! 私は一〇メートル少し離れているブリッツの方へ走り、スキルを使う。


「〈女神の守護〉!」


 私が守護をかけ直すと、倒れそうだったブリッツが踏ん張って耐えた。


「助かった、シャロン!」

「フォローは任せてって言いましたからね」


 私は続けざまに、ブリッツに支援をかけ直す。ミモザが攻撃したのを見て、さらにもう一度守護をかけ直し、反対の通路へ行くブリッツを見送る。

 修道士はここで出るモンスターの中で一番強いこともあって多少苦戦しているけれど、概ね順調に狩りは進んでいる。


 私のレベルが57まで上がったところで、一時間ほどが経った。


 ……そろそろ一度反省会と思ったけど……みんなの動きもよくなってきてるし、このまま続行でいいかな?


 何か気になることがあれば、みんな都度聞いてくれるし、私も声をかけている。それだけで随分改善されるし、みんな自分なりの工夫もして戦っているのだ。

 うん。やっぱりこのまま続行がいいね!



 それからさらに数時間――。

 今までの倍ほどの敵をブリッツが連れてきた。私としてはよくやった! と言ってあげたいところだけれど、ほかのみんなは息を呑んだし、ブリッツの表情もいつもより厳しい。


「すみません、敵が多いです!!」

「オッケ! 〈女神の守護〉〈リジェネレーション〉!」

「〈ハイヒール〉」


 私がすぐに支援をかけると、すかさずリロイもフォローしてくれる。結構支援の息が合ってきたと思う。やりやすい。


「〈ポーション投げ〉!」

「〈女神の一閃〉!」


 タルトとミモザが攻撃すると、もう〈ゴースト〉は倒すことができるようになった。ほかの敵は、修道士を除いてタルトがもう一回〈ポーション投げ〉をすれば倒すことができる。修道士は、ミモザにもう一撃加えてもらうというのが倒すまでの流れだ。


「もう一回ですにゃ! 〈ポーション投げ〉!!」

「わたしもいきます。――〈無慈悲なる裁き〉!!」


 タルトの攻撃で修道士以外が光の粒子になって消えるのと同時に、天から光の剣が降ってきて――残っていた修道士に突き刺さり、光の粒子になって消えた。

 わお……。

 突然大技を使ったので、全員の視線がスキルを使った人物――ティティアに集まった。ブリッツも次の敵を釣りに行くのを忘れて、ティティアを見ている。


「なんとも神々しいです、ティティア様」

「ありがとう、リロイ」


 一部通常運転の人もいた。


「そういえばティーはスキルの取得はいろいろ試したいって言ってたし、あんまり詳しく聞いてなかったね。まさか攻撃スキルをそんなに取ってるとは思わなかったよ」


 もちろん攻撃スキルも多少はあった方がいいけれど、防御だとか、回復だとか、ティティアはそういうスキルを多く取りそうだと思っていた。


「……タルトに〈スキルリセットポーション〉をいくつかもらいましたからね。今のわたしには、戦う力が必要なんです」

「ちゃんと考えてるんだね。強いね、ティー」


 私が褒めると、ティティアははにかむような笑顔を見せた。しかしそれは少し辛そうでもあったので、早く今回の件を終わらせて、平和なスキルを再取得させてあげたいなと思う。


「お師匠さま、そろそろそ一度休憩しましょうにゃ」

「そうだね。お腹もすいたし、ゆっくりしようか」


 タルトの言葉に同意すると、みんな「やった!」とガッツポーズをして喜び始めた。いや、休憩したかったなら途中で声をかけてほしかったんだけど……?




 すぐ近くの敵が湧きづらい場所に到着すると、できたてを購入して〈鞄〉に入れておいたお弁当を取り出した。疲れているときは、こういうお手軽なご飯がありがたい。

 タルトが紅茶を淹れながら、ティティアを見た。


「ティーはどんなスキル構成にしたんですにゃ?」

「わたしのスキルは……」


 ティティアは、自分が取得したスキルを教えてくれた。



 ティティア

 レベル:63

 職業:教皇

 スキル

 〈魂の祈り〉:〈教皇の御心〉を作ることができる。

 〈神の寵愛〉レベル10:自身の基礎能力が向上する。

 〈慈愛〉レベル5:自身の周囲の人たちを敵味方関係なく回復する。

 〈女神の聖域(サンクチュアリ)〉レベル5:周囲を浄化して結界を張る。

 〈最後の審判〉:確率50%で即死させ、50%で全回復させる。

 〈女神の寵愛〉レベル10:敵から受けたダメージを吸収し回復する。

 〈裁きの雷(いかずち)〉レベル5:敵一体に雷を落とす。

 〈無常の裁き〉レベル10:複数の敵に雷を落とす。

 〈無慈悲なる裁き〉レベル10:敵一体が女神フローディアの剣に貫かれる。

 〈奇跡の祈り〉:ランダムで神の奇跡が起こる。

 〈平和の祈り〉レベル5:自身に向けられたヘイトをリセットする



 ……これは、思ってたより攻撃よりだ。

 ロドニーを許せない、戦うという、そんなティティアの意志を感じられるようなスキル構成だ。だけど同時に、自分のことも大切にしているのがわかる。ヘイトリセットがあればモンスターから逃げることも容易くなるだろうし、回復や結界もある。


 ……うん。ティティアもしっかり戦力にカウントして大丈夫そうだね。

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