第78話 〈火炎瓶〉大作戦

 ダンジョンを汚す不届きなゴミを片付けて進むと、案の定モンスターがたくさんいた。ここで巻くことに成功したのか、それとも何人かが犠牲になったのか……。

 ……まあ、考えても仕方がない。


「お、いっぱいいるねぇ♪」


 大量のモンスターを見るとついついにやけてしまう。数はざっと二〇というところだろうか。一番数が多いのは〈ゴースト〉。ここのモンスターの中では一番弱くて全体数も多い。あとは犬と魔女が多くて、男爵、修道女、修道士は数体というところだ。うん、これはいい経験値になりそうだぞっと。


「あ、あんなにたくさん……! いっぺんに相手にするなんて、できるんですにゃ!?」


 タルトは警戒しているらしく、尻尾の毛がぶわわっとなっている。


「大丈夫。支援が二人いるし、頑張ってブリッツに耐えてもらうから」

「自分ですか……。頑張ります」


 どうやらブリッツは頑張ってくれるらしい。

 今回は全員で〈火炎瓶〉を投げて、倒しきれないモンスターをブリッツに防御してもらう。という単純な作戦だ。


「じゃあ、配りますにゃ」

「は、はいっ! 頑張って投げます……!」


 ティティアが気合を入れるなか、ミモザが「私も投げるんですか?」と驚いている。自身のスキルを使えばいいと思っていたのだろう。

 それで倒せるならば問題ないけれど、今回は敵の数が多いので安全にやっていきたい。ミモザには、〈火炎瓶〉を投げてすぐ〈女神の一閃〉で前方方向にいるであろうモンスターに追加の一撃を与えてもらいたいのだ。


「……という感じに動いてほしいんだよね」

「なるほど、わかりました。確かにあれだけの強いモンスターがいるんですから、どれだけ警戒しても足りないくらいです」

「で、その残ったモンスターを自分が引き受ければいいんですね。すぐに盾スキルで防御します」


 ミモザとブリッツが真剣な表情で頷いた。


「私とリロイはすぐに支援をかけ直すから、安心して。ティーは、〈女神の聖域サンクチュアリ〉で結界を張って自分とタルトを守って」

「はい」

「わかりました」


 より、これで全員の役割分担が決まった。

 私とリロイは支援スキルをかけ直し、〈女神の一撃〉も全員にかける。これだけやれば、かなりのダメージを与えられると思うんだよね。


「よし、じゃあ行きますか!」

「「「おー!」」」

「おーですにゃ!」



 タルトとティティアは背が低いので、前方で最初に〈火炎瓶〉を投げつけた。そしてダッシュで後退し、ティティアが結界を張る。その合間に、私たちも〈火炎瓶〉を思いきり投げつけてやる。

 さすがに六人が投げただけあり、ドゴオオオオォォンと大きな音と同時に建物がちょっとだけ揺れた。


「行きます! ――〈女神の一閃〉!」

「うおおおおぉぉっ、〈十字架の盾クロスガード〉!!」

「「〈女神の一撃〉!」」


 ミモザとブリッツが走り出すのを見て、私はタルトに、リロイはミモザに、それぞれ〈女神の一撃〉を追加する。

 爆発した砂埃で視界が悪いが、攻撃の手を止めるつもりはない。後ろからティティアの声が聞こえる。無事に結界を張れたみたいだ。


「〈ポーション投げ〉!」

「〈女神の一撃〉!」

「〈女神の守護〉!」


 タルトが二投目を放ち、私はタルトに一撃を、リロイはブリッツに守護を使う。そして続けざまに、私もブリッツに守護をかける。もし残ったモンスターの数が多かったら、守護のバリアはあっという間に破られてしまう。

 さて、次は……と考えたところで、ブリッツの声が響く。


「殲滅完了だ!!」


 砂埃の中から戻ってきたブリッツの顔は、これでもかというほど安堵に満ち溢れていた。


「というか、最初の〈火炎瓶〉でかなり数が減ってたみたいだ。ミモザの一閃でほぼすべてのモンスターを倒して、最後まで残った〈悪魔の修道士〉はタルトの二発目で倒せていた」

「あー、やっぱり修道士は残っちゃってましたか。……もっとレベルを上げて、装備も揃えていかないと厳しいですね」


 運がよければ全滅させられるかな? と思っていたけれど、現実はそう簡単ではないようだ。


「あれでまだ足りないのか……」


 ぼそっと呟いたブリッツの言葉は聞かなかったことにして、私は支援をかけなおしていく。その間に、タルトとティティアがドロップアイテムを拾ってくれた。レアはなかった。残念。



 私たちはモンスターを倒しつつ、修道院内を進んでいく。


「それにしても、今日は久しぶりにレベルが上がりましたよ」

「おめでとう、リロイ」


 道中の雑談とでもいうようにリロイが告げると、ティティアが満面の笑みで喜んでいる。そしてそれにデレッとするリロイ。うん。いつもの光景だね。


「私も修道院に入ってからレベルが上がったかな……」

「わたしも上がりましたにゃ!」

「自分もです」

「私も」

「あ、わたしもでした」


 若干コントのようになっている気がしなくもないけど、レベルが上がったのはいいことだ。ここのモンスターは経験値も美味しいので、まだまだ上げていくつもりだ。

 ちなみに現在のレベルは、私とリロイが50、タルトとブリッツが47、ティティアが45、ミモザが46だ。


 みんながレベルを告げると、ミモザが「普通、このレベルだとなかなかレベルアップしないんですけどね……」と引きつった笑みを浮かべながら言った。


「確かに、レベルが低い人は多いですね……。なら、ダンジョンの情報を流して、もっと気軽にレベル上げに出向いてもらったらいいんじゃないですかね? この修道院の情報をツィレのギルドから流してもらえば、結構な数の冒険者が来ると思いますよ!」


 そうすれば、市場にもいろいろアイテムが出まわるようになるはずだ。そうすれば冒険者はレベル上げをしつつ稼げて、私はアイテムを手に入れられる。ものすごくwin-winだ。


「そんなことを考えるのはシャロンくらいでしょう」

「ちょっとブリッツ、憐れむような目でみないでください……」


 しかし私以外の全員が頷いてブリッツに賛同している。

 絶対そんなことないと思うのに。たとえばフレイだったら、きっと喜んで修道院に来てくれるに違いない。今度教えてあげよう。


「――っと、狩場に着きましたね」


 私が足を止めると、みんなも足を止める。


「ここが……?」

「そうです。このポイントはあまりモンスターが沸かないので拠点にしやすいんですけど、ちょっと行ったところにはモンスガ―が多くいる最高の場所なんです」


 ゲーム時代はこの場所が人気すぎて、よほどタイミングがよくなければ使うことができなかった狩場だ。


「さて。ロドニーを捕えるために……スパルタでレベル上げしますよ!」

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