第13話 いざ〈エルンゴアの楽園〉!

 翌日。私はスキルの確認などを行いながら、さてどうするべきか……と頭を悩ませていた。というのも、〈猫のローブ〉のままでいいのだろうか……? という疑問だ。


「かといって、これよりいい装備をすぐ用意するのも難しいし……いいか」


 支援をするのであれば、支援用の装備を揃えた方がいいけれど、今回の私はあくまで案内だ。別に装備を整える必要はないだろう。

 ちなみに私のステータスは、こんな感じになっている。



 シャロン(シャーロット・ココリアラ)

 レベル:12

 職業:癒し手


 スキル

 〈ヒール〉レベル3

 〈リジェネレーション〉レベル3

 〈身体強化〉レベル5


 称号

 女神フローディアの祝福:

 回復魔法の効果が+10%になる

 回復魔法の消費SPが半分になる

 婚約破棄をされた女:

 性別が『男』の相手からの攻撃耐性5%



 スキルは強化しつつ、新しく〈リジェネレーション〉を覚えた。

 これは10秒毎に体力を回復するスキルで、戦闘後の移動中やほかの支援で回復にあまり手が回せないときなどに重宝するスキルだ。

 案内役なのであまりスキルを使うことはないだろうけれど、多少は役に立てるかもしれない。



 ***



 私がギルドに到着すると、すでにフレイたちの姿もあった。

 トルテの大きなリュックにはフライパンだけではなくお鍋もぶら下がっているので、ダンジョンの中でも料理は期待してよさそうだ。


 私を見つけたフレイが、大きく手を振った。


「今日はよろしく頼む、シャロン!」

「――はいっ!」




 〈エルンゴアの楽園〉は、〈聖都ツィレ〉の二つ先――北東にある。街から近いので利用しやすいダンジョンではあるけれど、フレイたちが躓いているように初見では進むのが大変なのだ。

 ただ、道中のギミックこそ多いもののそこまで深いわけではない。理由は、隠居したエルンゴアも街に行くことがあったからとか、ないからとか……。



「おぉ、ここが〈エルンゴアの楽園〉かぁ!」


 三〇分ほど歩いて到着した私は感嘆の声をあげた。

 入り口部分は自然の洞窟そのままで、ぱっと見ダンジョンだとは誰も思わないだろう。しかし私は、洞窟というだけでテンションが上がる。洞窟に入る機会って、そうそうないよね?


「よーし、それじゃあ進もう。今日は毒の通路を越えることが最低限の目標だ」


 入り口は洞窟になっているけれど、少し歩くと大理石の床になる。壁にはランタンがかけられており明るく、非アクティブモンスターが多いので進みやすい。

 私は全員に〈身体強化〉をかける。

 ……さすがにレベル12の〈癒し手〉でこの数の支援は……マナが持たない。〈身体強化〉をしただけで、すっからかんになってしまった。

 もしものときは、〈魔力回復薬マナポーション〉を飲んで頑張ろう。


「これは……〈身体強化〉か! ありがとう、助かる! 案内だけという依頼だったからな……」

「いえいえ。でも私はまだレベル12なので、そんなにお役には立てないですよ」

「十分だ」


 フレイが頷くと、ルーナ、リーナ、トルテも同じように頷いた。


「リュックが軽くなりましたにゃ!」


 トルテはニコニコで、尻尾がぴーんと立っている。猫が尻尾を立てるのは嬉しいときなので、嬉しいと思ってもらえたようだ。


「オーケー、私は前方の偵察!」


 リーナは軽やかにジャンプをし、前に出る。ここで跳んでいるのは、この地帯の床が罠だらけだからだ。でも、見る限り罠の位置をちゃんと把握してるみたいで安心できる。

 私が安心していると、ルーナが横にきた。


「それじゃあ、私たちも行きましょう。シャロンは私の側から離れないでくださいね。何かあれば、すぐトルテと一緒に逃げてください」

「わかりました」


 ということで、まだレベル12だけど――〈エルンゴアの楽園〉の攻略スタートだ。




 歩き出してすぐ、斧を持った〈ゴブリン〉が現れた。

 この世界で初めて見るその姿に、ちょっとドキッとしてしまった。すごく怖い外見ではないけれど、やはり身構えてしまう。トルテよりも少し小さい緑色の体の小鬼だ。

 私からしたらまだちょっと強い相手で倒せないけれど……勇者パーティにかかれば、雑魚も雑魚だろう。


 フレイがすぐに剣を抜いて、大地を蹴った。ものすごい瞬発力で、あっという間に〈ゴブリン〉との距離が縮まっていく。


「わあ!」


 すごい! と思わず声をあげようとしたところで、フレイが剣で斬りかかるよりも早く、リーナの射た矢が〈ゴブリン〉に命中した。そしてスカッと空振るフレイの剣……。


「…………まあ、倒せたのだからいい」


 フレイが大きく息をつき、再び進み始めた。

 すると、今度は数匹の〈ゴブリン〉が出てくる。見た瞬間、フレイが先ほどよりも早く〈ゴブリン〉との距離を取って一匹を切り捨てた。

 さらにその後を追って、リーナが短剣で〈ゴブリン〉を切りつけた。敵が複数いる場合は、後衛ではなく前衛として戦うようだ。


「氷の息吹よ、我がためにその姿を変えて敵を撃て。〈氷柱の矢アイシクルアロー〉」


 ルーナの力強い声が響くのと同時に、複数の氷柱が現れ、〈ゴブリン〉に一直線に向かって突き刺さっていった。実にあっけないもので、残っていた三匹の〈ゴブリン〉が光の粒子になって消えた。

 ――三人とも、強い!

 そこでふと、フレイとリーナにちょっとしたかすり傷があることに気づく。ここは〈癒し手〉である私の出番だ。


「フレイとリーナに〈持続的な回復リジェネレーション〉!」

「「――!」」


 これでかすり傷はすぐ治るだろう。

 後衛二人とトルテにまで〈持続的な回復リジェネレーション〉をかけると魔力が足りないので、私たち三人に何かあったときは〈ヒール〉で対応する。

 レベルが低いから、魔力管理も大変だ……ふう。


「シャロンは〈持続的な回復リジェネレーション〉を使えるのか。レベルが低いと謙遜していたけれど、とても頼りになるな」

「私は一人で偵察に出たりもするから、すごく助かる!」

「お役に立ててよかったです」


 再び沸いてきたゴブリンもなんなく倒し、私たちは先へ進んだ。



 ***



 そしてやってきました、毒霧ゾーン。

 細く長い通路の壁には穴が空いていて、そこから毒霧が吹きだすという罠がある。ちなみに穴は下から上まで無数に設置されているので、ほふく前進しようがジャンプしながら進もうが無意味だ。さらに床にも毒沼のトラップがしかけられている。

 体力を回復しながら進んでいっても、通路の終わり間近に致死性の高い猛毒霧トラップがあるので、そこで一気に体力を持っていかれて死んでしまう。


 ……地味にえげつない罠だ。


 リーナが周囲を見回して、「ほかの道なんてなさそうなんだけどなぁ……」と唇を尖らせている。〈チェイサー〉なのに先へ進む道を見つけられなかったのが悔しいのかもしれない。


 でも、こればかりは仕方がないのだ。この毒霧は、〈エルンゴアの楽園〉で一番プレイヤーを殺したゾーン。

 私は毒霧が噴き出る通路より一〇メートルほど手前まで下がって、壁に右手を当てる。


「そこに通路があるの? 一応、壁は調べたんだけどなぁ」

「あー……すぐには開かないんですよ」

「え?」


 この隠し通路を開くスイッチは、壁に触れて五分経過する……というものなのだ。こんなの、普通にやっていて見つかるわけがない。

 たまたま壁に寄りかかって放置していたプレイヤーがいたため判明した通路なので、攻略方法を探していた全員から『わかるかー!』と大ブーイングがあった。


「五分間このまま待てば新しい通路が現れますよ」

「えええぇぇぇ!?」

「そんな仕組みがあったのか……それじゃあ、わかるわけがない」

「五分は……ちょっと長いわね」

「えぇぇ、全然気づきませんでしたにゃぁ……」


 私が誇らしげに告げると、やはりこのパーティでも大ブーイングが起こった。まあ、その気持ちはわかるので仕方がないが……全員が頭を抱えているので、思わず笑ってしまった。


 それから五分が経過し、隠し通路が姿を見せた。


「おぉ、これが隠し通路か!」

「本当にあったんだ……!」

「やっと先に進めますね」

「すごいにゃ~」


 みんなが嬉しそうに隠し通路を進み始めて、私はふとこの通路に隠されている『宝箱』の存在を思い出した。

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