第14話 宝箱発見
このゲームのダンジョンには、宝箱がある。
その宝箱にも種類があって、一度開けてしまったら二度と復活しないものと、一定時間が経つと再び現れるものがある。
もちろん前者の方が貴重な装備やアイテムを獲得することができる。
――宝箱、ぜひとも開けたい。
でも、ゲームが現実となったこの世界の人たちは、宝箱の存在を知っているんだろうか。隠していないものもあるから、別に知っていても不思議じゃないけど……。
考えながら歩いていると、リーナが「あ!」と声をあげた。
「宝箱があるっ!」
「「「――っ!!」」」
私が悩んでいる間に、先を歩いていたリーナが宝箱を発見したようだ。
通路にくぼみができていて、そこに出現する通常宝箱と――エルンゴアの屋敷にある、初回の宝箱。このダンジョンには、その二つがある。
通常宝箱には、消耗系のアイテム、お金、素材あたりがメインで入っているのだけれど、時たまレアアイテムが出てくることもある。一説では、宝箱が出現してから、誰かが開けるまでの間に中身が豪華になっていく……とも言われている。
……誰も攻略していないのなら、エルンゴアの屋敷にある宝箱はまだあるかもしれない。私はそれにも、ちょっと期待を膨らませている。
「宝箱が見つかるなんて、幸先がいいな!」
「何が入っているのでしょう」
「すごいにゃ! ダンジョンの宝箱は、そうそう発見できないと言われてるにゃっ!」
どうやら宝箱の存在は知られているようだ。フレイたちが表情をほころばせて、嬉しそうに宝箱の元へ走っていった。私も実際に見るのは初めてなので、あとに続く。
宝箱は、木箱に簡単な装飾がされているだけの簡易な作りだ。しかし、宝箱という形状だけでワクワクしてしまう。
フレイが宝箱に手をかけるのを、後ろから覗き込む。
宝箱を開くと、ぱぁっと光り輝いた。
――! 開けたときに光るのは、レアアイテムが出るときのみ。つまり、この中にはいい物が入っているということになる。
「おぉっ、光った!」
「何が出てくるの!? 見つけたのは私なんだからっ!」
フレイとリーナが声を弾ませ、全員の瞳が期待に満ちている。私も見たくて、フレイの肩に手を置いて身を乗り出した。
宝箱の中に入っていたのは、お金、回復薬、短剣、そして私が見たことのないアイテムだった。
……なんだろう?
このゲームは、アイテムがたくさんある。それは重要なものから、使用用途が設定されていないゴミのようなものまで様々だ。私は大抵のアイテムは目にしているので、見覚えがないということ自体が珍しい。よほどのごみアイテムか、あり得ないほど貴重なアイテムかのどちらかだ。
「短剣! それからお金と、回復薬に――なんだろコレ?」
リーナが不思議そうに、不明アイテムを手に取った。
それはレリーフの欠片のようで、何やら彫刻が彫られている。ただ、欠片なので全体図がどんなものかはわからない。
フレイ、ルーナ、トルテも難しい顔でレリーフを見ているけれど、すぐに首を振った。
「わからんな……」
「初めて見ますね」
「でも、なんだか汚れてて古いにゃ」
どうやら誰もわからないようだ。もしかしたらわかるかもしれないと思ったので、ちょっと残念だ。
使用用途が不明で、装備などでもないからか、フレイの意識がすぐ別のものに移る。手に取ったのは、一目で武器とわかる短剣だ。
「とりあえず、回復薬とお金はトルテに持っていてもらうとして……短剣か」
「はいにゃ」
トルテがアイテムをしまうと、フレイが私を見た。
「シャロン、相談なんだが……この短剣、リーナに渡してもいいか?」
「え?」
――なぜ私の許可が?
と、思わず首を傾げてしまった。
「普段、アイテム類はダンジョンの外に出てから分配を決めるんだが、短剣を扱えるのはリーナだけなんだ。見たところこれはいい物のようだし、〈エルンゴアの楽園〉の攻略に役立つかもしれない」
だから短剣を武器とするリーナに装備してほしいようだ。私はなるほど、と頷く。新しく有用な装備が手に入ったのであれば、使わない手はない。
「構いませんよ」
「そうか、ありがとう!」
私がすぐに了承すると、フレイはぱっと笑顔になった。
「……というか、その言い方だと私もアイテム分配をしてもらえるように聞こえるんですけど」
「もちろんだ」
「もちろん……」
まさかの返事に、私は目を瞬かせた。
「私は道案内の冒険者ですよ?」
「だが、〈癒し手〉としての仕事もしてくれているだろう? アイテムを等分する理由としては、十分だ」
なんというか――フレイは、とてもいい人だ。
普通、雇われの荷物持ちや道案内は最初に受けた報酬のみを受け取る。ダンジョンで手に入れたアイテムまで分配してくれるなんて、そうそうない。というか、普通はない。
……でもまあ、もらえるならありがたく分配に混ぜてもらおう。
「リーナ、この短剣を使ってくれ」
「オーケー、ありがとう。シャロンも悪いわね」
「いえいえ」
リーナはフレイから短剣を受け取ると、まじまじと見始めた。鞘から抜くと、薄赤の剣身が姿を見せた。剣身の色が変わっているのは、属性が付与されているからだ。この場合、火属性の短剣ということになる。
「属性短剣!? かなりのレアじゃない!」
「おお、すごいな!」
リーナとフレイが盛り上がっている様子に、私は衝撃を受ける。
確かに属性が付与された武器は使い勝手がいいけれど……あの短剣は〈鍛冶師〉が初期段階で作れるようになる〈スティレット:火〉でレアでもなんでもない。むしろ、リーナが腰に差している〈花雫の短剣〉二本の方が強い。
……まあ、喜んでいるところに水を差す必要もないよね。あれはあれで火属性だから、土属性のモンスターにはそこそこ効果があるはずだ。
えんやこらと道を歩き、出てくるモンスターを倒し、私たちは目的地であるエルンゴアの屋敷まで辿り着いた。
さすが〈勇者〉の冒険者パーティというだけあり、進む速度はなかなかの速さだった。私はこっそり足に〈ヒール〉をかけておいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……体力が……」
「さすがに疲れたにゃ~~」
後衛のルーナは地面に座り込み、トルテも大きなリュックを下して少しだけ休憩している。どうやら疲れ果てていたのは私だけではなかったようで、ほっと胸を撫でおろす。
「ルーナとトルテに、〈ヒール〉」
「! ありがとう、シャロン」
「助かるのにゃ、ありがとうにゃ~!」
「いえいえ」
疲れ果てた二人が立ち上がると、フレイは建物を見上げた。
「これがエルンゴアの屋敷か」
フレイが屋敷を見上げたので、私もつられて見上げる。
「わあ、立派なお屋敷! ここまで頑張って歩いてきた甲斐があった……!」
エルンゴアの屋敷は、レンガ造りの落ち着いた作りだった。
赤茶色の壁に、植物の蔦がかかっている。庭園の部分は珍しい薬草などを採取することができ、屋敷の中にはいろいろな魔導具がある。 広さは学校のグラウンド半分程度だろうか。門があり、ぐるりと敷地を囲っている。
実物で見られるとはと、私は無意識に屋敷を拝む。これほど雰囲気のあるお屋敷はそうそうないだろう。この世界を全部見たいという私の夢に、また一歩近づいた。
「よし、では行くか!」
意気込んだフレイが門のドアに手をかけたのを見て、私は慌ててストップをかける。このダンジョンはギミックが多いのだ。屋敷に入るのにだって、ギミックがあるに決まっている。
「勝手に開けちゃ駄目です! まずはノックして――」
「すまない、遅かったようだ……」
目の前には、数匹の〈ゴースト〉がいた。
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