第12話 勇者パーティとの出会い

「おかえりなさい! 初パーティはどうでしたか?」


 ギルドに着くと、ナーナさんが私たちを迎えてくれた。どうやら、心配でハラハラしていたようだ。


「上手くいったよ。紹介してくれてありがとう、ナーナさん」

「よかったです。では、依頼の確認をしますね」

「「「お願いします!」」」


 私たちはそれぞれ〈ギルドカード〉と〈薬草〉を渡して、依頼の確認をしてもらう。

 簡単に説明すると、〈ギルドカード〉にはモンスター討伐が記録されている。それを見て、依頼のモンスターを倒したか判断しているのだ。

 ちなみにレベルとスキルも表示されるので、〈冒険の腕輪〉を持たない人は〈ギルドカード〉で自分のレベルを確認しているのだろう。


 ナーナさんは、記録から今日の成果を確認してくれた。


「〈ウルフ〉討伐が二三匹と〈薬草〉が五束。はい、確かに。報酬です」

「ありがとうございます」


 受け取った報酬は、〈ウルフ〉討伐が二万六〇〇〇リズ。薬草五束が五〇〇〇リズ。

 今回の報酬の分配は、何か使った消耗品があれば経費として報酬から引いて、残りをきっちり三等分することになっている。

 報酬を目にしたケントとココアは、目をキラキラさせた。


「わあぁ、今日はご馳走にしなきゃ!」

「肉だ、肉を食べよう!」


 わかる。何かを達成したあとは肉に限ります。私は完全に同意して、どんな料理があるだろうと想像を膨らませる。牛肉でステーキもいいけれど、串焼きなどもとっても美味しいのだ。

 三人でご飯は楽しそうだと考えていると、急に入り口付近がざわつき始めた。見ると、三人の女性と、〈ケットシー〉という種族の女の子の四人パーティがいる。私と同い年くらいだけれど、装備や雰囲気を見る限り高レベル冒険者だ。

 ナーナさんが「本物……!?」と驚いているので、たぶん有名な人なのだろう。四人のうちの一人が、ギルド内を見回して口を開いた。


「すまない、ダンジョン〈エルンゴアの楽園〉の構造に詳しい者はいないだろうか?」


 深紅の髪の女性の言葉に、ギルド内がざわついた。



 〈エルンゴアの楽園〉とは、〈賢者〉エルンゴアが余生を過ごすために作った屋敷があるダンジョンのことだ。

 あまり人間が好きではなかったエルンゴアは、簡単にダンジョンの奥地へ行けないよう、様々な罠とギミックを設置した。面倒なダンジョンなのだけれど、エルンゴアの屋敷の裏手に希少な薬草があるので、それを採取するために訪れる人が一定数いる。



「入って二区画ほど進んだ先、毒の霧で進めないんだ。あれを止めるスイッチがわかれば……」


 かなり切実な様子だが、声をあげる冒険者はいない。ナーナさんも、困ったような表情で女性を見ている。

 ……毒霧の情報くらい、教えてあげたらいいのに。

 確かにあそこを進む道を発見するまでは、かなり大変だった。何人ものプレイヤーが先に進む方法を考えた。毒を受けて回復しながら進んでみたり、限りなく毒耐性を上げて進んだり……しかし、結果は惨敗。私もかなり大変な思いをさせられた。


「あれはスイッチじゃなくて、すぐ横に迂回できる通路があるんですよ」

「え……っ!?」


 だから、懐かしくて、ぽろっと口から零れてしまった。私の言葉を聞いた女性は、目を大きく見開いた。

 実は毒霧トラップを止めるためのスイッチがあると信じて、私もかなり周辺を探し回った記憶がある。しかしなんてことはない、ただ別の道があるだけという話だった。つまり、毒霧は本来の道のダミーなのだ。


「わかりづらいんですよね」


 私がそう言って笑うと、聞いてきた女性ではなく、カウンターにいたナーナさんが声を荒らげた。


「まだ誰も攻略できていない情報なのに、なんでシャロンさんがご存じなんですか……!?」


 ――なんですと!?

 私は思わず手で口元を押さえた。どうやら私がプレイしていたゲーム時代よりも、今はダンジョンやアイテムなどの情報が極端に少ないようだ。これはうっかりにもうっかりなことを言ってしまった……。


 私は目を閉じて思案する――までもなく、さささっと後ろに下がる。


「では、失礼しま――」


 ――す。と言い終わる前に、深紅の髪の女性にガッと肩を掴まれてしまった。Oh……。しかも〈猫のローブ〉を着ているのにまったく反応できなかった。この人、強い……!


「すまないが、〈エルンゴアの楽園〉の案内をお願いしたい。もちろん報酬は十分用意させてもらう!」

「え……っと……」


 はてさてどうしたものか。

 正直、今はイグナシア王子のことがあるからあまり目立ちたくはないのだが――ハイ、すでに十分目立っていますね。

 ……しかたない。私も〈エルンゴアの楽園〉にある薬草は採取しに行きたいと思っていたし、引き受けるのがよさそうだ。それに、〈エルンゴアの薬草園〉を見てみたいという欲もある。薬草が芽吹くあの場所は、とても神秘的で美しいに違いない。


「わかりました。私にわかる範囲でよければ、案内します」

「ありがとう!」


 私が了承の返事をすると、深紅の髪の女性はとびきりの笑顔を見せた。


「自己紹介がまだだったな。私はフレイ、職業ジョブは――〈勇者〉だ」

「え」


 思わずフリーズしてしまったのも仕方がない。だってまさか、〈勇者〉に出会うなんて思っても見なかった。

 〈勇者〉という職業ジョブは『ユニーク職業ジョブ』といい、私の〈癒し手〉などとは違いたった一人しか就くことのできない職業ジョブなのだ。

 それはゲーム時代も同じで、世界中にプレイヤーがいるにもかかわらず、一人しかなれなかった。しかも、条件がかなり特殊なようで、転職の仕方が判明していないユニーク職業ジョブも多い。


 これはざわつくはずだぁ……と、今更ながらに思った。そして街の門のところで話していたのが、フラグだったのかと苦笑する。


「まあ、〈勇者〉だからって気を使ったりはしないでくれ。名前も、フレイと呼び捨ててくれて構わない」

「わかりました……。私はシャロン、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む!」


 握手を交わしつつ、私はフレイを見た。

 深紅の髪と、力強い水色の瞳を持つ人だ。長い髪は藍色のリボンで一つに結び、上半身を守るようにつけているアーマーは、〈グラシオスの鎧〉という装備だ。腰の剣は〈聖剣グラシオス〉で、中堅プレイヤーが繋ぎで使うことの多かった武器だ。

 だけど、この世界で手にするにはかなり大変だったのでは……と思う。


 次に、フレイはほかのメンバーを呼んだ。


「それから、うちのパーティメンバーだ」

「私は〈ウィザード〉のルーナ。よろしくお願いいたします」

「私は〈チェイサー〉のリーナ。ルーナの双子の妹だよ、よろしくね!」

「わ~、新しい仲間ですにゃ。私はお手伝いをしていますトルテですにゃ」

「よろしくお願いします」


 私はほかのメンバーとも握手をし、笑顔をみせる。

 全員、嫌悪はしていないのでほっとする。見るからに初心者装備の人間は、案内だとしても足手まといになってしまうからだ。

 ――まあ、私は立ち回りを把握しているから、モンスターから攻撃を受けることはほぼないけれど。



 薄水色の髪を右でサイドテールにしている、〈ウィザード〉のルーナ。

 アンバーの瞳の、落ち着いた双子のお姉さんだ。深みのある水色を基調としたローブは水色の装飾が付けられていて、白のタイツとローブと同じ色のショートブーツを履いている。手には長杖の〈雫花の杖〉を持っているので、水系統の魔法が得意なのだろう。



 薄桃色の髪を左でサイドテールにしている、〈チェイサー〉のリーナ。

 ルーナと同じアンバーの瞳だけれど、勝気なのが見てわかる。暗い赤色を基調とした装備は、動きやすさ重視の胸当てと、短い厚手のマントをつけている。へそ出しルックショートパンツをはき、腰に短剣をつけ背中には弓と攻撃面は多彩そうだ。〈チェイサー〉は斥候などの役割をこなすこともでき、パーティに一人はほしい人材でもある。



 二足歩行の可愛い猫ちゃん、〈お手伝い〉のトルテ。

 身長は八〇センチメートルほどの二頭身の〈ケットシー〉の女の子で、ピンとした耳の先が黒い茶トラの〈ケットシー〉だ。人間よりも猫に近い容姿をしていて、顔周り以外の体がもふもふだ。草色を基調とした上着に、ふわりと広がる白いスカートをはいている。背中には、フライパンがぶら下がっている大きなリュックを背負っている。

 この〈お手伝い〉はちょっと特殊な職業ジョブで、いわゆる冒険のサポートキャラクターだ。ゲーム時代はNPCを雇うこともできた。

 何をするのかというと、冒険中の料理や荷物持ちなどをしてくれる人のことをさす。



 回復職がいないけれど、パーティの構成はしっかりしていると思う。全員女性なので、変ないざこざが起ることがなさそうなところも好感を持てる。


「今日はもう遅いから……明日の朝に出発というのはどうだろうか?」

「わかりました」


 フレイの提案は問題ないので、明日の朝に冒険者ギルドで待ち合わせということになった。

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