第11話 薬草採取

 はてさて……私はどういうことだろうと頭を悩ませる。スキルを複数覚えることは、なんら珍しいことではない。ゲーム時代のNPCだって、複数のスキルを覚えていたからだ。

 よくわかっていなそうな私を見かねたのか、ココアが説明をしてくれた。


「えぇと……最初は、同じスキルのレベルがマックスまで上がっていくんです。そのあと、ほかのスキルを覚える……っていうのが普通で……」

「だいたい、レベル6くらいで初めてスキルを覚えるんだ」

「なるほど……?」


 私は目をつぶって、どういうことだと頭の中を整理する。ココアとケントの話が本当ならば、スキルを自分で選んで覚えられない、ということになる。そんな不便なことがあるだろうか……?

 でも、そうか……私たちは〈冒険の腕輪〉をつかってスキルを獲得してたけど、ほかの人はそれがないから自動でスキルを取得しちゃってるんだ……!

 おそらく、スキルポイントをためて置ける上限が5で、以降は勝手に割り振られるのだろう。まさか〈冒険の腕輪〉を作らないことに、こんなデメリットがあったなんて……!! ちゃんと最初に作っておいてよかった。

 ほっと額の汗を拭う。


「ま、レベルを上げれば新しいスキルを覚えるから、結果はあんまり変わらないんだけどな」

「私も今は〈ファイアーボール〉しか使えないけど、すぐ次の属性スキルを使えるようになってみせるよ!」


 すごいことだと言いつつも、二人はそこまで気にしていないようだ。変に追及されても説明に困ってしまったので、ありがたい。

 ――〈冒険の腕輪〉は、現実になったこの世界では、すごく意味のあるものになったみたいだね。

 自分が持っているのはゲーム時代の情報なので、この世界の情報をきちんと集めつつ比べた方がいいかもしれない。




「ココア、シャロン、〈薬草〉があったぞ!」

「本当!? って、ケントこれ……〈毒草〉だよ」

「え!?」


 ウルフの討伐が終わったので、私たちは採取依頼の〈薬草〉を探している。ケントは〈薬草〉と〈毒草〉の見分けが上手くできないようで、大苦戦中だ。


「これが〈毒草〉? 〈薬草〉じゃないのか?」

「ケントは昔から剣の素振りばっかりで、山菜取りも採取もしなかったんだから……。〈薬草〉は丸みを帯びた葉っぱで、〈毒草〉はギザギザしてて葉の裏がちょっと濃い色なんだよ」


 見分けのついてないらしいケントに、ココアがお小言を言いながら教えている。

 正直、私もあまり詳しい特徴は知らなかったので助かってしまった。ゲームアイテムとして見たことはあったけれど、実際に触るのは初めてだ。なんだか楽しい。


 それにしても……。


「二人は仲がいいね」

「私とケントは幼馴染なの」

「え、そうだったんだ」


 話を聞くと、二人は〈牧場の村〉の出身らしい。〈聖都ツィレ〉の三つ下にある村で、私がこの国に来るときも通ってきた。動物がたくさんいるので、また行きたいと思っていた場所だ。


「俺が一五で、ココアが一四。俺が冒険者になるって村を飛び出したんだけど、ついてきたんだ」

「ちょ、ケントだけだと絶対に無理だと思ったから! 現に今だって、〈薬草〉も採取できなかったじゃない!」

「仲良しだねぇ」

「「よくないよ!」」

「わあ、息ピッタリ」


 思わず拍手すると、顔を赤くして「「そんなことない!」」とこれまた息ピッタリのお返事をいただいた。

 最初のころより素が出てきたであろう二人に、私は笑う。冒険中の、こういったちょっとしたやりとりも大好きだ。


「あはは」

「もう、シャロンってば……あ、〈薬草〉発見!」

「くそ、俺だって――って、〈ウルフ〉だ!」


 〈薬草〉と〈ウルフ〉のダブルだ。けれど、連携にも慣れてきた私たちに〈ウルフ〉はもう敵じゃない。


「よーし、行くよ! 〈身体強化〉!」

「炎よ、我に力を! 〈ファイアーボール〉!」

「俺だって剣の腕を見せてやる!!」


 私たちはワイワイしながら、〈ウルフ〉討伐の依頼と、〈薬草採取〉の依頼を無事に達成することができた。初めてのパーティにしては、かなりいいと思う。

 私のレベルは12まで上がった。



 ***



 歩いて街まで戻ると、門のところがざわついていた。人が多いのはいつものことだけれど、騒ぎが起きるようなことはそうそうない。

 私たちがなんだろうと顔を見合わせていると、周囲の人たちの話声が聞こえてきた。


「なんでも、勇者パーティが来てるらしいぞ」

「え、隣国の王子様が来てるって話じゃないのか?」

「どっちの情報が正しいんだ!?」


 ――え。

 隣国の王子様といえば……私に『笑いもしないつまらない女は世界平和でも祈ってろ』と言った奴のことだろうか? せっかく冒険をしていたというのに、楽しい時間に水を差さないでほしい。私の気持ちは一気に急降下した。

 というか、イグナシア殿下にとってここは敵国じゃないの!? という疑問が浮かぶ。だというのに訪問するとは、いったいどういうことなのか。ああ、頭が痛い……。


「シャロン、どうしたの?」

「あ、うぅん。依頼の報告に行かなきゃね」

「うんっ!」


 元婚約者のことは聞かなかったことにして、心配してくれたココアたちと一緒に冒険者ギルドへ向かった。

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